8 / 54
第1章
8
しおりを挟む
「本当に、何も無いのだな」
添え付けのクローゼットに机、それらは木目がハッキリとわかる使い古された物。
天蓋のレースを外してカーテン代わりにしたので、ほぼ骨組み状態のベッド。
それが私の部屋の全て。
「クローゼット、開けていいか?」
「構いませんが・・・何も入っておりませんよ?」
「いいんだ。では開けるよ」
ガチャリと簡単に開く扉。
中は数枚のワンピースのみ収納されている。
「ドレスすら無いとは・・・」
「何が見たいのです?」
「ドレスも無く、装飾品も無い。専属侍女も居ない。自分の世話は自分でやる・・・私はどれだけお前を見ていなかったのだ・・・」
「仕方がありません。公爵様は操られていたのですから」
「え?」
まぁ、不思議に思うのも当然ね。
「操られ?」
「はい。恐らく公爵夫人に催眠術か何かを掛けられておられたのではないかと」
「催眠術・・・」
「だって、そうでしょう?公爵様は私のお母様と政略結婚と思えない程の大恋愛をなさった。幼い頃によくお聞きしました。そんな公爵様が、お母様が亡くなって直ぐに公爵夫人をお連れになられた時、違和感がありましたもの」
「何故、知らせてくれなかった?」
「・・・」
「リリアローズ?」
「その日に公爵様にお知らせしました。でも、当主の決定に逆らうな‼︎とお叱りを受けました」
その時の事が信じられなかったのか、お父様は目を見開いている。
暴力こそなかったけれど、それに類似した勢いで叱られた時の事が鮮明に思い出される。
あの時から、お父様に期待するのを止めたの。
「私は・・・」
「お気になさらないでください。私はもう直ぐ居なくなるので、憂いは晴れますよ」
「何処に行くのだ⁉︎」
「北の修道院あたりでしょうか?私は公爵家のお荷物なので、出て行こうかと思っています」
「い、行く必要は・・・」
「ありますよ?お姉様が後を継がれるのなら、婚約破棄した私は傷物ですから、公爵家から出るしかないですし。取り敢えず自分の事は自分でしてきたので、大丈夫でしょう」
修道院で、お仕事もらえるかしら?
それとも、どこかのお屋敷で侍女をするのもアリですね。
「その事で旦那様にお話があります」
セバスチャンがいつの間にか帰ってきていました。
「話?」
「はい。リリアローズ様の今後に関わってくる事です」
「直ぐに聞く。執務室に行くぞ。リリアローズも来なさい」
スクッと立ち上がったかと思ったら、私の手を取ってお父様はセバスチャンを伴って歩き出す。
私の今後って何でしょう?
執務室に入ると、お父様は隣に何故か私を座らせた。
「公爵様?」
「父と呼んでおくれ」
「公爵様と呼べとおっしゃ・・・」
「お父様だ。ほら、呼んでごらん?」
「・・・お父様?」
次第にぱぁっと笑顔になるお父様。
「うんうん。今日からまたお父様と呼ぶようにな」
「はい」
「よし。で、セバスチャン?」
「あ、はい。(元の関係に戻って良かった)では、ご報告を致します。まず、ターシャ様ですが、旦那様と出会われた時に暗示を掛けていたと思われます」
「根拠は?」
「これをご覧下さい。この名簿は、過去ターシャ様が嫁がれたと思われるご夫君方です」
ざっと見て数十人はいる。
「婚姻をしては数ヶ月後に御夫君が原因不明で亡くなられ、また後日に違う御夫君と・・・を繰り返しておられます。その際、遺産全てターシャ様の物になっております」
「全員、全ての遺産をか⁉︎」
「はい。旦那様、ターシャ様とどういった出会いをなさいましたか?」
「友人達と、たまには違う雰囲気の所に行こうと連れられた店で出会った。友人の内の一人と知り合いだったらしく、一緒に飲む様になって・・・朝気付いたら一緒のベッドで・・・」
典型的な策に嵌ってますね。
「恐らく、行為自体嘘でしょう」
「リリアローズ様と同意見です。娼婦にありがちな手口です。そこまでされたのなら、後日言われたのでは?」
ーーーお腹の子は、貴方の子よ。
「と。身に覚えは?」
「そのままの言葉を言われた。責任を取れと言われ、何故か了承していた。ティアラローズが亡くなった数日後に連れ帰ったのも後ろめたさからと思っていたが・・・」
「既に催眠状態に入っておられたのでしょう。定期的に術を掛けないと持続しない様です。現に、今の御気分は?」
「愛情のカケラもないな。私の最愛はティアラローズとリリアローズだけだ」
あれ?ジワリと温かい物が溢れる。
見上げると、お父様が微笑んで私を見ていた。
添え付けのクローゼットに机、それらは木目がハッキリとわかる使い古された物。
天蓋のレースを外してカーテン代わりにしたので、ほぼ骨組み状態のベッド。
それが私の部屋の全て。
「クローゼット、開けていいか?」
「構いませんが・・・何も入っておりませんよ?」
「いいんだ。では開けるよ」
ガチャリと簡単に開く扉。
中は数枚のワンピースのみ収納されている。
「ドレスすら無いとは・・・」
「何が見たいのです?」
「ドレスも無く、装飾品も無い。専属侍女も居ない。自分の世話は自分でやる・・・私はどれだけお前を見ていなかったのだ・・・」
「仕方がありません。公爵様は操られていたのですから」
「え?」
まぁ、不思議に思うのも当然ね。
「操られ?」
「はい。恐らく公爵夫人に催眠術か何かを掛けられておられたのではないかと」
「催眠術・・・」
「だって、そうでしょう?公爵様は私のお母様と政略結婚と思えない程の大恋愛をなさった。幼い頃によくお聞きしました。そんな公爵様が、お母様が亡くなって直ぐに公爵夫人をお連れになられた時、違和感がありましたもの」
「何故、知らせてくれなかった?」
「・・・」
「リリアローズ?」
「その日に公爵様にお知らせしました。でも、当主の決定に逆らうな‼︎とお叱りを受けました」
その時の事が信じられなかったのか、お父様は目を見開いている。
暴力こそなかったけれど、それに類似した勢いで叱られた時の事が鮮明に思い出される。
あの時から、お父様に期待するのを止めたの。
「私は・・・」
「お気になさらないでください。私はもう直ぐ居なくなるので、憂いは晴れますよ」
「何処に行くのだ⁉︎」
「北の修道院あたりでしょうか?私は公爵家のお荷物なので、出て行こうかと思っています」
「い、行く必要は・・・」
「ありますよ?お姉様が後を継がれるのなら、婚約破棄した私は傷物ですから、公爵家から出るしかないですし。取り敢えず自分の事は自分でしてきたので、大丈夫でしょう」
修道院で、お仕事もらえるかしら?
