異世界無宿

ゆきねる

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第十五章 ハルハンディア共和国

第二百三話 寒がり

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翌朝。
夜明け前から霧が立ち込めている馬車置場にて、移動の準備を終えたイズミが1人コーヒーを飲んでいる。
朝は少し肌寒いので、コーヒーの温かさが嬉しい。

カーネリアはトレットと話をしているが、ベリアはマスタングの助手席でダランとしている。

「なんか頭が痛い」

二日酔いである。
新鮮で冷たい水を飲ませてはいるが、霧が晴れたら出発である。
それまでに和らいでいれば良いのだが。

「イズミ、ちょっといい?」

「どうした?」

少女の姿になったカーネリアが、イズミの傍に寄る。

「トレットに、ブランケットを渡しても良い?トレットは寒がりなの」

「そうなのか?なら新しいのを用意するよ」

イズミはマスタングに頼んで毛布とブランケットを取り出すと、カーネリアへ手渡した。

「ありがとう!」

カーネリアが毛布とブランケットを持ってトレットの元へ駆けてゆく。
その背中を見つめてから、マスタングへ乗り込む準備を進める。

霧が晴れたのを確認すると、イズミはカーネリアをマスタングの後部座席に座らせる。
ベリアの二日酔いはまだ抜けていないらしく、ウニャウニャと助手席で呻いているが、時間切れである。

コーヒーを飲み終えたイズミがマスタングに乗り込むと、それを見届けたトレットが馬車に前進を命じた。


イズミやベリア基準では、まだ肌寒いとは思わない日中帯の気温であっても、種族が違えば許容範囲も違う。

道中で遭遇する冒険者や商隊の馬車を見ていると、装備や服装に違いが出てくるのだ。

「むむむ。やっと落ち着いて来た」

やっとベリアが復活したようだ。
助手席で器用に脚を組み直すと、窓の外を眺めだす。

「この国の特産品ってなんだ?折角来たのだから、土産物を買っておきたい」

イズミはまだ見ぬ街や都市の特産品に思いを馳せる。
美味しい料理も大切な要素ではあるが、それだけでは物足りないのだ。

「ドワーフの酒にフェアリーの御守りにエルフの金細工、他にも色々あるよ!」

後部座席からカーネリアが教えてくれた。
見所が多過ぎて困りそうな旅路になるかもしれないと考えつつ、前方を走るトレットの馬車の後をまったりと追いかける。


道中で食事休憩を取り、夕方には本日の目的地である小さな町に到着した。
魔族間の連絡手段で事前に来訪を知っていたのか、町に入ると現地のケンタウロス族のエスコートで宿屋まで案内された。

「イズミさん、本日は此方で一泊となります。食料等不足があれば用意させますので、なんなりと申して下さいね」

宿屋の主人に話をつけたトレットがイズミ達へ話をしていると、従業員が各々の部屋まで案内をするとの事でついて行く。

「では皆様、明日もよろしくお願いしますわ」

割り当てられた部屋に各自入って行くと、イズミは手荷物だけベッドの下に隠してから部屋を出る。
廊下でベリアとカーネリアと出くわすと、一緒に宿屋の食事場へ向かって行うので今回は別行動とした。
イズミは一度マスタングのいる馬車置場に立ち寄り食料の在庫確認を済ませる。

「マスター。先日飲んでいたドワーフ酒は如何でした?」

マスタングがそんな事を聞いてきた。

「あれは粗悪なウォッカみたいな感じだ。カクテルのベースにしても強烈なアルコール臭が消えないし、原料の風味は微塵も感じられなかった」

正直に答えた。
あのドワーフ酒はストレートやロックで飲めた物ではない。
自分の味覚と嗅覚では、ソーダやトニックウォーターで割るのが正解だろう。

「…割材とカクテルセットを実体化しますので、念の為にお持ち下さい」

マスタングが親切に炭酸水とトニックウォーター、小振りな酒瓶を数本、それにカクテルセットを実体化してくれた。
礼を言ってショルダーバッグに仕舞うと、馬車置場を出て不足気味の食料を宿屋にいた従業員に伝えておく。

その後、日の暮れた町を少し歩き賑やかな喧騒のある酒場を見つけたので、興味本位でフラっと立ち寄る事にした。
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