異世界無宿

ゆきねる

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第十五章 ハルハンディア共和国

第二百六話 三度現る

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トレットさん先導の下で移動を始めて5日目の事だった。

次の町までは距離があるので、夜営をすると決めて準備をしていた時である。

「マスター、近くに魔法反応があります。特定は出来ません」

「久しぶりだな」

イズミは焚き火や料理の準備を済ませると、マスタングのモニターを確認する。

「思ったより近いな」

グローブボックスから探索用のライトを実体化させると、ベリアに食材を渡して調査に向かう。

ほぼ太陽は沈んでしまっており、ライトの明かりを頼りにして反応のある場所まで歩いて行く。

メガネを掛けて周囲を見てみるが、それらしい反応は無い。

「マスター、2時方向30m先です」

「…あの辺か?」

ライトで照らしてみる。
そこは反応付近は何故か、ライトの光が黒い靄でかき消されてしまい、向こう側を確認出来なかった。

ゆっくりと近付きながら様子を伺う。
こんな時は相手を刺激しないよう、静かに身を落としてにじり寄るのだ。

黒い靄の中に、何かが有る。
それは、過去2回には無かったものだ。

「イズミさん、どうされました?」

背後からトレットの声がしたので、ゆっくりと振り返る。
トレットはイズミの姿を見ているが、その奥にある黒い靄もしっかりと捉えていた。

「魔法の反応があったようなので、様子見ですね」

「…一月前の報告では、このような物は無かったですね」

トレットもイズミも、目の前にある靄を見ながら状況を理解しようとしていた。

「靄の中に何かがあるような気がするのですが、トレットさんは何か見えたりしますか?」

「何かですか?私には靄しか見えませんが」

トレットは靄を睨見つけるが、何も無いようにみえるらしい。
イズミは過去2回行ったお供え物でもするかと思い至り、ショルダーバッグから酒を取り出した。

六角形が特徴の瓶であり、キャップ代わりのコルクを抜くと薬草系の香りがする。
元いた世界のジンだ。
後でこの世界にも存在しているのか、調べるのも良いだろう。

「あら、不思議な香りですね」

スルッとイズミの側に来たトレットが瓶から香りを味わう。

「こういった事象に出くわしたら、取り敢えずお供え物をする事にしてるんだ」

黒い靄に触れないギリギリまで近付き、酒瓶と一緒にトニックウォーターを備えた。

「生憎グラスと氷が無くてね、これで勘弁してくれ」

「グラスと氷ですか?用意出来ますけど」

トレットがそう言うと馬車まで戻り、氷の入ったグラスを持って来てくれた。

「ありがとう」

イズミはトレットに礼を言うと、ショルダーバッグからカクテルセットを取り出す。
作るものは1つ、ジントニックだ。

バースプーンで氷を回し一度水を捨て、ジンを30mlで計り注ぐ。
その後トニックウォーターをバースプーンに当てながら注いだら、1周だけ混ぜる。

「こんなだったかな…」

半分うろ覚えではあったが、バースプーンについた雫を口に含み問題無いと判断した。

グラスを食い入るように見つめているトレットは置いておいて、お供え物に追加をする。

「これで、何が起こるのですか?」

トレットは興味津々である。
心なしか目が輝いているように見える。

「さぁ…何が起こるかはサッパリ」

そう言い切る前に変化が起こった。
黒い靄がお供え物を包み込むと、物凄い勢いの風が吹いたのだ。

2人は風に身体を持っていかれないように身構えていると、直ぐに風は止み靄は消えてしまった。
お供え物を全て何処かへ持って行って。

そして靄のあった場所には、1本の剣が刺さっていた。

「…剣?」

「剣ですね。凄い魔力が込められてます」

2人して剣に触れる事無く観察をしていると、ベリアが毛を逆立てて走って来た。

「イズミ!何があった!?」

ククリナイフを構えていたベリアだったが、地面に刺さった剣を見た途端、尻尾がブワッと逆立った。
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