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第2章 幼年編
080 修行の終わり
しおりを挟む黒の森の入り口に戻った。
「いいかアレク、毎日欠かさず魔力を伸ばせよ。高めた魔力はお前をさらに強くする。お前自身の持つ魔力に精霊の持つ力が加算されるからな。そして魔力が多いほど精霊には居心地の良い場所になる。どれだけ魔力が増えても良いぞ」
「はい師匠」
「俺は今から少し寄るところがあるから、お前とはここでお別れだ。行きと違って今のお前なら大丈夫だろう?」
「ははは。師匠のおかげで自分で帰れます。ホーク師匠、本当にありがとうございました!」
俺は来年の春も、また修行をお願いした。
ぼやっと見えるようになっていたホーク師匠の肩に座る精霊。今日は初めてはっきりと見える。
妖精?羽根が生えたかわいい精霊の女の子が見えた。
「師匠!師匠の肩にいるシルフが初めて見えました」
「わはは。そうか、ようやく見えたか。
これからはお前も精霊に愛されている者かどうかは見てわかるからな。精霊に愛される者の魔力、魔法は強いぞ。わかるな」
「はい!」
「ではなアレク。また来年会おう」
「はい、師匠」
師匠の肩に乗るシルフの彼女が、ニコニコ手を振っていた。
修行に入る前と同じように。
ホーク師匠は風のように走り去っていった。
「ホーク、あの子おもしろいわね!」
ホークの肩に乗る風の精霊が楽しげに話す。
「ああ。あいつはまだまだ強くなるぞ」
あっという間に見えなくなった師匠を見送って。
よし、俺も帰るぞ。
俺の目の前に、翔んでいるシルフがはっきりと見える。
(シルフ手を貸してくれ)
ニコッと笑った彼女がうなづいた。
師匠の肩と同じように。俺の肩にもふわふわとしたシルフが宿った。
女の子のシルフだ。
「行こうかシルフィ」
俺は風の精霊の彼女の名を自然とそう読んでいた。
「ええアレク」
よし帰ろう。
「ブースト」
ブワッ!
駆け出す足はこれまで以上に速く感じる。
まるで背中に羽根が生えているみたいだ。そして風がやさしく背中を押し出してくれている。
これが精霊魔法なんだ。
うん、これは今までと違う。格段に速い。そして何よりほとんど疲れないぞ。
「シルフィ、力を貸してくれてありがとうな!」
「アレク、いいよ!」
まるで車かオートバイに乗っているように。一気に流れ去る景色の中、ふわふわと漂うシルフィだけが肩に座ったり、ときには横を漂うように翔びながら俺についてきた。
俺の友だち、風の精霊シルフィ。
なんかもうね、初めて会ったとは思えない親しみを感じるよ。
「すごい!すごいぞー!」
あはははは
自然と笑みが溢れる。
これが精霊魔法なんだ!
これが師匠の見ている世界なんだ!
「ねえアレク。あんたが修行中もアタシはずーっとそばで見てたんだからね」
「そうなんだ、知らなかったよ」
「そうよ!アタシはずーっとアレクに声をかけてたんだよ!」
「ごめんなシルフィ」
「許してあげるわ」
ニコッと笑ったシルフィが爆弾を落とした。
「ねーねーアレクがやってたあれ、あのリズムが何か耳に残ってんのよねー」
「えっ?リズム?」
「♪ちゃららーららーまいまいまいーってやつ。あれ耳から離れないんだよねー」
「うそ‥」
精霊にも俺の醜態が伝わった瞬間だった。
▼
20日ほど前。
ホーク師匠との修行で。
領都サウザニアを早朝に出発。へとへとになって着いた西の黒の森から。
ほぼ丸一日かかって着いたここまでの距離がわずか数時間。嘘みたいな本当の話だ。
あっという間に帰ってきた。
俺は真っ先に領都サウザニアのヴァルカンさんのところにお礼に行った。
「ヴァルカンさん、ただいま帰りました」
「おおアレクお帰り。無事に終わったみたいだな。よし、その顔は成果があったようだな」
ヴァルカンさんがくしゃくしゃの笑顔で俺に微笑んだ。
「はい!それもこれもヴァルカンさんのおかげです」
「ふん。だがホークには感謝だな。ますます励めよ」
「はい!」
ヴァルカンさんは俺に背を向け、仕事に戻る。(相変わらずデレなしのおっさんだな)
「ヴァルカンさん、ありがとうございました!」
次いで俺は領都の教会学校にも寄った。
「アレクです。校長先生こんにちは。今日は郵便屋さんは要りますか?(小芝居もしなきゃな)」
「ああアレク君。ありがとう、今日はないよ」
モンデール神父様は穏やかな笑顔を浮かべ、最後には小さな声で言われた。
(どうやら成果があったみたいだね)
「はい!」
デニーホッパー村の教会学校にも寄ってきた。
「師匠、シスターナターシャただいま帰りました」
「アレク、終わったか。ああ、よかったみたいだな。明日からまた修行だからな」
「はい!」
「アレク君お帰り。うん、成果あったみたいだね」
「はい!」
師匠とシスターナターシャにも報告できた。
なぜかみんながみんな、同じように言ってくれた。きっと顔に出ていたんだろう。俺も晴れやかな気分だ。
そしてなんと夕方前には家に帰っていた。
疲れも無い。
シルフィ(精霊)のおかげだ。
改めてホーク師匠に感謝だ。
「ただいまー」
「お兄ちゃんおかえりー」
「「アレク(アレクちゃん)おかえりー」」
「あーあー」
「お帰り。アレク修行はどうだった?ん?アレク大きくなったか?」
「ははは。父さん、20日で背なんか変わらないよー。でもとても楽しい修行だったよ。え~っとね‥」
久しぶりのわが家にとてもリラックスできた俺。修行のことやあれこれを報告した。
スザンヌの質問も尽きなかった。
家族みんな揃ってのご飯。久しぶりの家のご飯はおいしかった。
やっぱり家の野菜は美味しいや。
家族団欒はとてもリラックスできた。
▼
「さあースザンヌ、お兄ちゃん疲れてるからまた明日にしなさい」
「うん、わかったー。お兄ちゃんまたあしたお話聞かせてねー」
「ああ、わかったよ。スザンヌおやすみー。
ヨハンもおやすみ。父さんも母さんもお休みー」
「あー」
「「アレク(アレクちゃん)おやすみ」」
ベッドに横になった俺は早々にバタンキューした。
アレクを見送ったあと。
ヨゼフとマリアの2人が話す。
「マリア、アレクは変わったか?」
「あなたも思った?私も同じことを思ったわ。元々優しかったあの子、さらに優しくなった?そして強くなった?何て言うのかな?さらに優しくて強くなった?」
「ああそうだ!マリアの言う通りだ。あいつはさらに強くて優しくなったな!」
「ええ!あの子は私たちの自慢の長男よ!」
「そうだな!」
▼
長いようで短い春休みが終わった。
明日からは新学期が始まる。
▼
あっという間に月日は1年が過ぎた。
俺はこの春休みもホーク師匠の元で魔法の修行を積んだ。
今度の修行は、前回と違いひたすら魔力切れ寸前まで動くスパルタ訓練だった。
ホーク師匠曰く、限界を知ることと、限界となったときの対処法だそうだけど…
うん、これは以前ディル師匠が言った通り、ディル師匠よりも厳しい修行だった。
▼
これから6年生。いよいよ最終学年だ。
第2部幼年編
第1章後期教会学校編 完
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