アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

058 演習場

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「明日の授業は集団行動です。演習場に集合してください」

10年そこそこというまだまだ若い王国は、有事の際に国民皆兵の徴兵令を採る。有事は対人(他国)はもちろんのこと魔獣のスタンピードもある。
そのため、集団行動の練習は欠かせない。
辺境と呼ばれる地域を含めて、誰もが有事の際の集団行動に慣れる必要があるからだ。
いざ有事となれば、大人も子どもも関係ない。

演習場は教会学校の裏にある50ベタほどの広大な土地だ。領都内災害などに使われる空き地だ。
因みに1ベタとは1ヘクタール(ha)100m×100mにほぼ近い。



俺が演習場に到着したときに事件は起こっていた。
後で聞けば、上級生からの嫌がらせを受けたシャーリーを庇ったデニーが生意気だとめったうちになったらしい。
頑として謝らないデニーめがけてLevel2の火魔法を使える上級生からファイアボールが放たれるというその瞬間に俺が現れたというわけだ。

デニーを殴る蹴る上級生カーマン。

「もうやめてください!」

「田舎女、てめえは邪魔なんだよ!」

きゃっ!

ドンッと音を立ててシャーリーが倒される。
6年生カーマンの嫌がらせらも最高潮に達したとき。

「デニー、相変わらずお前は生意気なんだよ!これでも食らっとくか!学校でLevel2の魔法を使えるのは俺ぐらいだからな。光栄に思え。お前に火の玉を恵んでやるよ!」

カーマンの手にテニスボールほどの赤い火の玉が浮かぶ。

「カーマン、さすがにやり過ぎだぞ‥」

「カーマン、もういいじゃないか‥」

「そろそろ先生も来るぞ」

(事実ミリアが走って先生を呼びに行ったらしい)

「うるさい!出来の悪いこいつには教育が必要なんだ!」

熱くなり過ぎたカーマンに仲間たちも少しひいている。

「「デニー!!」」

カーマンの仲間の6年生に抑えつけられたイギーとマイケルが叫ぶ。
そんなときに俺が到着したわけだ。

「やめろー!」

無意識のうちに突貫する俺。
6年生のカーマンがその足元に伏せるデニーめがけて叩きつけるようにファイアボールを撃つ。
その刹那。
デニーを庇い背中で受ける俺。

キャー!

シャーリーの悲鳴。

ジュワッ!
熱ッ!

ジリッと背中が焼ける感覚があった。

「アレク、アレク!大丈夫か!」

デニーの心配そうな声。

「ああ、大したことない‥」

(事実、ぜんぜん大したことのないファイアボールだった。師匠に叩かれる方が数倍痛い。これではチューラットでさえも倒すまでに2、3発必要だろう)

「何をやってるんだ!」

騒ぎをききつけた先生たちによって騒動は終わった。

「君(デニー)と君(俺)は医務室でケイト先生から治療をしてもらってください」

担任の先生が言う。

「「はい‥」」

デニーと2人、医務室に行った。医務室では白衣を着た若い女性の先生がいた。
耳が尖っている!
これはまさかエルフじゃないか!
人生初エルフじゃないか!
すごいぞ!
すごいぞ!
思わず背中の痛みも忘れるくらいの俺だ。

「え~っとケイト先生、僕らを治療してください」

「あらあら、喧嘩?男の子ねー。デニス君は懲りないわねー」

「あはは‥」

(なんだデニー、お前医務室の常連なのか!)

(アレン、しーっ)

「キュア」

ケイト先生の手がデニーに翳される。
デニーの顔の腫れが見る見るひいていく。凄い!凄いよ!初めて見たよ!治癒魔法。

「はい、君も。後ろ向いて。キュア」

治癒魔法すげぇー。
ヒリヒリする背中の傷みがスーッとひいていく。

「君は?」

「4年のアレクです」

「アレク君、キュアでも服は直らないからね」

「あはは。その通りでした」

(くそーさすがに服は無理なのね)

「はいはい2人とも、治ったからさっさと演習に戻る!」

「「ケイト先生ありがとうございましたー」」

俺の穴の空いた背中を摩りながらケイト先生が言った。

「アレク君はどこの村出身?」

「デニーホッパー村です」

「そう。頑張りなさいね」

2人が退室したあと。ケイトはアレクの背中を摩っていた手のひらを揉みながら、何故か自身の右肩を向き、口角をあげて呟いた。

「あの子がそうなのね‥」


演習場に戻ると、集団行動が始まっていた。
途中から参加した俺たち。学年単位で前進、後退、待機と先生のかけ声に合わせて一つ一つを実践していく。

(「「2人とも大丈夫だった?」」)

(「「ああ」」)

気遣うように小声のシャーリーとミリアが言った。

集団行動のあと。
デニーと2人、改めて担任に呼ばれた。
絡んだ6年生のカーマンは騎士の息子だそうだ。注意はするが先生としてはあまり事を荒立てたくないのだそうだ。(先生は長いものに巻かれるタイプかな)
ミリアも小声で教えてくれる。

「カーマンは粗暴で評判も良くないわ」

「アイツは何かと絡んでくる嫌なヤツだ」

デニスも言う。
俺は先生に言った。

「わかりました。気にしてませんから」

と応えておいた。正直ムカつきたんだけど。
こんなことがあった日の帰り。

「アレク、剣が乱れとるぞ!心の乱れじゃな。学校で嫌なことでもあったか?」

「いえ、なんでもありません!ちゃんと集中します!」

師匠に剣の乱れを諭された。
師匠の言う通りだ。情けない。こんなことくらいで心が乱れるようではまだまだダメだな俺は。
師匠のおかげで昼間の出来事は俺の心の中では取るに足らないものになった。
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