異世界無宿

ゆきねる

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第十五章 ハルハンディア共和国

第二百十四話 試作品の調整は難しい

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アーリアの説明を聞き終えたイズミは、腕時計を回収するとマスタングに仕舞う。

「アーリア、どの機能を残して欲しい?」

「鑑定関係の魔道具は別でも揃うから、残すべきは魔法返しと呪い返しね。魔法を極めたい者や戦いに使う者なら、喉から手が出る程に欲しいわよ?」

「分かった」

イズミはマスタングに魔法返しと呪い返し以外の付与を取消して貰うと、改めてアーリアに返した。

「アーリア様。オミット分の余力は能力強化に充てましたので、後で確認をお願い致します」

ガコンと音を立て、マスタングのトランクが開いた。
イズミがトランクを覗き込むと、同じ腕時計が2つ鎮座している。

「1つはアーリア様の実験に協力をしている方へ。もう1つは、よろしければフラウリア様に持って頂きたく」

アーリアが苦笑いを浮かべながら、もう1つの腕時計を受け取る。

「そこまで分かっちゃったの?この腕時計を色々試してたら、目の色を変えて『私も欲しい』とか言い出すから大変だったのよ…でも、良いの?」

「試作品ですから、問題ありません。実験結果を情報として流して頂ければ」

「これが試作品ね…もう自称しているだけな感じがするけど」

マスタングの話を聞いたアーリアは、申し訳なさそうに腕時計を仕舞う。
渋々かもしれないが、納得したようだ。

イズミはフラウリア用にバンドの調整をして、改めて腕時計を手渡す。
アーリアが使い方の説明をしてくれたので、ひと先ず大丈夫だろう。

落ち着いたタイミングで、先程魔法返しが使えなかった事を思い出しマスタングに確認をする。

「マスタング、さっきの俺は魔法返しを使えなかったと言う認識で良いのか?」

「そうなります。魔法返しの発動には所持者の魔力があれば問題無いと考えておりましたが、マスターに適応する付与は自動発動でなければならない可能性が出て来ました。魔石が足りないので、自動発動はアーリア様の持つ試作品にのみしか組み込みきれませんでした」

それらを確認する為の実験であり、試作品…腕時計としては既に完成品…なのである。

「ってな訳でアーリア、魔法返しが自動で発動するかの実験を頼む」

「分かったわ…でも、自動発動は任意に比べると扱い難い可能性があるから、その辺を重点的に調べてみるわね」

確認と調整が完了するまでは今の腕時計を使おうと思いながら、イズミはアーリアの帰りを見送った。

「…アーリアさんが驚くのも無理は無いですね」

フラウリアが腕時計を鑑定魔法で調べながら呟いた。

「ここまで強力な付与がありながら作りも完成度も高い、芸術品とも国宝とも言われても何も可笑しくはないわね」

「これは宝物庫に眠らせる代物では無くて、あくまで実用品である事を忘れないで欲しいですね。それに、マスタングも言っていますが、試作品ですからね。ちなみにそれが試作品3号です」

イズミの話を聞いたフラウリアが、左手首に佇む腕時計を愛おしそうに撫でている。

「殿方からの贈り物を受け取るのは、初めてですわ」

「あら、それは色々と問題になりそう?」

「いえいえ、嬉しいですわ」

何故か照れながら言うフラウリアだったが、イズミはそれ以上はスルーを決め込んだ。
気にしない事が1番な安全な気がしたのである。

「グラテミア叔母様には機密情報として展開しますが、他には漏れぬ様に手を尽くしますわ」

そう言ったフラウリアだったが、直後にグラテミアに見つかり屋敷へと引き摺られて言った。

半分程残っていたラムネを飲みきると、イズミは屋敷の部屋に戻っていった。
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