それとも、どこかのお屋敷で侍女をするのもアリですね。
「その事で旦那様にお話があります」
セバスチャンがいつの間にか帰ってきていました。
「話?」
「はい。リリアローズ様の今後に関わってくる事です」
「直ぐに聞く。執務室に行くぞ。リリアローズも来なさい」
スクッと立ち上がったかと思ったら、私の手を取ってお父様はセバスチャンを伴って歩き出す。
私の今後って何でしょう?
執務室に入ると、お父様は隣に何故か私を座らせた。
「公爵様?」
「父と呼んでおくれ」
「公爵様と呼べとおっしゃ・・・」
「お父様だ。ほら、呼んでごらん?」
「・・・お父様?」
次第にぱぁっと笑顔になるお父様。
「うんうん。今日からまたお父様と呼ぶようにな」
「はい」
「よし。で、セバスチャン?」
「あ、はい。(元の関係に戻って良かった)では、ご報告を致します。まず、ターシャ様ですが、旦那様と出会われた時に暗示を掛けていたと思われます」
「根拠は?」
「これをご覧下さい。この名簿は、過去ターシャ様が嫁がれたと思われるご夫君方です」
ざっと見て数十人はいる。
「婚姻をしては数ヶ月後に御夫君が原因不明で亡くなられ、また後日に違う御夫君と・・・を繰り返しておられます。その際、遺産全てターシャ様の物になっております」
「全員、全ての遺産をか⁉︎」
「はい。旦那様、ターシャ様とどういった出会いをなさいましたか?」
「友人達と、たまには違う雰囲気の所に行こうと連れられた店で出会った。友人の内の一人と知り合いだったらしく、一緒に飲む様になって・・・朝気付いたら一緒のベッドで・・・」
典型的な策に嵌ってますね。
「恐らく、行為自体嘘でしょう」
「リリアローズ様と同意見です。娼婦にありがちな手口です。そこまでされたのなら、後日言われたのでは?」
ーーーお腹の子は、貴方の子よ。
「と。身に覚えは?」
「そのままの言葉を言われた。責任を取れと言われ、何故か了承していた。ティアラローズが亡くなった数日後に連れ帰ったのも後ろめたさからと思っていたが・・・」
「既に催眠状態に入っておられたのでしょう。定期的に術を掛けないと持続しない様です。現に、今の御気分は?」
「愛情のカケラもないな。私の最愛はティアラローズとリリアローズだけだ」
あれ?ジワリと温かい物が溢れる。
見上げると、お父様が微笑んで私を見ていた。
10
お気に入りに追加
467
あなたにおすすめの小説
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
【本編完結】番って便利な言葉ね
朝山みどり
恋愛
番だと言われて異世界に召喚されたわたしは、番との永遠の愛に胸躍らせたが、番は迎えに来なかった。
召喚者が持つ能力もなく。番の家も冷たかった。
しかし、能力があることが分かり、わたしは一人で生きて行こうと思った・・・・
本編完結しましたが、ときおり番外編をあげます。
ぜひ読んで下さい。
「第17回恋愛小説大賞」 で奨励賞をいただきました。 ありがとうございます
短編から長編へ変更しました。
62話で完結しました。
王命を忘れた恋
水夏(すいか)
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
勝手に召喚して勝手に期待して勝手に捨てたじゃないの。勝手に出て行くわ!
朝山みどり
恋愛
大富豪に生まれたマリカは愛情以外すべて持っていた。そして愛していた結婚相手に裏切られ復讐を始めるが、聖女として召喚された。
怯え警戒していた彼女の心を国王が解きほぐす。共に戦場へ向かうが王宮に反乱が起きたと国王は城に戻る。
マリカはこの機会に敵国の王と面会し、相手の負けで戦争を終わらせる確約を得る。
だが、その功績は王と貴族に奪われる。それどころか、マリカは役立たずと言われるようになる。王はマリカを庇うが貴族の力は強い。やがて王の心は別の女性に移る・・・
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる