アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

094 慢心

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バザーに来てくれたポンコーさんたちのんのん村のみんなへお礼を兼ねて遊びに行った。
すると頭に包帯を巻いて横になっているポンコーさんが迎えてくれた。ポンコーさんは怪我を負ったようだ。
寄り添う奥さんもなんとも言えない顔をしていた。

「アレク君、昨日領都へ行く途中に盗賊に遭ったんだよ。領都に近いこんな場所で盗賊が出るなんて思いもしなかったよ。
幸い殴られたくらいで済んだからよかったんだけどね。領都に買出しに行ったお金は盗られたけどね」

「お金なんてまた頑張ればいいのよ。それよりも生命があってよかったわよ」

ポンコーさんの奥さんが言うとおりだ。

「とにかくポンコーさん無事でよかったです」

今後は領都の騎士団の見廻りも強化するそうだ。
盗賊は許せないよな。お金だけならまだしも、ポンコーさんを殴る必要なんかないのに!



帰途。

「アレク、前から変な連中が来るわ」

シルフィが不穏な雰囲気を纏った男たちを捉えた。
前方から3人の男が来る。
3人は俺を取り囲むようにして刀の鞘を抜いた。

「小僧、金目のものを置いてけ」

「あのー農民の子どもにお金があるわけないでしょ」

「はっはっは。そりゃそうだ、うんうん」

変に納得している男たちだ。

「アレク、こんな奴等ギッタンギタンにしなさいよ!」

(ギッタンギタンって)

当たり前だが、前を飛ぶシルフィに男たちの誰も気づかない。

「小僧、背中にいい剣持ってるな。そいつを置いていったら生命は助けてやろうか」

「俺たちゃやさしい盗賊だからな。生命までは盗らないでやるよ」

「最近稼ぎが少ないから腹いせに2、3発は殴らせてもらうがな」

へへへ。
そいつはいいな。

1人の男のその言葉に2人がへらへらと笑って相槌を打つ。

「腰の小刀も置いていけ。」

「嫌だって言ったら?」

「威勢のいいガキだな。そうか、じゃあ死んどけや」

ブンッ!

言うが否や、いきなり刀を振り抜いた前方の男。腰も入ってない、まるで話にならない踏み込みだが、その男の躊躇のなさに俺の怒りに火がついた。

振り抜いた男の刀を避けたバックステップのまま、握った小刀の柄(つか)の柄頭で後方の男の顎を撃ち抜く。

ガクン

白目を剥いて倒れる男。

ダンッ!

次いで突貫を纏った俺は右手側の男の後方に回り込み、後頭部を鞘で殴りつける。

ガンッ!

この男もまた気を失い倒れる。

「な、な、なんだお前は!くそー死ね、死ね、死ねー!」

最初に刀を抜いた男はその威勢もどこへやら、震える刀で無闇矢鱈に刀を振り続けた。俺はその刀を丁寧に避けながら、男の疲れを待ってから、突貫。鐺(こじり)を男の鳩尾に撃ち込んだ。

ガフッ

倒れ込む男。

3人の盗賊を倒した。
その後、男の衣を裂いて紐として後ろ手で縛っているところを通りすがりの商人に領都の騎士団詰所に連絡をしてもらう。

「こいつら盗賊です。騎士団に連絡をお願いします」



「アレクお疲れー。あんな奴らアレクの敵にもならないわねー」

「はは。シルフィ教えてくれてありがとうな」

うん、やっぱり俺、かなり強くなってるわ。



そのまま村に帰った俺は、こんなことがありましたと師匠とシスターナターシャに報告をした。

しばらく黙って聞いていた師匠とシスターナターシャ。

(褒められるのかな)

パンッ!

師匠に頬を叩たかれた。

えっ!?

なんで?

師匠から頭や身体中はふだんから叩かれまくってはいるが顔を叩かれたのは初めてだ。痛さよりも唖然とした。
師匠が初めて聞くような厳しい声色で言う。

「アレク、なぜ叩かれたかわかるか?」

「‥わかりません」

シスターナターシャが師匠に叩かれた俺の頬を優しく両手で包んだ。師匠に叩かれたのと同様に呆然とする俺。
そしてシスターナターシャからもゆっくりとそして強い口調で言われた。

「アレク君、なぜ叩かれたかわかる?」

シスターナターシャは俺の目を真っ直ぐ見て言った。
シスターナターシャの真っ直ぐなその視線に応えられず、ただ沈黙し俯く俺。

(なぜ?俺、何か悪いことした?悪い奴等を捕まえただけじゃん)

しばらくして。
師匠が俺の頭にやさしく手を置いて言った。

「もし賊が毒物を使っておったら?」

「もし死んでもお前はそれで満足か?」

「チューラットの猛攻」ということわざを知っとるな。

「はい‥」

ああ、昔習った窮鼠猫を噛むと同じ意味のことわざだ。弱いチューラットも追い詰められたら反撃してくる。
ああ、たしかに俺は得意になっていた‥。

「すいません・・・」

ぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。

「わかりゃいい」

師匠はじっと俺を見つめてうなづいた。
俺は反省しきりだった。「匹夫の勇」という言葉が浮かんだ。
血気にはやる愚か者の勇気だったよな。
俺は慎重さも何もない、強くなったと勘違いしたただの愚か者だった、、。
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