異世界無宿

ゆきねる

文字の大きさ
上 下
191 / 227
第十四章 運び屋稼業も楽じゃない

第百八十五話 魔王は行動派

しおりを挟む
魔王とルノさん夫妻と一緒に、イズミ達は焚き火を囲っている。
イズミは努めて冷静でいようとしているものの、ベリアの動きがかなりぎこちない。

イズミはルノの事を知っているので、敵意は無いと分かるが…ベリアはまだ慣れていない。
そして魔王が目の前にいるとなったら、気絶していないだけマシなのかもしれない。

「それで、魔王様はどのようなご要件で?」

「ブラントン。この酒の礼と言うのもあるが、お主に幾つか聞きたい事もあってな」

魔王が取り出した酒は、ルノへ渡した酒の1つだった。
イズミは細かな確認をしていなかったが、マスタングは良い酒を実体化させたようだ。

「懐かしい味わいだった…我が魂の一部には転移者や転生者の魂も含まれているからな。どの魂かは分からぬが、良い気分である」

「それは何よりです…聞きたい事とは?」

イズミは自分用の酒を水割りにして、軽く飲んでから質問をする。

「お主はどのようにして、この世界に転移を?」

「それは…あのアーティファクトが関係しています。元々はアーティファクトのみが転移する予定だったのですが、偶然にも転移魔法の発動時に私が乗っていたので、そのまま一緒にやって来たのです」

説明を聞いた魔王が頭を抱える。

「あの女神は、本当に気まぐれと言うか悪戯好きと言うか…」

「特に私に使命は与えられてませんので、この世界をマスタング…アーティファクトと旅をするのが目的です」

「マスタング?マスタングと言ったか!?」

魔王が立ち上がると、マスタングの元へ歩き出した。

「確かにマスタングである。知っている物とは型が違うが」

「マスタングをご存知なのですか?」

後を追ってきたイズミが尋ねる。

「フォードのマスタングだろう?我はダッジの方が好きだが、これはこれで素晴らしい車だ」

「魔王様…何故私のいた世界に関して知っているのです?」

魔王がイズミの方へ振り向いた。

「我の魂は大きく分けて3つある。1つは、この世界の人間としての魂。1つは、原初魔族としての魂。最後の1つは、転生者の魂なのだ…それさ3つの魂を掛け合わせられた1つの魂、それが我なのだ」

魔王は笑顔で言った。


酒盛りは続く。
魔王に褒められたマスタングが、酒を幾つか実体化したのもある。
しかし盛り上がった話はもっとシンプルだった。

「イズミよ、ハーレーと言うバイクを知っているか?」

「勿論です。私のいた時の世界では水冷がメインですが」

「何?空冷こそハーレーの真髄と記憶していたが、そうか向こうの世界の時の流れもあるのか…」

とうやら、魔王が持つ転生者の魂はメカ好きだったのかもしれない。

「…マスター。ハーレーであれば実体化が可能です」

「マスタング、それを言うのはちと不味くないか?」

「なんと!?あのハーレーを作り出せるのか?」

イズミの疑問は直ぐ様確信に変わった。
魔王の目が輝いている。
仕方なくマスタングに近付くと、モニターを確認する。

「マスターの魔力の30%、魔王の魔力の70%、幾つかの上質な魔石を使用すれば、旧式ですが実体化は可能です」

モニターに表示されたバイクは、間違いなく空冷エンジンのハーレーの見た目だった。
丁寧に2人乗り使用になっている。

「イズミ、マスタング殿、どうかハーレーの実体化に協力してはくれないか?」

まさか魔王から頼まれてしまうとは。
世の中本当に分からないものである。

しかし話として面白いので、イズミは二つ返事で受け入れた。

「やりましょう」

イズミと魔王がマスタングのルーフに手を乗せ、ルノが何処からか取り出した大量の魔石をトランクへ入れる。

そしてマスタングが光に包まれる…

『ご成約、ありがとうございます』

今まで聞いた事のない音声が流れ、ガコンと音がしてハーレーが実体化された。

「これが本物のハーレーか」

そう言う魔王だったが、馬に跨るかのようにシートへ座ると、キックペダルの練習を始める。

「確か…こんなだった筈」

幾つかの操作を確かめた魔王は、キックスタートを決め込んだ。

ドルルン…

ハーレーの独特な重低音が鳴り響く。

「我は感動している。この世界でもハーレーに乗れるとは」

魔王の周囲を黒い煙が包む。
その煙が晴れると、魔王は上下黒のレザーの服になっていた。
棘のある鋲は無かったが、やろうと思えば出てきそうである。

「その格好は?」

「以前現れた転移者が持っていた書物の登場人物を参考にして実体化させたのだ」

恐らく、過去の転移者にアメコミが好きな者がいたのだろう。

「オイルとガソリンは魔力で常時最適化されます。ハーレー自体に自動修復機能が搭載されておりますので、魔力を与えれば何時でも走り出せます」

マスタングの説明を聞いた魔王は、アクセルを回して吹け上がりを確認する。

「ルノ。後ろに」

そう言われたルノがハーレーに座ると魔王の腰に手を回した。

「少し走ってくる」

魔王はそう言い残し、颯爽と走り出した。
魔王の高笑いが聞こえた気がするが、聞かなかった事にした。

イズミは酒を飲み干してから焚き火に戻ると、ベリアは緊張しすぎたのか気を失っていた。
カーネリアと一緒に簡易寝床へ移動させると、イズミは大きなため息をついた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

最強スキルで無双したからって、美女達によってこられても迷惑なだけなのだが……。冥府王は普通目指して今日も無双する

覧都
ファンタジー
男は四人の魔王を倒し力の回復と傷ついた体を治す為に魔法で眠りについた。 三十四年の後、完全回復をした男は、配下の大魔女マリーに眠りの世界から魔法により連れ戻される。 三十四年間ずっと見ていたの夢の中では、ノコと言う名前で貧相で虚弱体質のさえない日本人として生活していた。 目覚めた男はマリーに、このさえない男ノコに姿を変えてもらう。 それはノコに自分の世界で、人生を満喫してもらおうと思ったからだ。 この世界でノコは世界最強のスキルを持っていた。 同時に四人の魔王を倒せるほどのスキル<冥府の王> このスキルはゾンビやゴーストを自由に使役するスキルであり、世界中をゾンビだらけに出来るスキルだ。 だがノコの目標はゾンビだらけにすることでは無い。 彼女いない歴イコール年齢のノコに普通の彼女を作ることであった。 だがノコに近づいて来るのは、大賢者やお姫様、ドラゴンなどの普通じゃない美女ばかりでした。 果たして普通の彼女など出来るのでしょうか。 普通で平凡な幸せな生活をしたいと思うノコに、そんな平凡な日々がやって来ないという物語です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

処理中です...