異世界無宿

ゆきねる

文字の大きさ
上 下
193 / 193
第十四章 運び屋稼業も楽じゃない

第百八十七話 誰かの思い出だから

しおりを挟む
魔王夫妻が帰るの見送り緊張の糸が切れた途端、カーネリアを除く3人が一斉にため息をついた。

「生きた心地がしなかったぞ。なんか魔王のイメージも全然違ったし」

ベリアがホットウイスキーを飲みながら呟いた。

「アーリア、これは友好的な関係を築けたと判断して良いのか?」

「…多分」

イズミとアーリアは半信半疑では会ったものの、被害も無いので良しとした。

ふと左手に付けている腕時計を確認する。
マスタングが実体化させた、使い捨て腕時計の特徴を持ったソレを外し、魔王から受け取ったボロボロの腕時計と見比べる。

「何してるの?」

「アーリア、コレを鑑定してくれるか?」

ボロボロの腕時計をアーリアに渡すと、早速鑑定をしてくれた。

「うーん…レア度SS、装着式の時を計る道具。内部部品等各所の破損により非可動。古い時代に転移して来た者が愛した装備品で特殊効果無し。ドワーフでも修復は不可能だって」

「正真正銘のジャンク品か」

腕時計を返してもらったイズミは、その重量感を味わいつつ立ち上がった。

「マスタング、この腕時計を調べてくれ」

「かしこまりました」

助手席を開けグローブボックスに腕時計を入れると、マスタングがモニターに調査結果を表示した。

「…サイズ34mmのスチールケース、ガラス破損、文字盤に損傷、針は全て外れ部分的に腐食有り。蓄光能力損失、コンプリケーションはデイト表示のみでレンズ部に傷有り。フルーテッドベゼルに無数の傷、防水機能損失、キャリバーは摩耗及び破損、ブレスレット破損。裏蓋に文字が彫られた形跡がありますが、後に削られており読み取り不能です」

「文字通りボロボロだな」

「修復しますか?」

イズミは少し躊躇ったが、修復をする事に決めた。

「そうだな…なるべくオリジナルのパーツを使った修復に留めてくれ。所有者の墓があるのなら、直してから供えるくらいしか出来ないが」

「かしこまりました。修復後に完全体として復元及び複製をして、マスターの腕時計も此方に更新しますか?」

マスタングから魅力的な提案はあったが、現在使っている腕時計の軽量さに慣れてしまった身体では違和感があるような気がした。

「オリジナルのデータを入手したので、修復完了後に複製が可能です。ブレスレットを引き通しのベルトに変更すれば軽量になります。そして、この腕時計の方が精度も防水性能も高いです」

「…検討しておこう」

取り敢えずオリジナルの修復だけを頼み、皆の待つ焚き火へと戻る。

「直すのね」

「あぁ。元の所有者はとっくの昔に故人だが、壊れたままってのは哀しすぎるからな」

アーリアが立ち上がり帰ると言うので、ラムネとクッキーを実体化させて渡した。
迷惑料みたいなものだ。

「修復したら見せてね。どんな物なのか興味があるの」

「以前交換したアレの小型版で、腕に付けるようになっただけだぞ?」

イズミは左手に付けている腕時計を見せ、運用方法を軽く説明した。

「アレだって凄い代物なのよ?それが小型化して腕に装着出来るなら、それはもうオリジナルの複製品でも研究対象になるわ!」

アーリアの目が輝き始めた。
研究者と言うか、探究者としての血が騒ぐようだ。

「分かった。一通りの修復が完了したら、連絡するよ」

「必ず頼むわ」

アーリアが転移魔法で帰った後で、ブレアとカーネリアを含めた3人で、軽く酒を飲んで眠る事にした。

短時間に色々な事が起こり過ぎて、頭が混乱して整理しきれていない。
そんな時は、眠るのが1番である。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(7件)

黒兎
2024.06.01 黒兎

更新キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

ゆきねる
2024.06.03 ゆきねる

長らく音信不通では御座いましたが、これからは少しづつ執筆をしていく所存ですので、今後とも何卒よろしくお願い致します。

解除
インク猫
2022.12.26 インク猫

第三十二話
だいぶ強力な装備になりましたね
今後の展開が楽しみです
武器搭載の車という事で、雷鳥隊のレディペネロープ号(FAB-1)が真っ先に思い浮かびました

ゆきねる
2022.12.26 ゆきねる

ありがとうございます!
装備が充実しますと、旅路での安心感が違いますね。
秘密の機能(武器)が搭載されている車、これだけで心がトキメキます!

解除
インク猫
2022.12.20 インク猫

第二十五話
読み終えました
面白いのですが、イッキ読みとはいきませんでした
ナイフはランドールでしょうか?

ゆきねる
2022.12.20 ゆきねる

ありがとうございます!
ナイフはジョー・キアスのサブヒルトダガーをイメージしております。
主人公はナイフにそこまで理解が無いので、単にサブヒルトの付いているナイフと認識しています。

映画「殺しのアーティスト」をシーンを妄想しつつ書いております。

解除

あなたにおすすめの小説

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

追放からはじまる異世界終末キャンプライフ

ネオノート
ファンタジー
「葉山樹」は、かつて地球で平凡な独身サラリーマンとして過ごしていたが、40歳のときにソロキャンプ中に事故に遭い、意識を失ってしまう。目が覚めると、見知らぬ世界で生意気な幼女の姿をした女神と出会う。女神は、葉山が異世界で新しい力を手に入れることになると告げ、「キャンプマスター」という力を授ける。ぼくは異世界で「キャンプマスター」の力でいろいろなスキルを獲得し、ギルドを立ち上げ、そのギルドを順調に成長させ、商会も設立。多数の異世界の食材を扱うことにした。キャンプマスターの力で得られる食材は珍しいものばかりで、次第に評判が広がり、商会も大きくなっていった。 しかし、成功には必ず敵がつくもの。ライバルギルドや商会から妬まれ、陰湿な嫌がらせを受ける。そして、王城の陰謀に巻き込まれ、一文無しで国外追放処分となってしまった。そこから、ぼくは自分のキャンプの知識と経験、そして「キャンプマスター」の力を活かして、この異世界でのサバイバル生活を始める! 死と追放からはじまる、異世界サバイバルキャンプ生活開幕!

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。