アレク・プランタン

かえるまる

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第2章 幼年編

029 反復練習

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この世界で魔法を使える者は少ない。
産まれた時に持つ固有スキルの恩恵という、スキルの有無が魔法発現の可否と考えられているからだ。
基本の魔法には、火・水・風・土・金とそれぞれに属性があり、その初級のものが生活魔法と呼ばれている。
魔法にはこれらの生活魔法のほか攻撃魔法とされる生活魔法以上のものやこのほかの属性のもの、攻撃魔法や守備魔法に特化したものなども存在しているらしい。
火・水・風・土・金のどれか1つの生活魔法でさえ使えるのは10人~20人に1人程度。わが家ではマリア母さんだけが火の属性がある生活魔法を使える。
「ファイア」と唱えると指先から100円ライター程度の火が灯されるわけだが、料理の焚き付けなどに使える火魔法(ファイア)は生活にかなり役立つ。いつかは冒険者をやってみたい俺は是非ともこの火魔法を覚えたいのだが、これまではまったく使える気がしなかった。
チートもなし、各種特典もなしだもんね、俺。

そんなチートも特典も何も無かった俺が魔法(魔力)の可能性を知った一角うさぎ騒動の翌日。
ひたすら努力をすれば、たとえスキルの恩恵がなくても魔法の発現が可能になるのではなかろうかと俺は考えた。
前提条件として「ひたすら努力をすること」なんだけど。
さっそく家の裏の丘で検証をしてみることにした。
陸上のクラウチングスタートみたく、地面に片足を前につけ、もう片足の踵を半分くらい上げてセット。両手を前につきスタートする。

「よーい、どんっ!」

これを何度も繰り返す。

「よーい、どんっ!」

「よーい、どんっ!」

走りだすタイミングや力の加減を変えながら幾度も試す。
が、変化はない。
何の変わりもない。
昨日はできたのに‥。

縮地又は突貫。
これは生活魔法ではなく魔力の行使。体内に循環させた魔力を脚に凝縮。高めた魔力を瞬時に放出して高速移動を可能とするスキルだ。

「よーい、どんっ!」

「よーい、どんっ!」

何度やってもダメだ。
ああだこうだと思索しながら俺はやり続けた。


【  母マリアside  】

アレクが丘の上で同じ動作を何度も繰り返しているのが見える。
何をやってるの?
分からないわ。
でもあの子はコツコツと努力を怠らないからね。
何かの意味があるんでしょうね。



「よーい、どんっ!」

「よーい、どんっ!」

「よーい、どんっ!」

家の手伝いや妹と遊ぶ合間に。結局10日ほど同じ動作を繰り返してはいるがまったく変化はない。

開墾地の石取りをして、父さんと木の実を採りに行った帰り。
今日もまた反復練習を始める。

「よーい、どんっ!」

「よーい、どんっ!」

「よーい、どんっ!」

本日何十回めのクラウチングスタート。

「よーい、どんっ!」

と‥‥。

カチッ!

カチッと脳内で何か弾けたような気がした。
何かが填まった気がする。
「よーい、どん」がいけないのかもしれない。
よし、では‥‥。

「突貫!」

声に出して走り出す。
毎日毎日練習しているクラウチングスタートだ。

ぐんっ!!

踏み込みんだ足裏に弾力が伝わる。
と同時に、身体がぐんっと前に出る。
あの時と同じだ。

うわ~っ!

勢いよく頭から身体が前に転がった。あと少しで岩にぶつかるところだった。

ヤバーっ!

でも‥やったぞー!
地面に仰向きに横たわりながら、青空に拳を突き上げる。

やったぞー!
俺はついに魔法を使えたぞ!


魔法というより、正確には身体強化の魔力行使である。
魔力と魔法の違いやスキルが何かとか、一切合切何もかも知らない俺だが、とにかく魔法(魔力)を使えることがこの日判った。

凡人の俺でもひたすら努力をすれば、魔力を発現ことができるんだ。
 
この成功から2度め、3度めの突貫も成功する。3度めは「よーい、どん!」にかけ声を戻したが、これも普通に成功した。
なのでこの実証実験から、「突貫」だろうが「よーい、どん!」だろうがかけ声はどちらでも構わないように思える。
かけ声が魔力発現の成功要因ではなさそうだ。
かけ声にやりたい行動のイメージをのせる感じなんだろうな。
魔力行使のイメージがもっと明確になれば、無詠唱魔法も可能になるのかもしれない。
それまではこれまで同様にひたすら努力あるのみだ。

俺はこの日から、さらに欠かさず努力をするようになった。
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