卒業1(それぞれの選択)

101の水輪

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卒業1(それぞれの選択)

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 昭和から平成にかけ、日本国中で校内暴力の嵐が吹き荒れていた。もう40年以上前の話だが、授業をエスケープした生徒たちが、徒党を組んで廊下を闊歩していた。彼らは大声でわめき散らしたり、クラスの戸を蹴ったりとやりたい放題。そして真面目に授業を受けてる生徒を呼び出しては、集団で暴力を加えたりする有様だった。また、本当に吸いたいかは分からないタバコを吹かすことが、大人への階段と信じて疑わなかった。さらに廊下を自転車で、グラウンドをバイクでと、何もかもがカオスな状態だった。
 学校側の対応には限界があり、そこでもし生徒に注意でもしようものなら、囲まれて襲われるのが落ちだ。そのため残念なことだが、手をこまねいているしかないのが現状だ。
 日々の生徒たちの悪行は、教師たちの気力を一気に奪っていきく。そうなると願いは一つ、ただただ“卒業してくれ”。卒業こそが教師たちの待ちに待った瞬間であり、同時に、生徒たちにとっても、学校からの解放だったのかもしれない。

 時は流れて令和の世。かつての校内暴力はなりを潜めている。多くの学校では、生徒たちが学習や部活に熱心に取り組み、自分たちの夢に向けて全力投球している。
 にもかかわらず、一部の教師たちのからの見方は違ってる。
「真面目と言うよりも元気がない。いや覇気がないかな?」
「あのころは確かにひどかったけど、生徒たちにはパワーがあったからね」
「そうそう活気があったっていうか」
「まあ、こちらもそのパワーに押されぬように団結してたなあ」
「でも、あんな時代に戻りたくないことだけは確か。もうかんべん」
 まさに校内暴力を肌で体験したベテラン教師が語る武勇伝だが、今の若手教師からしたら、絵空事としか見えてない。         
 
 下松中学校も、ご多分に漏れず荒れを経験してきたが、それらのことがウソだったかのように、静かな時間が流れている。
 12月、3年1組の金木級は、いよいよ進路選択に向けて追い込みの時期に入っていた。生徒の授業に取り組む真剣さは、その姿勢からも伝わってくる。
「残り五分、見落としがないか確認しなさい」
 チャイムが鳴り、高校入試判定テストすべてが終了した。力を出し切った生徒たちは疲れた表情で、担任の高橋から話を聞いている。
「今日のテストの結果で、志望校を決めてもらう。お家の方とよく相談しておくように」
「え~もう?」
「先生、内申書ってどうやって決まるんですか?」
「そりゃ普段の成績とか色々あるかな」
「欠席日数も関係するんですか?多いと不利だとか」
「まあそれは・・・」
「じゃあ竹本君は厳しいよね」
 竹本壮樹は、3年1組のメンバーだ。しかし、学校にはほとんど来てない、いわゆる不登校生徒となる。
「個別のことには答えられない。他人のことはいい。自分のことを考えなさい」
 そういと、金木は教室を出て行った。

 毎週金曜日の夕方、金木は家庭訪問のため竹本家を訪れていた。
「壮樹、先生来たぞ」
 アパートのドアーが開き、壮樹が顔を見せた。
「よっ先生、入って入って」
 待ってましたとばかり、金木を招き入れる。そこは六畳二間のアパート。築にして50年は経っている古びた建物だ。玄関には靴が散乱し、足の踏み場もない。中に上がると脱ぎっぱなしの洋服やズボンが散乱し、テーブルの上には食べかけのカップ麺のカラが無造作に放られていた。
「座るとこないけど適当に座って」
 乱雑に散らかった部屋の中には、適当な場所を見つけることができないほどだ。
「相変わらず散らかってるな。で母ちゃんはどうよ」
 壮樹は、シングルマザーの母徳子と小学5年生の妹向夏花の三人家族。その徳子は、一家を支えるために朝から晩まで働きづめで、寝る暇もないほど。代わりに壮樹がいつも向夏花の面倒を見ている。
「母ちゃんは一生懸命。だから俺たちもがんばらなくちゃ」
 そうこうするうちに、向夏花が遊びから戻ってきた。向夏花も学校へは行っておない。
「あっ、兄ちゃんの先生。こんにちは」
「やあヒマちゃん、外で遊んでたの?」
「うん。でも兄ちゃんいいな。私の先生って、全然来てくんないし」
 向夏花はさみしそうな瞳でささやいてきた。
「分かったから、お前は隣の部屋に行ってゲームでもしてろ」
 向夏花を追い出すと、時間を惜しむかのように、しきりに金木に話しかけてくる。
「先生、俺ん家って集金払ってないんだろ」
 中学校に入学した3年前から、一度も払われていないのは事実。
「修学旅行も行けなかったし。まあ本当は行きたかったんだけど」
「そうか。そりゃつらかったな」 
 昔だったら金◯先生が修学旅行費を出してくれた。でも、壮樹の旅行代金をみんなで肩代わりすることは、全くのお門違い。すると、壮樹が語気を強めてつぶやく。
「しょうがないじゃん、俺はこの家に生まれたんだから」
 しかたないかもしれないが、どこかいじらしさが感じられてしまう。
「ところで、今日来たのは進路について」
「また?そんなのどうでもいい」
「おい2月だぞ。もうおそいくらいだ」
 最近の話題はこれ一色となる。
「じゃ逆に聞くよ。俺ってどうすればいい?」
 そんなこと他人に聞くことじゃないことくらい、本人が一番良く知っているが、今の壮樹には、どう答えてやることもできない。
「そうだよなあ、悩むよなあ」
 金木は思いきって、話題を変えてみた。
「もうあと三か月、どうだ学校に顔でもだしてみないか?」
 不登校生徒にも色々なタイプがいる。精神的に追い込まれてしまうと、学校の話題はタブーなため、時間をかけてあたることが大事となってくる。しかし、壮樹は学校という仕組みそのものに疑問を感じ、そもそもなぜ学校に行かなきゃいけないのかを問いかけてきた。考えようでは、一度でも意義を見いだしさすれば、登校が可能っだたのかもしれなかった。
「いつも言ってるけど、何で学校ってあるの?だって、決められた時間に行き、決められた時間に帰る。音楽が聴きたくてもお腹が空いても、とにかくガマン。先生に理由を聞いても、答えは学校ってそんな所と。じゃあどんな所なんだよ。授業中に自由に考えろ、好きにしゃべっていいと言っておきながら、あれしちゃダメ、これしちゃダメと決めつけられる。チャイムによって動かされ、チャイムによって止められる。学校に自由なんて全然ないじゃん」
   金木は壮樹の言葉をさえぎることなく、じっと聞き続けた。
「卒業してえ。こんなわけ分かんない縛りから、早く解き放たれたい」
 その後も、壮樹が登校することはなかった。
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