異世界無宿

ゆきねる

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第十五章 ハルハンディア共和国

第二百一話 事情説明

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ケンタウロス達に案内された先には、作りの良い建物があった。

「我々の拠点だ。部下に案内をさせよう」

ミクランセンが部下を呼び出すと、犬の獣人が姿を見せる。

「彼等をまずは馬車置場へ、その後客間へ案内をしてくれ」

「分かりました」

獣人の案内でマスタングを馬車置場に停める。
詳しい説明に使えそうな物を幾つか実体化させ、ショルダーバッグに詰め込みベリアと2人で客間とやらに向かう。

カーネリアはマスタングと一緒に卵の傍にいるようだ。

客間に入ると、既に先客がいた。
一見普通の女性だと思ったのだが、椅子に座って正面で見ると違った。

人間の姿をしているが、目と舌にヘビの特徴があったのだ。
髪は黒のロングヘア、スレンダー体型で鱗は見当たらなかった。

「始めまして。私が聴取を担当するトレットです」

「…イズミです。只の無宿人の旅人です」

「ベリアだ、Aランク冒険者です」

取り敢えずの挨拶を済ませる。
握手の文化があるのか分からなかったので、今回は右手は出さなかった。

「さて。何処から話をしましょうか?」

「そうですね…まずは旅の目的からでお願いします」

トレットの首筋から白い蛇が現れ、イズミを見つめる。
気にはなるが話しに集中する。

「旅の目的地は2箇所です。ハルハンディアの火山地帯、北の最果ての国まで。勿論、観光目的です」

「冒険者でも無いのに、北の最果てまて行くのですか?」

「旅の目的にはうってつけかと。最果てってのは」

トレットが僅かに首を傾げたが、直ぐに戻った。

「カーネリア様と出会ったのは?」

「王国のガブリオレ公爵領内での事です。複数の馬車と兵士を相手に戦闘をしているハーピー族に遭遇しまして」

イズミは可能な限り分かりやすい説明をしようと考えつつ、言葉を紡いでゆく。

「ハーピー達に加勢しました所、馬車から卵を見つけまして。旅の目的地と卵の帰る場所がある程度重なると言う事で、運び屋を引き受けた訳です」

細かな所は端折ったが、概ね合っているだろう。

「先に戻って来たハーピー達の話とも一致しますね」

「商人はどうなりました?」

「知らない方が良い事もありますわ」

声はおっとりとしているが目は一切笑っていないので、恐らくやる事はヤッているのだろう。
深く掘り下げる必要も理由も無いので、これ以上の詮索はしないでおいた。

「ケルピーの話をお教え下さい」

「旅の途中で雨に降られて、他の商人や冒険者の馬車列と合わせて休憩をしていたのですが…」

爆発音が聞こえて確認に向かった事、そこで雨の精霊であるアルハと出会った事、ケルピーを助けた事を話した。

「只の人間が精霊様に会い、話までするとは」

トレットもコレには少し驚いたようだ。
当時はイズミ自身も驚いていたので、分からなくもない。

「ともかく、まずは卵をハルハンディアまで無事に運べはしたので一安心です。後は火山地帯まで無事に運べば、私の仕事は終わりです」

「それなのですが…私も動向出来ないでしょうか?私は卵の主人も知っていますし、目的地までの案内も出来ます」

トレットからの提案を聞いたイズミは少し考える。

マスタングの狭い後部座席に、彼女は座って疲れないのか。
自分が後部座席に座る事になったら、確実に辛いと思う瞬間があると分かるからだ。

「乗れても狭いと思います」

イズミは正直に伝えると、確認したいとの事なのでマスタングの元へ向かう。

「あ!トレットだ」

ハーピー姿のカーネリアがトレットを見つけると、羽根をバサバサを動かして挨拶をしている。

「カーネリアさんも元気そうね。暫く見てなかったから、心配したのよ?」

トレットも会話をそこそこにして、マスタングの車内…特に後部座席…を見てもらう。

「小振りな馬車かと思っておりましたが、コレは流石に狭いですね。カーネリアは何か言いませんでしたか?」

「いえ、特には」

「変化の魔法を使ったから余裕!」

カーネリアの言葉にトレットが一瞬呆けた表情になったが、すぐに普通の表情に戻り卵を凝視する。

「皆さん、卵に何かしましたか?」

後部座席で毛布に包まれた卵を見ていたトレットが、イズミ達を見回してから確認する。

「アタイは何もしてないな」

「アタシは卵を抱いてたり毛布を掛けたりはしたけど、それ以外に気にするようなことはしてない」

ベリアとカーネリアがそれぞれ答えると、トレットはイズミへと視線を向ける。

「身に覚えがありませんね。マスタングは何かしたか?」

「卵を護っているだけです」

「…だそうです」

トレットの瞳がイズミとマスタングを交互に見る。
首元に居る蛇も特に反応はしていない。

「そうですか」

何か言いたげではあったが、それ以上の質問は来なかった。
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