きょういぞん

101の水輪

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きょういぞん

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 皇居にほど近い高辻町は近隣の地域と同じく再開発が進み、住民たちは高辻町から郊外への転居が加速している。街の中でありながら、過疎化という皮肉な現象が起きている。そのため、高辻中学校も全生徒200人前後の小規模校となり、毎年10名前後が転出していく状態が続いている。
 
 その高中に通う2年生の高田淳平と橘誠也は、幼なじみで同じクラスにいる大親友だ。
「淳平、カラオケ行こうぜ」
「淳平、新刊マンガ買って来てくんない?」
「淳平、お金貸してよ、小遣いもらえるの来週なんだ」
「淳平・・・・・・」
  それは朝だろうと、昼だろうと、夜だろうと、いや夜中だろうとお構いないしだ。
 
 淳平の携帯が鳴った。誠也から、というよりすべてが誠也からだ。
「おい、なんで俺の電話に出ないんだよ。シカとか?」
 誠也と淳平の間には5秒ルールがある。
「ごめん、ごめん。風呂入ってて気づかなかった」
 一応、そうしておいた。
「本当か?まあいいや。ねえ、明日、家まで迎えに来て。最近遅刻苦気味でぎみで、担任に嫌み言われてんじゃん」
 誠也は最近になって成績は下降気味で、あわせて行動面でも担任から注意を受けることが多くなっていた。
「誠也って、近ごろ叱られることが」
 淳平はそこまで言うと、言葉を飲み込んだ。
「分かったよ。7時半に迎えに行く。ちゃんと起きてろよ」
 そう答えるしかなかった。
「サンキュウー、さすが親友。頼りになる」
「そう言っていつもおだててばかり」
 それは誠也にも分かってること。
 電話が切れた。時計を見るとすでに夜中の2時。早く寝たかった淳平は、生返事で答えてしまった。
 こんな風に、時と場所を選ばず、電話とLINEが入ってくる。もし出ないとしたら?考えただけでも恐ろしくなるが、それでも、淳平が誠也に不満を言うことはない。それどころか、どこか嬉しそうだ。この2人の関係は、端から見ると不思議だが、当人同士は楽しんでるようにさえ思える。

「淳平、起きなさい。遅刻しちゃうわよ」
 翌朝、母の金切り声で、淳平はベッドから飛び起きた。時間はもう七時半をまわっている。
「やばい、誠也んとこ行かなきゃ」
 洗面、朝食を吹っ飛ばし、誠也の家へ向かった。時刻は8時に迫っている。
「誠也、ごめん。寝坊しちゃった」
 玄関ドアを思いっきり開けると、誠也の祖母が顔を出した。
「あら、淳平君。誠也ならもう行ったわよ。どうも淳平君を待ってたみたい」
「ホントですか?じゃあすぐに行きます」
 緊急事態発生。学校へ行く途中の淳平の頭には、誠也の怒り狂ってる顔が映し出されてくる。

 どうしよう どうしよう
 
 淳平が学校に着いたのは、開始時刻をとうに回った8時十分でした。汗だくになって教室に飛び込んだ。

 遅れてすみませ~ん

 シーンとしていた教室に、どっと笑いが起こる。担任が見かねて突っ込みを入れる。
「高田、お前が遅れてくるなんて珍しいな。何かあったか?」
 確かに起きてすぐ学校に来れば間に合うはずが、まさか誠也の家に迎えに行ってたなんて、口が裂けてもいえるはずがない。
「いや、その。寝坊しちゃったんです」
 こう答えることが精一杯だ。
「そうか、明日からは気を付けろよ」
 淳平は、バツ悪そうに席に向かうとき、誠也の席の横を通り過ぎたことを淳平は覚えていない。

 一時間目の授業が終わった。淳平はすかさず誠也に近づく。
 
 きっと怒鳴られるだろうな、しかたない

 淳也は身構えながらも、誠也に話し掛けてみた。
「本~当ゴメン。勘弁して」
 なかなか顔が上げられない。とこらが。
「ぜんぜん。なんで謝るんだ?それより大変だったなあ」
 そんな誠也の反応に、淳也は驚きを通り越し、寒気を感じてしまう。
「えっ、許してくれるの?なんていい奴なんだ」
 その後、2人は何事もなかったlかのように、いつもの調子でじゃれ合っている。

 その日の夕飯どき、淳平は母から奇妙な事を聞かされた。
「誠也君ん家って、ご両親ともいらっしゃらないの?」
 あまりにも唐突な言葉に、淳也もいぶかってしまう。
「何で、急にそんなこと聞くの?」
 確かに誠也の両親ともそれぞれが家を出て行き、今は祖母との二人暮らしていた。
「いや、千先君のお母さんから聞いたんだけど、最近、誠也君ちょくちょく悪いことをして、注意されてるそうじゃない。その原因が、ご両親がいなくてなら」
 すると、淳平は母の言葉を遮り大声で怒鳴り返した。
「ひどいこと言うな。誠也はそんな奴じゃない」
 誠也の行動がおかしいことは淳平にも分かっていた。それでも結びつけるのは違うんじゃないかと。
 
 どうして大人って勝手に結びつけたがるんだ

 淳平の怒りは、いつまでも止まらない。

 ある日の理科の授業のこと。
「よ~し授業はここまで。まとめとして、今やってる『環境破壊』についてレポート提出をしてもらう。来週のこの時間までな」
 教室は騒然となった。何せ、毎週のようにレポート提出が続いていたからだ。それも理科だけでなく、あらゆる教科でである。
 
 勘弁してくれよ

 とにかく課題提出が多い学校だ。部活や習い事、塾があるだけに、不満が渦巻く。

 その日の帰り道、淳平は誠也と一緒に帰宅の途についていた。
「またレポートなんて。本当にどうにかしてるよこの学校」
「淳平、お前が言うか?学年一の秀才が」
 淳平の成績は抜群で、レートなんてなんてことはないはずだ。
「これだけ数が増えれば俺だって」
 すると誠也が急に神妙な面持ちになった。
「ところで相談なんだけど、俺の分やってくんない?それも俺のレベルに合わせて書いて欲しいんだ。何せ俺ってバカだから」
 出た、いつものやつだ。
「・・・しょうがないなあ」
 淳平も二つ返事で、承諾してしまった。

「橘、橘いるか?すぐに職員室へ来なさい」
 誠也が職員室に呼ばれた。みんなが考えることは同じだ。
「先生、俺何か悪いことした?」
「おうっ来たか、橘おめでとう。中々やるじゃないか。この前の理科の時間に提出した『環境破壊』のレポートが全国大会で環境大臣賞をとった。お前、見直したなあ」
 なんと誠也のレポートが認められたのだった。

ちょっと待て、あれは確か。そんなの困る

「何言ってんだ、こんなめでたいことはないじゃないか」
 さすがに誠也もまずいと思ったが、言い出せなくなってしまったた。

 まあ、いいっか

 受賞が分かってからの数日後、再び誠也は職員室に呼ばれた。
「何すか?テレビの取材でも来たんすか?」
 不正の事実も忘れ、ヒーロー気取りです。しかし、そこには近くの交番から来た警察官がいた。
「君が橘君か?レポートなんだけど。君の作品と同じものが、他のコンペで受賞してたんだ。君、盗作しただろう。ネットの時代だ。コピペしても、すぐばれる」
  誠也は固まってしまった。
「えっ、あれは。俺って捕まるんすか?」
 誠也脳裏に、なぜか淳平の笑い顔がよぎった。

 これってもしかして。あいつやりやがった
 
 誠也の疑念は晴れることはない。詳しくは警察署で聞かれることになった。それにしても、あんなに仲が良かった2人のはずが、果たして淳也は、誠也を裏切ったのか?
 
 それは闇の中。

 見捨てられる不安などから、相手に心理的安心を求め合う共依存。その関係に心地よさを感じる一方で、脱しきれず悩む人が多数いるのも事実だ。


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