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キューピッド

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梅雨に入り、生徒は衣替えで半袖になった頃。

朝教室に入ると、星名が僕の所へすかさず寄ってきた。

「なぁ、ちょっと来いよ」
「なに?」
「いいから~、ほら、こっち!」

連れて行かれたのはベランダ。

「おい、あそこ!」

星名が指を差した先の中庭に、大きくブンブン両手を振っている人がいた。



「え、なに?だれ?」
「あいつさ、小川っていうんだけど、お前と友達になりたいんだってさ」


小川くんは坊主で体格のゴツい柔道部の特待生だった。
大野くんのようなサラサラヘアならまだしも、坊主で柔道部というキーワードだけで敬遠してしまう僕にはハードルが高く「友達って何??」と変に身構えてしまうのであった。



「友達になるってどういうこと?」

「まんまだよ。友達になってやれよ。お前のことかわいいって言ってんだよ」

「あのね、友達って言われてなるもんじゃないでしょ。それにかわいいとか動機がそもそも...」

「頼まれたんだよ、なってやってくれよ」

「やだ」

「なんでだよ、いいだろ、友達くらい」

「絶対いや」

「頼むよ~」

「だから、頼まれてなるもんじゃないし、そもそも頼まれたからって、おかしいでしょ、それ」

「ちょっとお話してやってくれよ~」

「じゃあ聞くけどさ、かわいいから友達なりたいって言ってたんだよね?もし、かわいいから付き合いたいって言ってても同じようにお願いしてくるわけ?」

「それはしない」

「なんでよ」

「何でもだよ、それはダメだ!」

「だからさ、『お友達から』っていうのはそういう意味合いもあるかも知れないってことでしょ、普通!」

「あぁ、そうかも知れないな...それは危ないな、やめとこう。あいつは俺の物だからって念押ししとくわ」

「あのね......まぁ分かってくれたならいいんだけど、それより思い出した!『俺の物』の話!!星名は僕を自分のモ、、、」

「わー!わー!やめろ!恥ずかしいだろ!!」

「誰も聞いてないよ?」

「聞かれて恥ずかしいとかじゃねぇよ!お前ってホントにデリカシーのない奴だな!!バカ!!バーカ!!」



...風のように行ってしまった...



ベランダから中庭を覗くと、小川くんはまだ居た。
すぐに僕に気付くとまた両手をブンブン振り始めたのも束の間。
星名が小川くんの元へ走って行くのが見える。


星名は何やら話しながら頭を下げ手を合わせている。
小川くんはうなだれるようにして中庭を去っていった。

どうやら小川くんの交渉は却下され、星野の思惑が叶ったらしい。
中庭から上を見上げた星名がこちらに気付き、両手をブンブン振っていた。



…やってること一緒じゃん…。
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