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当たるも八卦当たらぬも八卦
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羽田美琴は中学校1年生で、両親と妹の4人暮らしだ。母の恵理子と妹の久留美とはとても仲が良く、人からはまるで三姉妹のようと言われている。親子ゲンカや兄弟ゲンカはあるが、それも仲が良い証拠だ。
「美琴、学校行かなきゃ遅れるわよ」
朝寝坊ではない。すでに美琴はダイニングで朝食も済ませているが、それでも学校へ急ごうとしない。
「待って、これ見てから行く」
朝からテレビに釘付け。
「本日の1位は獅子座のあなた、なんでも願いが叶います。ラッキーカラーは青色です」
どうやら情報番組の占いコーナーを見ているようだ。
『ショック私の射手座は11位!?でも赤色の何かを持ち歩けばいいんだよね』
真剣にTVを見る眼差しから、その必死さが伝わってくる。
「いつまで見てんの?早く行きなさい」
しぶしぶカバンを手に取り、家を出た。
『あっ忘れそうになった。赤、赤、赤の物あるかなあ』
あくまでも占いが命。体育大会の赤のチマキを見つけるとご満悦。
『えっと家から出るときは左足から』
いつものようにドアを右手で開け、左足から外に出ていく。
登校の途中にある横断歩道には、信号機が付いてる。
『ラッキー、赤だ。何かいいことある予感』
ところが渡ろうとしたら瞬間に青に変わってしまった。すると美琴は渡らず赤に変わるのを待った。
『早く赤になって、お願い。遅れちゃう』
赤になって再び青になるまで待っている。それもこれも占いのせいだ。
こうして美琴の毎日は、朝の占いの結果からスタートする。
学校に着いたのは8時ちょうど。これも予定通り。下駄箱の上履きは右手で取り、左足から履くことにしている。そして教室には前の扉から入り、自分の座席には右からは座る。ここまでが登校までのルーティーンとなる。
『よ~し、今日もいい日が送れそう』
もしこのルールに少しでもズレが出るようだと、パニックになってしまう。
お弁当の時間には、母が作ったおいしそうなミートスパゲティーを食べることになっている。
『ない、ない。あれほど言っておいたのに』
美琴はスパゲティーのときは、必ずいつもの銀のスプーンを入れておいてほしいと頼んでいたのに、それが入っていなかった。
『どうしよう、いつものスプーンがない』
美琴は弁当を食べずじまい。お腹を空かすより決まった通りにならない方が許せない。
5限目の理科の授業では、実験室で植物の繊維を顕微鏡で覗いた。その植物はトマト、すなわち赤色だった。
『これで弁当を抜いたのも吹き飛んじゃった』
テンション爆上げだ。それにしてもあらゆることを気にしながら過ぎていく。
「あっちょっと待って、グランドへは一礼し右足から入り、グローブは重ねて置こうね」
ソフトボール部キャプテンの美琴は、部員にこう呼び掛けている。このように余りにも細かすぎるため、部員たちからの評判はすこぶる悪い。
かねがねそれを気にしていた副キャプテンの莉菜が、話し掛けてきた。
「美琴、最近おかしいよ。とにかく自分のルールに従わない人に厳しく、だんだんとみんなが引いていくの分かるでしょ?」
「そう?でもこれが私のやり方だから」
練習が終了し後片付けをしていると、真っ赤な夕日がグラウンド一杯を覆ってきた。
『やった、赤。一日の終わりが赤なんて何て縁起がいいの』
琴美は、とことん朝の占いを信じぬいている。
帰宅した美琴は、ジョギングに出発した。いつものスエット、パンツで、走り出しは左足からだ。路地を右に曲がりコンビニの前を通ると、そこが第1チェックポイント。
『あったあった、いつもと同じ。順調、順調』
それは、いつも立ってるはずのプレミアムアイスののぼり旗を見つけたからだ。
『次はっと』
途中に大きな洋館があり、そこには大型の番犬がいて美琴に吠え掛けてきた。
♬ ワン ワンワン ♬
『ありがとう、トラボルタ。これで2つ目もクリア』
美琴は番犬に勝手にトラボルタと名付け、吠えらのを喜んだ。
そして3つ目。
『安佐野小路さんという珍しい家がここに』
通り過ぎるとき表札を確認したときだ。ショックのあまり、足を止めてしまった。
『あれ?鶴田になってる。えっ何で?安佐野小路じゃなの?』
こうなるとパニックをお越し起こし、やる気も失せたままトボトボと歩いて帰っていった。
「ねえママ、安佐野小路さんどうしたの?」
「あっ、あのお宅、引っ越されたそうよ。鶴田さんになったんだっけなあ」
部活終わりのあのラッキーな夕焼けけの『赤』が、無残にも崩れ落ちていった。それは美琴のヘコみ具合も相当なもの。
そもそもこのルートを決めたのも、占いによってだった。
『困るんだけど、予定と違うと』
美琴は母の恵理子にその全てを説明すると、恵理子は呆れてしまう。
「なんてくだらない。占いなんてあたらないもの」
「信じる者こそ救われるって言うじゃない。私はいいことしか信じないけど」
「とにかく変なこだわりはもたないこと。そうしないとあなたが苦しむだけよ」
美琴はこの信じ過ぎが高じ、周りの意見がとても気になるようになっていった。
翌日登校し教室に入ると、背後から美琴を呼ぶ声がした。
「えっ何?」
振り返っても誰もいない。
「あれ、確かに聞こえたんだけど」
そのとき教室内を見渡すと、クラスメイトが美琴の方を指さし、薄ら笑いを浮かべながらヒソヒソ話をしているように感じた。
「何みんなで私の方を見て笑ってんの?感じわるー」
その後も、昨日の出来事が頭から離れず、授業には集中できなかった。
放課後、グラウンドへ急ぐのは、キャプテンたる者が1番に行くべきだと考えているからだ。
ところが部員は誰1人もいなくて、それどころか部室の鍵も閉まったままだった。
『どうして誰もいないの?』
遅れて莉菜がやって来た。
「美琴ゴメン。あれ誰も来てないの?」
「それって私の方が聞きたいくらい。そもそも1年生が先にきて、グラウンド整備をやっとくべきじゃない?そうやって代々やってきたんだし。別に私は気にならないけど」
「もしかしてボイコット?最近の美琴、部員に厳しかったし」
「そんなことないよ。私だって言いたくないことでも言ってるんだから」
そこに、ソフト部1年代表の朋香が近づいてきた。
「朋香、遅い。それに何?何で誰もいないの?」
「キャプテン、これを読んでください。私たちの気持ちです」
手渡されたのは、手紙と1年生全員の退部届だった。
「どういうことこれって。なんで辞める必要があるの?それも全員で」
「とにかく読んでください」
そこまで言うと、朋香は去って行った。
美琴キャプテンへ・・・・・
その手紙を何度も何度も読み返した。
『何もかも、みんなのこと思ってやってるのに』
美琴は納得してないまま帰宅するとすぐに、夕方のワイドショーにチャンネルを合わせた。
今日の占いのおさらいです。最下位だった射手座のあなた、どんな1日でした?
どうやら朝の占いの続きのようで、射手座の美琴は1日の行動を確認してみた。
『なるほど。だからみんな辞めたんだ』
部員が辞めたのも今日が憑いてなかったから。彼女にとってあくまでも占いが基準だ。
「美琴、学校行かなきゃ遅れるわよ」
朝寝坊ではない。すでに美琴はダイニングで朝食も済ませているが、それでも学校へ急ごうとしない。
「待って、これ見てから行く」
朝からテレビに釘付け。
「本日の1位は獅子座のあなた、なんでも願いが叶います。ラッキーカラーは青色です」
どうやら情報番組の占いコーナーを見ているようだ。
『ショック私の射手座は11位!?でも赤色の何かを持ち歩けばいいんだよね』
真剣にTVを見る眼差しから、その必死さが伝わってくる。
「いつまで見てんの?早く行きなさい」
しぶしぶカバンを手に取り、家を出た。
『あっ忘れそうになった。赤、赤、赤の物あるかなあ』
あくまでも占いが命。体育大会の赤のチマキを見つけるとご満悦。
『えっと家から出るときは左足から』
いつものようにドアを右手で開け、左足から外に出ていく。
登校の途中にある横断歩道には、信号機が付いてる。
『ラッキー、赤だ。何かいいことある予感』
ところが渡ろうとしたら瞬間に青に変わってしまった。すると美琴は渡らず赤に変わるのを待った。
『早く赤になって、お願い。遅れちゃう』
赤になって再び青になるまで待っている。それもこれも占いのせいだ。
こうして美琴の毎日は、朝の占いの結果からスタートする。
学校に着いたのは8時ちょうど。これも予定通り。下駄箱の上履きは右手で取り、左足から履くことにしている。そして教室には前の扉から入り、自分の座席には右からは座る。ここまでが登校までのルーティーンとなる。
『よ~し、今日もいい日が送れそう』
もしこのルールに少しでもズレが出るようだと、パニックになってしまう。
お弁当の時間には、母が作ったおいしそうなミートスパゲティーを食べることになっている。
『ない、ない。あれほど言っておいたのに』
美琴はスパゲティーのときは、必ずいつもの銀のスプーンを入れておいてほしいと頼んでいたのに、それが入っていなかった。
『どうしよう、いつものスプーンがない』
美琴は弁当を食べずじまい。お腹を空かすより決まった通りにならない方が許せない。
5限目の理科の授業では、実験室で植物の繊維を顕微鏡で覗いた。その植物はトマト、すなわち赤色だった。
『これで弁当を抜いたのも吹き飛んじゃった』
テンション爆上げだ。それにしてもあらゆることを気にしながら過ぎていく。
「あっちょっと待って、グランドへは一礼し右足から入り、グローブは重ねて置こうね」
ソフトボール部キャプテンの美琴は、部員にこう呼び掛けている。このように余りにも細かすぎるため、部員たちからの評判はすこぶる悪い。
かねがねそれを気にしていた副キャプテンの莉菜が、話し掛けてきた。
「美琴、最近おかしいよ。とにかく自分のルールに従わない人に厳しく、だんだんとみんなが引いていくの分かるでしょ?」
「そう?でもこれが私のやり方だから」
練習が終了し後片付けをしていると、真っ赤な夕日がグラウンド一杯を覆ってきた。
『やった、赤。一日の終わりが赤なんて何て縁起がいいの』
琴美は、とことん朝の占いを信じぬいている。
帰宅した美琴は、ジョギングに出発した。いつものスエット、パンツで、走り出しは左足からだ。路地を右に曲がりコンビニの前を通ると、そこが第1チェックポイント。
『あったあった、いつもと同じ。順調、順調』
それは、いつも立ってるはずのプレミアムアイスののぼり旗を見つけたからだ。
『次はっと』
途中に大きな洋館があり、そこには大型の番犬がいて美琴に吠え掛けてきた。
♬ ワン ワンワン ♬
『ありがとう、トラボルタ。これで2つ目もクリア』
美琴は番犬に勝手にトラボルタと名付け、吠えらのを喜んだ。
そして3つ目。
『安佐野小路さんという珍しい家がここに』
通り過ぎるとき表札を確認したときだ。ショックのあまり、足を止めてしまった。
『あれ?鶴田になってる。えっ何で?安佐野小路じゃなの?』
こうなるとパニックをお越し起こし、やる気も失せたままトボトボと歩いて帰っていった。
「ねえママ、安佐野小路さんどうしたの?」
「あっ、あのお宅、引っ越されたそうよ。鶴田さんになったんだっけなあ」
部活終わりのあのラッキーな夕焼けけの『赤』が、無残にも崩れ落ちていった。それは美琴のヘコみ具合も相当なもの。
そもそもこのルートを決めたのも、占いによってだった。
『困るんだけど、予定と違うと』
美琴は母の恵理子にその全てを説明すると、恵理子は呆れてしまう。
「なんてくだらない。占いなんてあたらないもの」
「信じる者こそ救われるって言うじゃない。私はいいことしか信じないけど」
「とにかく変なこだわりはもたないこと。そうしないとあなたが苦しむだけよ」
美琴はこの信じ過ぎが高じ、周りの意見がとても気になるようになっていった。
翌日登校し教室に入ると、背後から美琴を呼ぶ声がした。
「えっ何?」
振り返っても誰もいない。
「あれ、確かに聞こえたんだけど」
そのとき教室内を見渡すと、クラスメイトが美琴の方を指さし、薄ら笑いを浮かべながらヒソヒソ話をしているように感じた。
「何みんなで私の方を見て笑ってんの?感じわるー」
その後も、昨日の出来事が頭から離れず、授業には集中できなかった。
放課後、グラウンドへ急ぐのは、キャプテンたる者が1番に行くべきだと考えているからだ。
ところが部員は誰1人もいなくて、それどころか部室の鍵も閉まったままだった。
『どうして誰もいないの?』
遅れて莉菜がやって来た。
「美琴ゴメン。あれ誰も来てないの?」
「それって私の方が聞きたいくらい。そもそも1年生が先にきて、グラウンド整備をやっとくべきじゃない?そうやって代々やってきたんだし。別に私は気にならないけど」
「もしかしてボイコット?最近の美琴、部員に厳しかったし」
「そんなことないよ。私だって言いたくないことでも言ってるんだから」
そこに、ソフト部1年代表の朋香が近づいてきた。
「朋香、遅い。それに何?何で誰もいないの?」
「キャプテン、これを読んでください。私たちの気持ちです」
手渡されたのは、手紙と1年生全員の退部届だった。
「どういうことこれって。なんで辞める必要があるの?それも全員で」
「とにかく読んでください」
そこまで言うと、朋香は去って行った。
美琴キャプテンへ・・・・・
その手紙を何度も何度も読み返した。
『何もかも、みんなのこと思ってやってるのに』
美琴は納得してないまま帰宅するとすぐに、夕方のワイドショーにチャンネルを合わせた。
今日の占いのおさらいです。最下位だった射手座のあなた、どんな1日でした?
どうやら朝の占いの続きのようで、射手座の美琴は1日の行動を確認してみた。
『なるほど。だからみんな辞めたんだ』
部員が辞めたのも今日が憑いてなかったから。彼女にとってあくまでも占いが基準だ。
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