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奇妙な友情1(使用人から友だちに)
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奇妙な友情1(使用人から友だちに)
城井興業は城井正が一代で興した。そもそもはプラント建設や住宅建築からスタートしたが、その後に手広く事業を拡大させていった結果、城井コンツェルトと呼ばれるほどの一大企業集団にまで成長させてきた。従業員数は関連企業と含めると1000人以上となり、地域経済のには欠くことができない存在となっている。
ただ、事業が急成長したため、ライバル企業との競争や、関連企業からの苦情のトラブルが多いが、
敵が多いのは認められてる証拠
が正の口癖だった。
その城井興業の跡取りとして期待されてるのが、1人息子の拓史。山多津中高一貫校中等部2年の彼は、成績やスポーツ面で特別図抜けてるわけでもなく、見た目も極々普通の少年だ。ただ、人柄の良さは抜群で、彼のことを悪く言う人はまずいない。まさに生き馬の目を抜く世界に生きてる正とは、真反対のおっとりな性格といえる。
そんな拓史の家と学校との往き来は、運転手付きの高級外車学校が送り迎えする毎日。そんな送り迎えをしている最も大きな理由は、敵が多い城井家なだけに、いつ誘拐に遭ってしまうのではないのかと恐れているからだ。ここは歴とした日本だが、用心には用心を重ねているのが本音だ。
朝7時は拓史が登校する時間となる。
「拓史様、登校のお時間となりました」
いつものように、専属運転手の水森義男が迎えに来た。76歳の彼は、かつては城井家に仕える使用人だったが、5年前から拓史お付きの運転手となった。拓史が生まれる前から城井家と関わってきただけに、単なる運転手というより、心許せるよき理解者といえる。拓史も親しみを込めて義男のことを〝 爺 〟と呼んでいた。
「爺、今朝もありがとう」
「何をおっしゃるんですか、爺は拓史坊ちゃんとの車中が一番楽しいです」
「ねえ、前から思ってたんだけど、拓史坊ちゃんは止めてくんない?」
「そんなとんでもございません。私は雇われの身ですから」
「じゃあ、僕はもう車に乗るの止めることにする」
駄々っ子みたいだけど、拓史が世界中で雄一わがままを言える相手なのかも知れない。
結局、拓史は義男を“ヨッシー”、義男は拓史を“タク坊”と呼ぶことになった。本来は拓史に脅される形となった義男だったが、困った素振りは見せながらもうれしそうだから不思議だ。
2人を乗せた車が学校に近づいたそのときだ。
「ヨッシー、学校を通り過ぎてって」
「えっどこまでですか?学校に遅れますよ」
義男は拓史に急用ができたと思い尋ね返したが、
「いいからそのまま!」
あまりにもかたくなに言い続けるるので、義男は学校前を通り過ぎて行く。
「タク坊、どこまで行けばいいんですか?」
「海岸まで行って。その後のことはそこで考えよう」
言われるままに車を30分ほど走らせると、洞上海岸に着いた。夏場は大勢の海水浴客であふれかえってる海岸も、この時期ともなると人っ子一人見当たらない。
「いいねえ、寒風吹きつける海って」
「拓史坊ちゃん、じゃなくてタク坊。学校の方はよろしいんですか?」
「ヨッシー、スマホの電源切って」
いわれるままに義男が切った。そして拓史も切る。
これで自由。全てからの解放
けたたましく鳴り響く城井家の電話を、母の美寿々が取った。
「拓史さんが、まだ登校してきてませんが、どうなさいました?」
それは、学校から拓史の欠席を知らせる電話だった。確かに家は出て行ってはずだっただけに、美寿々が慌てたのも無理はない。そこに正がやってきて、その動きを知ることになる。
「拓史、いや水森に電話しろ!」
すぐに電話を掛けてみても、繋がらないのないのが当然で、スマホの電源は切られている。
美寿々がパニックに陥ってしまう中、正があることに気づいた。
「待てよ、これって誘拐じゃないか。警察だ、警察に連絡しろ。もしかして水森の奴。あいつ首にしたのを逆恨みしたんじゃないか?」
すぐに1課の刑事たちがやってきた。やけに対応が早いのも、それが城井家だからということではないことを願ってしまう。
「探知機を設置、メールのチェックもお願いします。ことがことだけに隠密に動きます」
すぐに所轄の警察署には“城井拓史氏誘拐事件捜査特別本部”が設置された。
敵が多い家だけに緊迫感が漂ってきたが、肝心の拓史や義男がも知る余地はなかった。
拓史と義男は車を降り、一緒に海岸線を歩く。
「ヨッシーが運転手を辞めるって聞いたんだけど、それってホント?」
義男は、拓史のいきなりの質問に一瞬たじろいたが、冷静に答える。
「バレちゃいましたか。まあ、こっそり去ろうと思ってたんですけど」
「それって父さんに辞めさせられたってこと?」
「・・・そんなことないです。けど・・・長かったかですからねえ」
「俺、ヨッシーだから本心で話せるんだ。ヨッシーがいなくなるなんて。考えただけでも辛くて・・・だから・・・ヨッシーとお別れしようと思って。いい?今日1日は普通に友だちだからね」
「お別れ、ですか?それに友だち?」
「そう、2人っきりで思い出の旅行をしようよ、いいよね?」
突然の提案だったが、義男も拓史をかわいがってきただけに、ほだされてしまう。
「分かりました。で、どこに行きます?」
「実はもう決めてんだ。渋地」
渋地村。そこは、中学校卒業後に東京に出てくるまで過ごした義男の生まれ故郷だった。義男は、それ以後60年以上は帰っていなかった場所だった。
「よく俺に渋地のこと話してたよね。だから最後は渋地と思って」
拓史の心配りが、義男には涙が出るくらいうれしかった。
「分かりました、ちょうど今ごろは紅葉がきれいですよ」
「決定。車はここに置いておくにして。あと携帯も車の中にね。位置がバレちゃうから」
ここに、14歳の少年と76歳の老人との奇妙な旅が始まった。
渋地に向かう2人 奇妙な友情2へつづく
城井興業は城井正が一代で興した。そもそもはプラント建設や住宅建築からスタートしたが、その後に手広く事業を拡大させていった結果、城井コンツェルトと呼ばれるほどの一大企業集団にまで成長させてきた。従業員数は関連企業と含めると1000人以上となり、地域経済のには欠くことができない存在となっている。
ただ、事業が急成長したため、ライバル企業との競争や、関連企業からの苦情のトラブルが多いが、
敵が多いのは認められてる証拠
が正の口癖だった。
その城井興業の跡取りとして期待されてるのが、1人息子の拓史。山多津中高一貫校中等部2年の彼は、成績やスポーツ面で特別図抜けてるわけでもなく、見た目も極々普通の少年だ。ただ、人柄の良さは抜群で、彼のことを悪く言う人はまずいない。まさに生き馬の目を抜く世界に生きてる正とは、真反対のおっとりな性格といえる。
そんな拓史の家と学校との往き来は、運転手付きの高級外車学校が送り迎えする毎日。そんな送り迎えをしている最も大きな理由は、敵が多い城井家なだけに、いつ誘拐に遭ってしまうのではないのかと恐れているからだ。ここは歴とした日本だが、用心には用心を重ねているのが本音だ。
朝7時は拓史が登校する時間となる。
「拓史様、登校のお時間となりました」
いつものように、専属運転手の水森義男が迎えに来た。76歳の彼は、かつては城井家に仕える使用人だったが、5年前から拓史お付きの運転手となった。拓史が生まれる前から城井家と関わってきただけに、単なる運転手というより、心許せるよき理解者といえる。拓史も親しみを込めて義男のことを〝 爺 〟と呼んでいた。
「爺、今朝もありがとう」
「何をおっしゃるんですか、爺は拓史坊ちゃんとの車中が一番楽しいです」
「ねえ、前から思ってたんだけど、拓史坊ちゃんは止めてくんない?」
「そんなとんでもございません。私は雇われの身ですから」
「じゃあ、僕はもう車に乗るの止めることにする」
駄々っ子みたいだけど、拓史が世界中で雄一わがままを言える相手なのかも知れない。
結局、拓史は義男を“ヨッシー”、義男は拓史を“タク坊”と呼ぶことになった。本来は拓史に脅される形となった義男だったが、困った素振りは見せながらもうれしそうだから不思議だ。
2人を乗せた車が学校に近づいたそのときだ。
「ヨッシー、学校を通り過ぎてって」
「えっどこまでですか?学校に遅れますよ」
義男は拓史に急用ができたと思い尋ね返したが、
「いいからそのまま!」
あまりにもかたくなに言い続けるるので、義男は学校前を通り過ぎて行く。
「タク坊、どこまで行けばいいんですか?」
「海岸まで行って。その後のことはそこで考えよう」
言われるままに車を30分ほど走らせると、洞上海岸に着いた。夏場は大勢の海水浴客であふれかえってる海岸も、この時期ともなると人っ子一人見当たらない。
「いいねえ、寒風吹きつける海って」
「拓史坊ちゃん、じゃなくてタク坊。学校の方はよろしいんですか?」
「ヨッシー、スマホの電源切って」
いわれるままに義男が切った。そして拓史も切る。
これで自由。全てからの解放
けたたましく鳴り響く城井家の電話を、母の美寿々が取った。
「拓史さんが、まだ登校してきてませんが、どうなさいました?」
それは、学校から拓史の欠席を知らせる電話だった。確かに家は出て行ってはずだっただけに、美寿々が慌てたのも無理はない。そこに正がやってきて、その動きを知ることになる。
「拓史、いや水森に電話しろ!」
すぐに電話を掛けてみても、繋がらないのないのが当然で、スマホの電源は切られている。
美寿々がパニックに陥ってしまう中、正があることに気づいた。
「待てよ、これって誘拐じゃないか。警察だ、警察に連絡しろ。もしかして水森の奴。あいつ首にしたのを逆恨みしたんじゃないか?」
すぐに1課の刑事たちがやってきた。やけに対応が早いのも、それが城井家だからということではないことを願ってしまう。
「探知機を設置、メールのチェックもお願いします。ことがことだけに隠密に動きます」
すぐに所轄の警察署には“城井拓史氏誘拐事件捜査特別本部”が設置された。
敵が多い家だけに緊迫感が漂ってきたが、肝心の拓史や義男がも知る余地はなかった。
拓史と義男は車を降り、一緒に海岸線を歩く。
「ヨッシーが運転手を辞めるって聞いたんだけど、それってホント?」
義男は、拓史のいきなりの質問に一瞬たじろいたが、冷静に答える。
「バレちゃいましたか。まあ、こっそり去ろうと思ってたんですけど」
「それって父さんに辞めさせられたってこと?」
「・・・そんなことないです。けど・・・長かったかですからねえ」
「俺、ヨッシーだから本心で話せるんだ。ヨッシーがいなくなるなんて。考えただけでも辛くて・・・だから・・・ヨッシーとお別れしようと思って。いい?今日1日は普通に友だちだからね」
「お別れ、ですか?それに友だち?」
「そう、2人っきりで思い出の旅行をしようよ、いいよね?」
突然の提案だったが、義男も拓史をかわいがってきただけに、ほだされてしまう。
「分かりました。で、どこに行きます?」
「実はもう決めてんだ。渋地」
渋地村。そこは、中学校卒業後に東京に出てくるまで過ごした義男の生まれ故郷だった。義男は、それ以後60年以上は帰っていなかった場所だった。
「よく俺に渋地のこと話してたよね。だから最後は渋地と思って」
拓史の心配りが、義男には涙が出るくらいうれしかった。
「分かりました、ちょうど今ごろは紅葉がきれいですよ」
「決定。車はここに置いておくにして。あと携帯も車の中にね。位置がバレちゃうから」
ここに、14歳の少年と76歳の老人との奇妙な旅が始まった。
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