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第2章 幼年編
092 バザーとヤキモチ
しおりを挟む村のあちこちに見たことのない人たちがいるなあと思ってはいたけど‥
「えっ?!マジか?」
人、人、人。教会の周りにはおそらく、いや間違いなく開村以来の人たちが大挙して訪れていた。
何かと話題のデニーホッパー村の年に1度のバザー。
娯楽に乏しいこの世界では、バザーも娯楽のひとつとして捉えられて集客につながっているのだ。
出し物には、王都からの吟遊詩人の語りもあった。
もちろん子どもたちの合唱もあった。
「アレク先輩もぜひ参加してください!」
後輩に乞われた俺も合唱に参加したのだが‥
「アレクちゃん‥よかったわよ」
優しく笑ったマリア母さんが俺の頭を撫で撫でした。
「「アレク君‥よかったわよ」」
次いでジャンのお母さん、アンナのお母さん、シスターナターシャ、サンデー商会のシルカさんたち俺の知っている女性陣みんなから順番に頭を優しく撫でられた。共通してみんながとても優しく微笑みながら。
さらにはのんのん村のシスターサリー、ポンコーさんの奥さんにも頭を撫でられた。
なぜ?
うーん、やっぱり解せん。
その後、アンナの独唱もあった。久しぶりに聴いたが、アンナ歌声はやっぱり素晴らしい。
アンナの美声に教会まわりの騒音が一瞬にして静寂に変わったくらいだ。そして歌い終わったあとには大きな拍手と歓声も起きた。誰もがアンナの美声に聞き惚れていた。
▼
「おーいアレクー」
聴き覚えのある声のする方を振り向くと、見るからに冒険者の親子がいた。ウルだった。
ウルが遊びに来てくれた。
「父さんの仕事で、ヴィヨルドに帰ることになったからその前に寄ったよ」
「うっすー」
2人ハイタッチをする。
「君がアレク君かい。ウルが世話になったね」
ウルの父さんは、狼獣人の冒険者だ。精悍な顔をした、いかにも強そうな外観だった。
「いえ、俺の方こそウルに鍛えてもらいました」
「ハハハ。ウルにさんざん聞いたよ。アレク君はとっても強いって」
「いえ、ウルが強すぎるんですよ」
「わはは。アレク、俺のことは師匠と呼びたまえ!」
「くそー。そのうちギャフンと言わせてやる!」
俺たちの親密さにウルのお父さんも安心したようだ。
「ウルと仲良くしてくれてありがとうな。じゃあアレク君、済まないがしばらくウルの相手をしてやってくれるかい?」
「オヤジは?」
「俺か?せっかくデニーホッパー村に来たんだぞ。ディル神父様に会わなきゃいかんだろう」
「え?おじさん、師匠を知ってるの?」
「そりゃ知らんかったら冒険者のモグリだよ。おじさんたちがまだ冒険者になりたてのころからあの人は超有名な憧れの人だったんだよ」
「へぇー」
「ディル神父様って確かアレクの師匠だよな」
「ああ。俺の鬼師匠だよ」
「アレク君素晴らしい師匠に教えてもらって、おじさんも羨ましいぞ。じゃあまたあとでな」
ウルのお父さんは嬉々として教会の中へ入っていった。
俺はウルに村の案内をしつつバザーを楽しんでもらう。
「あーウル君じゃん!」
「おぉ、シャーリー。シャーリーもデニーホッパー村だったのか」
「そうだよー。ウル君久しぶりだねー」
「ねーねーシャーリー、この人は?紹介してよー」
「この人はウルガンディ君。領都学園で友だちだったんだよ」
「こんにちは。ウルガンディです。領都学園では転校生の俺にシャーリーやアレクが仲良くしてくれたんだ」
「そうなんだ。私アンナ。アレクやシャーリーの幼馴染なの」
「今の歌、アンナちゃんだよね。すごく上手かったよ」
「ありがとう!」
「アンナちゃんの歌、俺、聞き惚れちゃったよ」
「えーアレクの友だちに聞かれてたなんて、なんか恥ずかしいな」
(うーん、さすがスマートなウルだぜ)
その後、ウルを交えて俺たちは仲良く過ごした。
(後輩たちのお店も忙しいながらもなんとか回っていた)
「これ、村自慢の肉団子なの。アレクが作ったんだよ、食べて」
「うん、こりゃ美味い」
「これもアレクが作ったコロッケ。美味しいよ」
「モグモグ。これも旨いなあ」
「ケッ!」
「ジャン、なんか不機嫌だなー」
「だってなーアレク‥。そりゃ男前だし‥」
アンナがウルを気にしているように見えた。
(うん、アンナもかわいいし、ウルもイケメンだしな。お似合いじゃないか!)
アンナはアレクにやきもちを妬いて欲しいのだが、もちろんアレクは気づかない。
ウルに世話を焼くそんなアンナにジャンはやきもちを妬いた。
「ウル君、これも美味しいよ。食べて」
アンナがウルに肉団子(TUKUNE)やポテトフライなどを薦める。
「うん。旨い!」
「これもこれもね、アレクが作ったんだよー」
「へーアレク、すごいなー」
2人の雰囲気がいいよなと思う俺。
なぜか何も言わずにニコニコしているシャーリー。
(それにしてもウルとアンナ。美少年に美少女の組合せだなー。なんか似合うよー)
(あーアレク君‥相変わらずわかってないわー。アンナはやきもちを妬かせたいんだよ)
ウルに甲斐甲斐しく世話をするアンナを見て、俺はなんだかほっこり幸せな気持ちになった。
シャーリーとウルが、なぜか俺を生暖かい目で見ていた。
なぜだろう?
しばらくしてウルのお父さんが戻ってきた。
「ウル。ぼちぼち帰るか」
「ああオヤジ」
「アンナちゃんも今日はありがとう。おいしかったよ。シャーリーもありがとうな」
「うん、ウル君また遊びに来てね」
「ああ」
ウルとシャーリーがコソコソ話をしていた。
(シャーリー、アレクはアンナちゃんの気持ちにもシャーリーの気持ちにもぜんぜん気づいてないぞ)
(やっぱり‥)
(シャーリーも苦労するな‥俺は応援してるからな)
(あはは‥)
「アレク、剣と一緒で、お前は素直過ぎるんだよ。お前‥もう少し大人になろうな」
ウルが俺の肩に手を置いて言った。
(あっ!その顔は大人がいつもやるやつだ!)
「えっ?俺何かした?」
ウルは俺をかわいそうな人を見る目で見て、シャーリーとうなづき合っていた。
「「ウル君、じゃあまたね」」
「シャーリー(アンナ)‥」
「「ジェラート食べに行こう!」」
「「うん!」」
2人が手を繋いで行ってしまった。
ん??
「久しぶりに会えて嬉しかったよアレク。ぼちぼち帰るよ」
「ああウル。また、必ずまた会おうな」
「ああ」
「ウル、たぶん俺は来年からヴィヨルドの領都学校に行くからな」
「また会えるよな?」
「ああ、たぶんな」
ウルのお父さんもうなづいていた。
「アレクまた会おう」
「ウルまたな」
ウルはヴィンサンダー領へ帰っていった。
その後、バザーも大盛況の内に幕を閉じた。
祭りの後の寂しさ。
そんな想いにもなる俺だった。
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