丹精込めて

101の水輪

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丹精込めて

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みなさんも持ってるスマホはとても便利なものです。でも知ってますよね。使い方を間違えるととても危険な道具となってしまいます。SNSはとてても楽しく便利です。ただ知らない相手とのネット通信により事件に結びつくことがあります。気を付けてください。なにせ賢く使いこなしましょう
 
 三田中学校の1年生ではネットトラブルに巻き込まれないようにスマホ教室が毎年開かれている。あるアンケートによると、今の中学生の8割以上がスマホを持っていると答えている。何に使うかという項目では、動画視聴やコミュニケーションが8割以上、ゲーム、音楽視聴、情報検索と続く。利用時間は3時間以上が33%、2時間以上が26%。持つきっかけは様々で、塾帰り等親への連絡、ゲームをしたい、音楽を聴きたい。
 そして子どもが親に頼むときに一番多いのが『友だちみんなが持ってるから』が親の泣き所だ。
 親からの心配は、使いすぎによる生活の乱れや勉強不足、有害サイトの閲覧、いじめの加害・被害、見知らぬ人とのトラブル等数えたらキリがない。
 ただ一つ言えるのは、スマホの便利さを覚えると2度と手放せないというのが現実だ。  

 野口美空は中学1年生で、父の哲朗、母の絵美の3人家族だ。

「ママ買って、買って、買って。友だちみんな持ってるんだから」
 究極の殺し文句が出た。これを言われると本当に親は弱い。 
「みんなって、美空の周りだけでしょ」
「そう、だからじゃない。持ってないと私だけ仲間はずれになっちゃうよ」
「ママだけじゃ決められないわ。パパにも相談しなくちゃ」
 そのときです。
「ただいま、帰ったぞ」
 運良くというか、悪くというか哲朗が帰ってきた。このパパ、一人娘にはかなり甘いことはみんな知っている。
「お願いパパ買って、いいでしょうスマホ」
「この前も言ったじゃないか、高校入学してからだって」
「いいのね、美空が独りぼっちになっても」
  涙声で必死に訴えた。ここで引いたら、本当に友だちがいなくなってしまうと思い込んでいるだけに必死だ。
「しょうがない、分かった分かった。でも使うときの約束だけは決めとくぞ、もし守れなかったら使用禁止だ、いいな」
「は~い、守りま~す」
 まさに大甘裁定。これにより、美空の中学生としての第一歩が始まった。

 美空はさっそく学校で友だちに報告していた。
「発表します。野口美空さ~ん、スマホデビューしました~」
「おめでとう、これで私たち本当の仲間ね」
「そう、美空だけLINEできなかったもの」
 仲良し4人組の結束がより固まった、はずだった。

 帰宅後、美空はすかさずスマホを触っている。
『どれどれLINEには・・・来てます来てます。ヤッター』
 すでに4人組からLINEが届いていた。
  
  美空おめでとう

  デビューだね
  
  これでようやく4人がそろったね

『えーと、これに答えればいいんだよね』

  はい よろしくお願いします

 すぐに返信が来た。
『あ~忙しい、忙しい』
 美空にとって、至福のひとときだ。
「美空、美空、塾行かなくていいの?遅刻しちゃうわよ」
 予定、計画がみんな吹っ飛ぶほどにスマホに夢中だ。
 塾へ行ってもLINE交換がメインで、授業など頭に入るわけがない。帰宅の途中にもスマホをチェックし出すあり様で、美空はしだいにスマホの沼にはまっていった。
 
「美空、いいか開けるぞ」
 哲朗が部屋のドアを開けると、美空がベットで布団を頭から被り突っ伏し泣いてるのは明らかだ。絵美からの情報では、仲良し4人組から仲間はずれにされてしまったようだった。
「美空つらかったなあ、何があったんだ?」
「・・・・・友だちからハブられた」
「どうして?」
「何か、LINEみたい。野口家のルールでは夜使用禁止でしょ。だからいつも電源切ってんだけど、そのときみんなから遊びの誘いがあったみたい。それにすぐ答えなからだって。だって見たの朝になってからだったし。それからというもの声もかけられなくなってしまって・・・」
 もう美空の涙は止まらない。
「そうなんだ、つらかったなあ。まあこれがスマホだ。使い方によっては凶器にもなる。難しいけど切り替えよ」
「そんなのすぐには無理に決まってる」
 美空が立ち直るには、かなり時間がかかりそうだ。

 あれ以来、美空がふさぎ込む日々が続いてる。今日も帰宅後すぐに部屋に引きこもり、それからというもの出て来る気配がない。この気持ちは絵美にも伝染してしまい、何とかしたいと思った哲朗が動き出した。 
「美空、ちょっと話あるんだけどいいかなあ」
「別にないって!入らないで」
「すぐ終わるから聞くだけ聞いてくれ」
 そう言うと、哲朗は1冊の雑誌を見せてきた。それはかなり古く、ページがバラバラにとれそうになっている。そしてその中のあるページを開き、指さした。
「ほらここを見てみろ。パパの名前があるだろ」
 
  野口哲朗

「何これ?なんでパパの名前があるの?」
「パパが中学生のころの雑誌で、文通相手募集の知らせなんだ。SNSどころかネット環境もなかったときの話。もしその人物に興味が出たら、住所に手紙を送れば互いの文通交換がスタートする仕組だったんだ。今と違い、なかなか人と知り合う機会が少なかった時代のお話」 
「これってパパもやってたの?」
「ああ、載せたら3人から返事が来て。そのうちの1人と手紙のやり取りしてたよ」
「どんな人だったの?教えて教えて」
「パパと同じ中学3年生の女の子で、名前は佐和田静香さん。北海道の子。ご両親が牛を飼ってて、毎日その手伝いをしてるって書いてあったかなあ」
「顔見たことあるの?あっメールってなかったのか?」
「だから写真を送り合ってさ。撮る前なんか妙にオシャレして、緊張したの覚えてる」
「どんなこと書いたの?」
「たわいもないこと。今日こんな授業があったとか、テレビで何見たとか。今から思えば笑っちゃうくらいかな。便せん2枚ぐらい書くのに、3日はかかった。書いちゃ直し直しちゃ書くの繰り返し。あと、彼女からの手紙をドキドキしながら待ったのを思い出す」
「バリバリのアナログじゃん、そのあとどうなったの?」
「そのあと?別に何もなし。2年間ほど続いたかなあ。それで終わり」
「会ったことなかったの?」
「なかったねえ。だから良かったのかもしれない。文字を通してだけのやりとりだったので想像するしかなかった。 まあそれはそれで楽しかったのかも」
「パパの青春の1ページだね」
「そうかも。でもこれってママには絶対に内緒だぞ」
「OK、パパとの秘密にしてあげる」

 美空の表情が明るくなっていき、机に向かう時間も長くなった。でもそれは勉強のためとかじゃなく、何か作業をしているようだった。
 そのとき絵美が部屋に入ってきた。
「美空、お待ちかねの手紙来たわよ。ペンフレンドの流星君からね」
「やだ、開けて見てないでしょうね」
「見たの少しだけかなフフフ」
 冗談が言い合えるほど、かつての明るい野口家に戻ってきた。
「終わったらさっさと出てって。私忙しいんだから」
 美空は絵美を追い出すと、すぐに手紙を開けた。そこには、ボールペンのインクのにおいが微かにする、特徴的な右上がりの流星の文字が書き込まれていた。

  美空ちゃん元気ですか?僕は学校でーー・・・・・
 
 日々デジタルに囲まれてるあなた、こんな淡い想いをお忘れでは?
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