25 / 722
第1章 転生
025 閑話 TUKUNE
しおりを挟む
「モンデール神父様、今日もありがとうございました」
「はいショーン様、また来週。女神様のご加護がありますように」
教会の帰り、タマと手を繋いで屋敷へ帰る。
屋敷までは2時間くらいかかる。
馬車ならば30分もかからないだろうが、今は穀潰しとされる身だから自分で歩くのも仕方がないだろう。
あの息がつまる屋敷を離れられるだけでも幸いだ。
教会への道中は堂々とタマと手を繋げる嬉しさもあったし、歩き疲れたらタマがおぶってくれるのも嬉しかった。
帰りは教会近くの市場の屋台で、魔獣肉の串焼きを食べるのも楽しみの1つだった。
塩で炙っただけのシンプルな串焼き。
野趣あふれる自然の味わいというのだろうか、噛むほどに肉のジューシーな旨みが広がる串焼きなのだ。
もちろん俺に小遣いなどない。
なので、メイドのタマに奢って貰っている。
無一文の伯爵家の息子が俺だ。
今日もタマと一本ずつ、屋台横のベンチに腰かけ並んで食べる。
(ん?今日の串焼きはやたらと硬いな)
「どうですか坊っちゃん?」
「ん、タマ。今日のはめっちゃ硬いね」
その声が聞こえたのか、顔なじみとなった屋台のおっちゃんが申し訳なさそうに言った。
「悪いね、ショーン坊っちゃん。今日はいつものオーク肉が仕入れられなかったんだよ。リザード肉なんだがやっぱり硬いよな。いつもより売れいきも悪いし。まだ在庫もたくさんあるし、困ったなぁ」
頭を抱える屋台のおっちゃん。
あっ、そうか!
昔の知恵を引っ張り出した俺は、こんな提案を出してみた。
「おっちゃん、肉を包丁で細かく叩いてから、手で練るんだよ。一緒に塩も入れると粘りも出るからね。それを小さく丸に整形して串に刺して焼けば良いんじゃない。」
「なるほど!細かく叩くのかい。それは思いもしなかったわ!貴族の料理法かい、坊っちゃん?」
「えっ⁉︎あーそんなとこだよ」
「で、なんて名前の料理法なんだい?」
「えーっと、つくねだったかな?あはは、、」
「さっそく作ってみるよ!」
よほどつくねが気になったのか、はたまたそれほど今日の売り上げが悪かったのか、早々に店仕舞いを始めた屋台のおっちゃんだった。
▼
帰宅後、店主はさっそくショーンに言われたアドバイス通りを試してみる。
細かくして塩で揉んで練ったつくね。
硬かったリザード肉も適度な歯応えが美味しい肉へと変わった。
(これはいけるな‼︎)
領都のみならず、辺境とされるこのヴィンサンダー領から生まれた名物料理がツクネ(又は肉団子)の串焼き。さらにこのツクネが派生してハンバーグとなり、一世を風靡する料理となるのは遠くないまたのお話…。
「はいショーン様、また来週。女神様のご加護がありますように」
教会の帰り、タマと手を繋いで屋敷へ帰る。
屋敷までは2時間くらいかかる。
馬車ならば30分もかからないだろうが、今は穀潰しとされる身だから自分で歩くのも仕方がないだろう。
あの息がつまる屋敷を離れられるだけでも幸いだ。
教会への道中は堂々とタマと手を繋げる嬉しさもあったし、歩き疲れたらタマがおぶってくれるのも嬉しかった。
帰りは教会近くの市場の屋台で、魔獣肉の串焼きを食べるのも楽しみの1つだった。
塩で炙っただけのシンプルな串焼き。
野趣あふれる自然の味わいというのだろうか、噛むほどに肉のジューシーな旨みが広がる串焼きなのだ。
もちろん俺に小遣いなどない。
なので、メイドのタマに奢って貰っている。
無一文の伯爵家の息子が俺だ。
今日もタマと一本ずつ、屋台横のベンチに腰かけ並んで食べる。
(ん?今日の串焼きはやたらと硬いな)
「どうですか坊っちゃん?」
「ん、タマ。今日のはめっちゃ硬いね」
その声が聞こえたのか、顔なじみとなった屋台のおっちゃんが申し訳なさそうに言った。
「悪いね、ショーン坊っちゃん。今日はいつものオーク肉が仕入れられなかったんだよ。リザード肉なんだがやっぱり硬いよな。いつもより売れいきも悪いし。まだ在庫もたくさんあるし、困ったなぁ」
頭を抱える屋台のおっちゃん。
あっ、そうか!
昔の知恵を引っ張り出した俺は、こんな提案を出してみた。
「おっちゃん、肉を包丁で細かく叩いてから、手で練るんだよ。一緒に塩も入れると粘りも出るからね。それを小さく丸に整形して串に刺して焼けば良いんじゃない。」
「なるほど!細かく叩くのかい。それは思いもしなかったわ!貴族の料理法かい、坊っちゃん?」
「えっ⁉︎あーそんなとこだよ」
「で、なんて名前の料理法なんだい?」
「えーっと、つくねだったかな?あはは、、」
「さっそく作ってみるよ!」
よほどつくねが気になったのか、はたまたそれほど今日の売り上げが悪かったのか、早々に店仕舞いを始めた屋台のおっちゃんだった。
▼
帰宅後、店主はさっそくショーンに言われたアドバイス通りを試してみる。
細かくして塩で揉んで練ったつくね。
硬かったリザード肉も適度な歯応えが美味しい肉へと変わった。
(これはいけるな‼︎)
領都のみならず、辺境とされるこのヴィンサンダー領から生まれた名物料理がツクネ(又は肉団子)の串焼き。さらにこのツクネが派生してハンバーグとなり、一世を風靡する料理となるのは遠くないまたのお話…。
20
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
ダンジョン世界で俺は無双出来ない。いや、無双しない
鐘成
ファンタジー
世界中にランダムで出現するダンジョン
都心のど真ん中で発生したり空き家が変質してダンジョン化したりする。
今までにない鉱石や金属が存在していて、1番低いランクのダンジョンでさえ平均的なサラリーマンの給料以上
レベルを上げればより危険なダンジョンに挑める。
危険な高ランクダンジョンに挑めばそれ相応の見返りが約束されている。
そんな中両親がいない荒鐘真(あらかねしん)は自身初のレベルあげをする事を決意する。
妹の大学まで通えるお金、妹の夢の為に命懸けでダンジョンに挑むが……
どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる