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人魚探し

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 都内某所。人気のないビル解体現場。時刻は深夜。今は厚ぼったい雲に月が隠れ、闇が辺りを覆い隠している。真っ暗だな、と魁利は空を見上げた。砂利を踏む音に、魁利はゆるりと振り返る。夜でも見通すその眼には、上着についた砂埃を払う曜一の姿が良く見えた。

「お疲れさん」

「怪我は?」

「たかだが地縛霊を片付けるのに、怪我も何もないっつの。バーッと燃やして、苦しませなかった」

「お坊ちゃんらしい。……っと、溝に足が……」

 解体工事の為に抉れた地面に足を取られ、曜一が僅かにバランスを崩す。彼の目にはあまりよく見えていないのだろう。
 政府から急に舞い込んできた依頼は、工事現場で発生している奇々怪々な出来事の解決で、作業員のいなくなった後に仕事をしたのだ。
 女の泣き声も、子供の笑い声も、正体はこの世の中に漂う負の感情の塊であり、魁利の炎で燃やしてしまえば、一時間も掛からずに終わってしまった。暴れ足りない。手ぬるすぎる。
 周囲が暗いものだから、とそれを建前にして、魁利は蛍のように小さい無数の火を生み出し、宙に彷徨わせた。これくらいで憂さは晴れないが、やらないよりはマシだ。

「つーか、こんな仕事してる場合なのかよ。ほら、人魚を探さなくちゃいけないんだろ?」

 お気に入りの紫色のブルゾンに手を突っ込み、拳ほどの礫岩を蹴り飛ばす。そうして、二日前に舞い込んできた依頼の内容を反芻させた。



 ――人型の式神が言う。偉そうな男の声で。

 二か月前。人魚の少女が、人魚の集落から姿を消した。陸上にいる可能性があるとの証言があり、彼らとの友好的な関係性を継続する為に、我々も捜索に協力する事とした。
 彼女を速やかに、かつ生きた状態で保護し、政府へと連行せよ。なお、死亡が確認された場合にはその死体を回収し、政府へと引き渡せ。
 外見年齢は十代後半から二十歳。白い肌に白い髪をしている。諸君らの働きに期待している。


 用件だけを一方的に伝令した後、偉そうな式神は自然発火して燃え尽きてしまった。今時、写真の一つも寄越さず、あやふやな人相だけを口頭で告げられるとは、思いもしなかった。それは曜一も同じだったようで、燃える事を見越して台所のシンクで二人並んでそれを聞いた後、二人して互いの顔を見合わせてしまった。


「あれについて少し探りを入れたが、どうやら私たち以外の異能者にも声が掛かっているらしい。まるで懸賞金付きのレースをさせているかのようだ」

「まじで?」

 普段であれば、政府のエージェントからそれぞれの人間に命令が下るのだが。今回は複数の人間が、同じく『人魚探し』をしているという。そんな情報を、一体どこから仕入れてくるのか。「秘密さ」と、魁利の視線に気付いた曜一が唇に人差し指を立てた。

「なら、探すのが得意な異能を持ってる奴の勝ちじゃん。やるだけ無駄無駄。俺達の家は、そういうのガバガバだし」

 それぞれの異能者には得手不得手がある。物探しに特化した能力を所有している家柄は少なくない。ちなみに真宮家の取り柄は、本家が五行を万遍なく得意とし、分家が幻術を得意としている。しかしながら、諸事情により、魁利は火の系統以外は非常に弱い。
 最初から、何かを探す行為自体、真宮家の血を持つ者には有利とは言えない。しかし、実際には政府から正式な依頼を受けている。それは最初から変だとは思っていた。

「おそらくだが、初めは少数精鋭で取り掛かっていたが、捜索する人数を単純に増やしたいんだろう。公開捜査、とでも言うべきか。人魚の気配は、水と同じものとされている。上下水道はもとより、個人が所持している水筒、ペットボトル、雨でさえ、人魚のそれとは区別かつかない」

「げえ……。そんなもん、なおさら見つかる訳ねーじゃん!」

「それでも探せと言うんだ。彼らは海の中で、階級社会による高度な自治と統率を保っていると聞く。……失踪した人魚は、ただの人魚ではないのかもしれない」

 曜一は顎に手をやり、何やら思案していた。
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