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第2章 幼年編
082 転校生
しおりを挟む「ヴィヨルド領から来たウルガンデイです。ウルと呼んでください。よろしく」
キャー キャー
クラスの女子から歓声が上がる。
転校生は狼の獣人だった。
整った顔にすらっとした体型。まさにこれがイケメンっていうやつなんだろうな。
自然とデニー、イギー、マイケルと目が合った。4人とも苦笑いをするしかなかった。勝負にもならないと。
狼獣人の彼は冒険者の父親の仕事関係で半年ほどヴィンサンダー領にいるらしい。
見た目通り、あるいはそれ以上にスマートな
ウルは話し易く、俺たちともすぐに仲良くなった。
「ウル、俺は黒い森に修行で行ったことがあるぞ」
「アレクはすごいな。あそこは魔獣も強いやつばかりだから俺たち獣人でさえ1人では立ち寄らないぞ」
「へぇーそうなのか」
(うん、これはホーク師匠の強さとドラゴンの魔石の欠けらのおかげだな)
ウルは多くの獣人と同じく、魔法はぜんぜんつかえなかった。刀も使わない。それでも彼の格闘術(体術)はすごかった。刀を佩いたヒューマンの生徒を相手にしても負けないどころか触らせてもくれなかったくらいだから。
「ウル、俺に体術を教えてくれよ」
「いいよ」
そんな彼から俺は体術を学んだ。
体術はほとんど素人だった俺に、ウルは嫌がりもせず毎日付き合ってくれた。
ウルの体術は基本、柔道に近い。相手の力を受け流して攻撃をする。それも圧倒的なスピードで。
体術は魔法が効かない相手に対したり、武器が使えないような狭いダンジョンや凹地などでも有効な攻撃法だと思う。
「アレクはヒューマンにしては速いな」
「獣人のウルに褒められると嬉しいな」
「その突貫はなかなかのものだぞ」
「そりゃどうも」
お互い話しながらの組み合いだ。
「だけど組むとまだまだだ」
うわー。
あれれ‥いつのまにか天を見上げていた…。
ちなみに木刀を持った俺とウルは俺が優勢。
素手の組み合いでは俺は1勝もできていない。
「アレク、お前は刀と同じで素直だな」
「そうなのか」
「ああ。でも素直な相手ばかりじゃないぞ。とくに生命をかけたらな」
ウルがいた半年。
ほぼ毎日修練場で組手をした。
組手をしながらの会話だ。
「アレク、センスはかなり高いと思うぞ。ヴィヨルドでもお前は剣なら同年代でもかなり上だよ。ただ太刀筋がやっぱり素直過ぎるんだよ。だから‥」
うわー
ウルに木刀で殴りかかったつもりだったが、気づいたら俺は宙を飛んでいた。
素手でも殴りかかった勢いのまま、ウルに何度も何度も投げ飛ばされたのだ。
「実戦ならこんな風に投げられるだけで済まないぞ」
「ああ‥」
そのままもう1番組み合う。
「こんな風に‥」
ウルの向いた目線に誘導される俺。
気づいたら、また投げられていた。
「相手に気取られない動き、相手を圧倒する動きをしなきゃな、アレク」
「ウル、よくわかるよ。もう一度頼む」
ウルはヴィヨルドでは同世代でほぼ負けなしだったという。
格上のウルを相手に、俺はメキメキと格闘術を吸収して学んでいった。
そして約半年が過ぎて。ウルは去っていった。
(父上の仕事の関係で次は海洋国へ行くらしい)
クラスの女の子たちみんなも寂しがっていた。
彼から学んだ体術はのちのちにもかなり役に立った。
10年以上を経て。
当時はまさかあんな再会をするとは思わなかった俺だった。
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