アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

100 夜襲

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見上げる高さ。
例え騎馬で襲来する盗賊団であろうと、或いは魔獣の襲撃であろうと、救援が来るまで暫くは耐え得るであろうと住む者からの安心感も大きい、周囲を堅固な塀に囲まれたデニーホッパー村。
そんな村の堅固な塀も中からの開放には弱かった。

ギギギーーー

西門を開けた数分後、男は東門も開けた。

「よーし。予定通りだな。野郎ども、行くぜ」

おおー
うぉー

一斉に大声が上がった。
その数歩行100人弱。
騎馬も10騎ほど。
東西二手に分かれる、凡そ百人近くの大盗賊団だ。

盗賊団の新入りは、ブッヒーの養豚場をクビになった男。
この日の昼、何食わぬ顔で村に入り夜半まで身を潜めていたのだ。
堅固な塀で囲まれたデニーホッパー村の門扉を内側から開けたのはこの男だった。

盗賊が村を襲う。この世界ではさして珍しいことでは無い。
ただそれが領都ヴィンサンダー領から1日2日の距離にあるのは問題だった。
領都至近では、先のノッカ村近郊でも盗賊が現れた。
機を見るに敏な盗賊団。
領地に住まない領主を筆頭に、組織であるヴィンサンダー領自体の脆弱性を察した盗賊団の知恵といえよう。


デニーホッパー村には騎士の詰所はもちろんのこと、1人の騎士もいない。もちろん宿泊施設もなく、冒険者は1人もいない。
居るのは若干金めぐりの良くなった農民だけ、のはずだった。
手引きをした男も農民しか居ないと報告をしていた。
だが、盗賊団にも手引きをした男にも大きな誤算があった。
村の教会には、ディル神父、シスターナターシャ。農民にはアレク。そしてこの日に限って、教会にはモンデール神父が泊まっていた。





突入を前に。
深夜に上がる鬨の声。

おおー
うぉー

一斉に村内に侵入する騎馬と徒士の男たち。

おおー
うぉー

東門からも、西門からも、一斉に大声が上がった。


【  教会side 】


「「「賊か!」」」

モンデール神父が、ディル神父が、シスターナターシャが。
即座に飛び起き教会の外に出る。
それと同時、教会前の村を東西に繋ぐ中央の道を駆け込んで来る騎馬の盗賊数騎を一閃する3人。

小柄な老神父は見る者に美しさまで覚えさせる正統な太刀筋をみせ、騎乗の男を斬り伏伏せた。

長身の神父は獣人族もかくやとする圧倒的な脚力で馬ごと盗賊を吹き飛ばした。

最も荒事には無縁に見えるシスターもまた、手にした槍を十全に扱い、襲い来る男を落馬させ、昏倒させた。

月夜。

荘厳な女神教教会を背景に、3人は神に仕える奉仕の人ではなく歴戦を経た戦人、或いは戦乙女の姿だった。

「師とシスターは各個撃破をしつつ西門を頼んでも宜しいか。私は東門へ」

「「わかった(はい)」」

東へ、西へ。
3人は疾る。
わらわらと現われる盗賊は数知れず。
圧倒する脚力で盗賊を薙ぎ倒していくモンデール神父がいる。
剣戟と呼ぶにはあまりの実力差。寄せ来る盗賊を斬り結ぶまでもなく一刀の下、斬り捨てていくディル神父がいる。
長身を活かした槍術は、盗賊の間合いにも寄せつけず一合ごとに倒していくシスターナターシャがいる。

3人のそんな無双とも言える姿に盗賊の過半数は恐れ慄いた。
が、夜半ともあり自身の欲に忠実な盗賊も少なからずいた。

キャー
いやー
助けてー

そんな盗賊に遭う農民は不運だった。


【  ニャンタside  】

デニーホッパー村の最奥。なだらかな丘に建つ3軒で。
夜半。
ほぼ同時刻に、ニャンタ家、チャン家、ヨゼフ家の3軒の誰もが目を覚ます。

(盗賊か!)

山猫獣人の俺の言い知れぬ不安感は、耳に届く悲鳴とともに確信へと変わった。
刀と弓を手にし、妻と娘を引き寄せる。

「あなた‥」

「お父さん!」

心配する妻と娘の不安そうな顔色は月明かりの下でもはっきりと分かった。
俺は身重の妻をしっかりと支える。

「大丈夫だ。ジャン君とアレク君の家へ行くぞ」

「「ええ(うん)」」

家を飛び出るとチャンの家族、ヨゼフの家族もいた。3家の皆んなが集まる。家族同様、あるいはそれ以上に親しく付き合う仲間だ。

「盗賊だ」

「「ああ」」

農具の鍬や鋤を手に、チャンとヨゼフも頷く。

(ここは俺が先頭に立って‥)

俺が口を開くその前に。
アレク君が言葉を発した。

「俺とニャンタおじさんは、父さんとチャンおじさんを守りつつ教会へ向かうよ。教会に着いたら父さんとニャンタおじさんは村の自警団を指揮して。チャンおじさんは村長として被害者をまとめて。みんながその役割を果たしてね」

「「「ああ(わかった)」」」

俺を含めて3人が当然のようにアレク君に従った。
あのとき、俺もヨゼフもチャンもアレク君を子どもだなんて思わなかったんだ。


【  アレクside  】

「アレク起きて!」

シルフィが叫ぶ。

「ああ、わかってる」

俺は刀を背負い、弓を肩にした。

村のはずれ。
小高い丘の上に建つ仲良しの3軒。
村の方から悲鳴と勝鬨の喧騒が聞こえる。
これは間違いない。盗賊団だ。

家の前に3軒のみんなが揃う。
瞬時に現状を、誰もが理解した。
盗賊はすぐにもここに来るだろう。
躊躇なく俺は決断し、みんなに伝える。

「俺とニャンタおじさんは、父さんとチャンおじさんを守りつつ教会へ向かうよ。父さんとニャンタおじさんは村の自警団を指揮して。チャンおじさんは村長として被害者をまとめて。みんながその役割を果たしてね」

「「「ああ(わかった)」」」

「ジャンはおばさんとチャミー(1歳になるジャンの妹だ)を頼むよ」

「わかった」

「アンナは身重のおばさんを頼むよ」

「アレク、私こわい‥」

「大丈夫だ。俺がみんなを必ず守る」

「アレク、俺も父さんたちと‥」

「いや、ジャンはここでみんなを守ってくれ」

「わかった」

「母さんはみんなと地下室へ隠れて」

我が家には収穫した芋や雑穀等の保存用に、俺が錬成した地下室がある。
3軒、10人くらいは余裕で隠れられる。

「わかったわ」

「「お兄ちゃん!」」

スザンヌとヨハンが俺に抱きついてきた。
俺は2人を強く抱きしめて言った。

「俺に任せろ。じゃあみんな早く行って」


(しっかりしろ!
大丈夫か俺?
ああ俺は大丈夫だ。
あのときのように、もう守られるばかりじゃない!)


なぜか冷静な俺がいた。
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