上 下
9 / 16

事件ファイル~ガン無視③

しおりを挟む
さて、どうやってアイツにアプローチしたものか。


それまで大したこともやってなかったが、アイツのせいで決まってしまった学級委員。担任の先生の代わりに出席を取ることもできるのではないかと考えた僕は職員室へ向かった。


まだ一度も出席なんて取ったことがないが、職員室に入った僕は出席名簿を探しに行った。担任の先生を探し「先生!今日代わりに出席取ろうかと思うんですけど、いいですか??」

「お、なんだ~?何か企んでんじゃねぇだろうな~?」「いや、たまには学級委員っぽいこともしないとと思って~」「偉いぞ、こっち来い!」


無事に入手した出席簿を持ち、教室へ戻る。



その足でベランダへ向かい
「星名、おはよ」
「......!!!?」
「こんなとこで何してんの?出席取るからさっさと教室入んなよ」


たった一言そうやって声をかけただけなのだが、コイツには効果てきめんだったようだ。


話し掛けた瞬間、ボーッと外を眺めていた無表情な目に光が射し込み、驚くほどパーっと明るい表情に変わった。丸まっていた背中が伸びてすくっと立ち上がる。


「んだよ、仕方ねぇなぁ。お前がそうやってお願いすんなら入ってやるか!!」


まるでベタな漫画やドラマを見ているような豹変ぶりに、僕は思わず笑ってしまった。


ベランダでの僕らの様子を見ていた周りの生徒達が「あ、復活した!!」「おかえり~!!」と口々にすると、アイツは教壇に立って両手を上げながら「ありがと!」「みんなありがと!」と、選挙の立候補者さながらに答えていた。


僕も教壇に立ち「はい、静かに!出席取りますよ~」と言うと、「ほら、みんな座れ!学級委員が出席取るぞ!座れ~!」と横で偉そうに指示を出し始めた。




コイツが黄昏てたのは気にも留めてなかった分全然知らなかったが、原因は皆が言う通り僕にあったのかも知れないと認識を改めた。

何故なら、誰が話しかけようが何も変わらなかったコイツの様子が、僕のたった一言でこんなにコロッと変わったということこそが紛れもない事実だったからだ。



そっか...皆が言うように、コイツはもしかすると本当に僕のことを好きなのかも知れない。



僕もゲイである以上、男にそういう風に想われることに対しての免疫はあるし、好かれているかも知れないと思ってしまうと自分も好きになってしまいそうな気さえした。


星名の気持ちにきちんと触れたのは、多分これが初めてだったのだろう。ただ、確信に変えるにはあまりにも材料も経験も少なすぎて、僕はその後もモヤモヤしながら振り回されていくことになる。
しおりを挟む

処理中です...