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第2章 幼年編
99 異変
しおりを挟む俺の中でヴィヨルド行きの気持ちが固まった。
シスターナターシャとディル師匠に、ヴィヨルドの領都学園に進学したい希望を伝えた。この思いはモンデール神父様にも伝えられた。
モンデール神父様は、領都学校の校長として、ヴィヨルド領都学園への推薦入学を決めてくれた。
「アレク君、ヴィヨルドとの繋がりも大事だよ。誰とどう縁を繋ぐのかは君が考えなさい。これまでと同様だね。期待しているよ」
「はい、校長先生ありがとうございました」
シルフィがお世話(入り浸ってる?)になっている医務室にも挨拶に行った。
(残念ながら俺はあの火傷以外、怪我をしていない)
「ヴィヨルドでも頑張ってね」
エルフの美人女医ケイト先生からも激励された。
「アレク頑張ってね」
「シーナもシルフィと仲良くしてくれてありがとうな」
ケイト先生のシルフ・シーナも激励してくれた。
「アレクのことまかせて!私が守るわ」
(なぜかシルフィ気合い入ってます)
みんなが応援してくれている。
俺はみんなの応援に応えたいと思った。
▼
ニャンタおじさんと行く魔獣狩りも後わずかだ。
今日はけっこう遠出してきている。
ちょっと前にシルフィときた南のベイマレー山脈の麓だ。
ここは魔獣も多い。
獣道を先行するニャンタおじさんが、腰を屈めて急に立ち止まった。
「アレク君、引き返すぞ」
「えっ?来たばかりだよ?」
ニャンタおじさんは言うな否や、躊躇なく足早に進んできた山道を降り始めた。
(なんだろう?)
そういや少し前、シルフィも変なことを言ったあと、帰るのが早かったよな。
ニャンタおじさんもそんな感じだ。
これって‥
なんとなく俺もわかってきた。
シルフィもニャンタおじさんも危険察知というか、異常なことに対しての判断が早い。
判断力の早さ、これは大切なことなんだろう。
ぐずぐず躊躇してたらダメなんだということなのかな。
第六感?虫の知らせ?
なんかヤバいって思ったら、後退することも大切なんだろうな。
3エルケ(3㎞)ほど戻って、立ち止まったニャンタおじさんがはじめて口を開いた。
「アレク君、勝つことはとても大事だ。同じように、負けても死なないことや退くことは勝つことと同じくらい大事だからね」
「死なないこと?」
ニャンタおじさんがやさしく俺に説いて聞かせるように話してくれる。
「今道を戻ったのはね、前方に自分より強い魔物か何かがいると思ったからなんだよ。
ヒューマンより感覚を大事にする獣人は、自分が思った異常事態に従うんだ」
「うん、ニャンタおじさん。なんとなくそうかなって思ったよ」
ニャンタおじさんがにこりと大きく頷く。
「その直感が間違えてたって後から気づいてもいいんだよ。間違えたら元に戻せばいいだけだからね。だけど不幸にしてその直感に従わずに何か起きたら‥」
首を左右に振ったニャンタおじさん。
「おじさんはこんなふうにして今まで生き残ってこれたんだ」
「うん。ニャンタおじさんが言ってくれる意味、なんとなくわかるよ」
「うんうん、アレク君も少し大人になったな!」
父さんを含めて、ニャンタおじさんやチャンおじさんは、俺の小さなときからの身近な先生だ。
「ニャンタおじさん、俺春からヴィヨルドの領都学園に行くつもりなんだ」
「聞いてるよ。アンナが寂しがってるがな」
「うん。俺もアンナやジャン、みんなと別れるのは寂しい。だけど俺、今やるべきことをやらないのはダメだって自分で決めたんだ」
「『男は決めたら最後までやり通せ』おじさんの親父が昔よく言ってた言葉だよ」
「うん。俺もやり通すよ」
「よし!帰るか」
「うん」
▼
その日の深夜。
夜間。
保安目的で閉じられているデニーホッパー村の門が内側から開けられた。
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