アレク・プランタン

かえるまる

文字の大きさ
上 下
23 / 722
第1章 転生

023 葬儀と別離

しおりを挟む
「あゝ可哀想なショーン!どうして女神様はショーンまで連れて行ったの!せめて女神様の国で幸せに暮らしてね。安らかに」

「ショーン兄上!僕は寂しくてたまりません。せめて父上と仲良く暮らしてください。安らかに」

「ショーン様が託された北の辺境伯ヴィンサンダー家は不肖私アダムが弟シリウス様の後見として面倒を見て参ります。安らかに」

「ご家族の最後のお別れはお済みですかな」 「「「はい」」」
「では別れの祭壇へ向かいましょうか」



「仮死」となった俺である。
傍目からはしっかり死んで見えるのだが、頭は冴えまくっており耳も周囲の音をきちんと拾っている。
今も継母オリビア、弟シリウス、家宰アダムの3人が繰り広げるお涙頂戴の茶番劇を聞かされている。

睡眠薬を飲んで倒れた3日後。
今度は仮死薬なるものを飲んだ。
これも薬師のルキアさんの指示通りだ。
仮死となり正装に着替えさせられ棺桶の中へ入った俺は、ガタガタと馬車に揺られて死者が家族と最後に過ごす教会の小部屋へ運ばれた。
そして別れの祭壇に上げられる前、モンデール神父様の立ち会いの下、家族最後の別れが「演出」されたわけだ。
まさに「演出」であったが。

モンデール神父様とヴィンサンダー家の3人が外に出る。この後、親族、寄子、家臣を集めた葬儀が行われるからだ。死んだ俺も別れの祭壇から女神様の元へ召されるわけだ。


「とんだ茶番劇だったね」
「うぅ…なんて酷い人たち…」

隠し扉が開いた音が聴こえる。薬師ルキアさん達が現れたようだ。
タマの憤り、啜り泣く声も聞こえる。

「ショーン坊っちゃん、聞こえとりますな。すべて計画通り、うまく進んでおりますからの。
坊っちゃんの身体はこのまま夜まで動けませんからの。夜まで我慢してくだされよ。

お館様の毒殺と合わせて、犯人とその証拠が判明するまで辛抱してくだされよ。何年に及ぶか今はわかりませんからの。ただそのときまで決して諦めてはなりませんぞ。
次にお会いできる日を薬師の婆は楽しみに待っておりますからの。王都まで会いに来てくだされよ」

俺の胸に手を当てて薬師のルキアさんが言う。

(ルキアさん、世話になりました。ありがとうございました。俺、必ず王都に会いに行きます)


「ショーン坊っちゃん、お労しや。坊っちゃんがいつも爺の戯言に付き合ってくれた日々を爺は決して忘れませんからの。
爺はお屋敷を辞めて田舎に帰りますな。ショーン坊っちゃんが晴れてヴィンサンダー家を再興される日に、必ず帰って来ますぞ。爺はその日を心待ちにしておりますぞ」

俺の頭を撫でながら厩のマシュー爺が言う。

(ありがとう爺。本当は爺は強かったんだね。俺も爺のようになる。そのときまで待っててくれよ)

「ううっ…ショーン坊っちゃん…私いつまでもショーン坊っちゃんのお世話をしたかった。あの3人は大嫌だけど、これから先何かあったら皆さんに伝えなければいけませんからね。私はショーン坊っちゃんのお帰りをいつまでもお屋敷で待ってますからね」

両の頬に獣人メイドタマの手が添えられた。次いで右頬、左頬に柔らかく温かい感触を感じる。

(タマ、俺の味方でいてくれて本当にありがとう。俺は正々堂々、必ず屋敷に戻るから)


涙がつーっと流れる。
目は開けられず口にも言葉は出ないが、3人に心から感謝の言葉を贈った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

異世界召喚されました……断る!

K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】 【第2巻 令和3年 8月25日】 【書籍化 令和3年 3月25日】 会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』 ※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!(改訂版)

IXA
ファンタジー
凡そ三十年前、この世界は一変した。 世界各地に次々と現れた天を突く蒼の塔、それとほぼ同時期に発見されたのが、『ダンジョン』と呼ばれる奇妙な空間だ。 不気味で異質、しかしながらダンジョン内で手に入る資源は欲望を刺激し、ダンジョン内で戦い続ける『探索者』と呼ばれる職業すら生まれた。そしていつしか人類は拒否感を拭いきれずも、ダンジョンに依存する生活へ移行していく。 そんなある日、ちっぽけな少女が探索者協会の扉を叩いた。 諸事情により金欠な彼女が探索者となった時、世界の流れは大きく変わっていくこととなる…… 人との出会い、無数に折り重なる悪意、そして隠された真実と絶望。 夢見る少女の戦いの果て、ちっぽけな彼女は一体何を選ぶ? 絶望に、立ち向かえ。

処理中です...