69 / 722
第2章 幼年編
069 武器屋
しおりを挟む護身用の武器。ふだんから俺は小刀1本を携えている。昔、一角うさぎから妹を守ったとき、一角うさぎを倒したのは家の包丁だった。
包丁は子どもの俺にも長さほどほどで扱い易い。解体にも扱い易い。そういや俺が好きだった忍者アニメの主人公たちは苦無(クナイ)を使っていたな。それゆえといったのも理由になるが、腰に差してても手回しのよい小刀を愛用しているのだった。俺の小刀はチャンおじさんに鍛造してもらったやつだ。
冒険者ギルドで俺が主にしている薬草採取にも、雑草を払うことから薬草の束を払う小刀は使い勝手がよい。
たまに出会う一角うさぎも仕留めやすいし。
刀はもちろん興味はある。といっても刀は持っていない。今は師匠との修練に家でも木刀を振るだけだ。
だいたい俺は奥深い森には未だ行ったことがない。もちろん小刀以上の武器を使うような魔獣と闘ったこともない。
「グレンさん、俺の小刀最近キレが悪くなって。自分で研いでもすぐにイマイチになるんですよー。どっかに良い武器屋さん知りませんか?」
「貸してみろアレク」
「あーこりゃかなりガタがきてんなー。お前金魔法使えるだろ?こんだけ使い込んでたらそんでもダメだわなー」
俺が金魔法も土魔法も使えることはグレンさんにはこっそり伝えてある。
「西門のそばにヴァルカンってオヤジがやってる武器屋があるから相談してみろ。俺から聞いたってな。
ただ偏屈オヤジだから覚悟して行けよ」
「偏屈オヤジですか!グレンさんみたいに‥」
「アルスてめー!」
「ヤバっ。さっそく行ってきまーす!」
ワハハー
解体場から笑い声が上がる。
「おやっさん、アルスに言われてやんの!」
独り言を言ったつもりだったが聞こえたようだ。
▼
領都サウザニアの西門。ふだん北門から出入りしている俺には意外にも近くて遠い西門だった。
西門辺りにはサウザニアの職人街が広がる。そんな街の一角にヴァルカン工房と看板が掲げられた工房があった。
「すいませーん。ヴァルカンさんいますかー?すいませーん、ヴァルカンさーん」
薄暗い店内。
廊下を走るトカゲが見えた。
なんか気味悪いな。
何度目かの呼びかけに応じて奥から現れた人物‥‥縦も横も俺よりひと回り大きな樽のような髭もじゃのおっさんだった。
(おおー人生初のドワーフじゃん!)
「なんじゃい坊主!ワシは忙しいんじゃ。子どもと遊んどる暇はないわい!」
血走ったような目で、いきなりこんな風に怒鳴られる俺。
しかもヴァルカンさんは顔と言わず身体中から湯気が立つくらい大汗をかいている。
(いきなりだなー。でも‥たしかになんか忙しそうだな。これはあれだ。グレンさんのときと同じパターンだな。弟子がいない時に限って忙しいってやつ‥)
「え~っとヴァルカンさん。俺冒険者ギルドのグレンフライさんに紹介されてやってきました」
「何ー!グレンの奴からか?」
「はい」
「そうか、ただ悪いな坊主。今本当に忙しくてお前の依頼を聞いてやる暇もないんだ。そうさなー、1週間後くらいに、また来てくれや。すまんな」
「どうしたんですか?」
「どうもこうもねーよ。どっかの反乱とかで鎮圧に騎士団を送るとかでな。それで騎士団長からの依頼で弟子2人とも刀鍛冶で取られちゃってな」
(あーやっぱりグレンさんと同じパターンだわ、これ)
「ヴァルカンさん、俺、土と金の生活魔法どちらも使えます。村の鍛冶屋さんは好きでよく見てます。俺でよかったら何か手伝います」
「おぉ!本当か坊主?それは助かるな。じゃあ早速だが手伝ってくれ。中に入んな」
「はい」
ひょんなことからヴァルカンさんを手伝うことになった俺。チャンおじさんの鍛冶仕事をいつも見てたから何をするかある程度はわかる。
うん、まるで鍛冶屋さんの弟子だわ俺。
ちなみに。
村でチャンおじさんにヴァルカンさんのところで手伝ってるって話をしたら、手にした鉦叩きを落とさんばかりにして驚いていた。
「アレク君、武器屋のヴァルカンって言えば俺たち鍛冶屋の仲間内では神様みたいな存在だぞ!」
「へぇーそうなんですか!」
(どう見てもただのビア樽みたいなおっさんだけど)
▼
学校の帰りの3時間ほどを鍛冶屋の下働きみたいなことを続けてしばらく後。
ようやくこれまで全く先の見えなかったヴァルカンさんの納期にも見通しがついたみたいだ。
「アレク、お前が最初に持ってきたお前のナイフな、あれもうやめとけ。芯にもガタがきちまってるからな。新しいやつにしとけ。後でこん中から選んどけ。安くしといてやる」
「ありがとうございますヴァルカンさん」
「それとお前、刀は持たんのか?」
「欲しいんですけどねーお金もないし、まだ木刀しか無いんですよ」
「そうか。ちょっとそこの刀を振ってみろ」
無造作にいくつも置いてある刀を指差してヴァルカンさんが言う。
俺は慣れ親しんだ両刀剣を手にして振ってみせる。普段師匠の前で訓練をしているように。
「ふん、綺麗な太刀筋じゃ。誰から習っとる?」
「村のディル神父様が俺の師匠です」
「ほぉディルか。また懐かしい名前じゃわい。あいつは今デニーホッパー村なんじゃ」
「はい。俺の村の神父様です」
「そうかそうか。それでその太刀筋なんじゃな。納得したわい」
「よしこれも何かの縁じゃ。いずれ刀は要るか。じゃがお前は金も無い農民の倅じゃろ」
「はい」
「アレク、おまえが持つ刀だ。自分で打ってみろ」
「材料は安く売ってやる。あとはおまえが自分でやれ」
「え~っと‥それって」
「打つのか、打たんのか!ハッキリしろ!」
「はい!ヴァルカンさん‥ありがとうございます!」
はい、ツンデレのドワーフいただきました。
▼
一流の刀鍛冶は刀を遣わせても一流だ。依頼主(遣い手)の技量、太刀筋がわからなければ依頼主に合った良い刀は打てないからだ。
こうして俺は一流の刀鍛冶職人ヴァルカンさんに教えを乞うことになった。
10
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説

どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

俺のスキルが無だった件
しょうわな人
ファンタジー
会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。
攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。
気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。
偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。
若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。
いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。
【お知らせ】
カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
異世界召喚されました……断る!
K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】
【第2巻 令和3年 8月25日】
【書籍化 令和3年 3月25日】
会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』
※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜
大好き丸
ファンタジー
異世界「エデンズガーデン」。
広大な大地、広く深い海、突き抜ける空。草木が茂り、様々な生き物が跋扈する剣と魔法の世界。
ダンジョンに巣食う魔物と冒険者たちが日夜戦うこの世界で、ある冒険者チームから1人の男が追放された。
彼の名はレッド=カーマイン。
最強で最弱の男が織り成す冒険活劇が今始まる。
※この作品は「小説になろう、カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる