異世界無宿

ゆきねる

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第十三章 陰謀の気配

第百七十七話 ベリアの機転

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ハーピー達が卵を囲い相談をしている。
一時的だが相手の気が逸れているタイミングで、イズミはゆっくりと背伸びをした。

「呑気なもんだな」

「思い詰めたって何にもならないだろ?後戻りも出来ないし」

イズミは左手に付けているバングルに触れる。
まさか魔族であるハーピーの言葉まで瞬時に翻訳してくれるとは。

手に入れておいて本当に良かったと、遠くにいるアーリアに感謝した。

5体いたハーピーのうち4体が縛られた商人を掴んで羽ばたき始めると、風を上手く利用して空へ飛んでゆく。

商人の口はしっかり塞いでおいたはずだが、言葉にならない叫び声だけはしっかりと聞こえた。
それも風によって掻き消されたが。

残った1体が卵を抱き抱えているが、飛び立つ気配は無い。
そんなハーピーがイズミをジッと見つめる。

「お前…私達の大切な物を取り戻してくれた。感謝する」

「いえいえ、大切な物が戻って来て何よりです」

イズミはそれとなく別れを告げるルートを模索するが、ベリアがしくじった。

「ハーピーさんや…1人でその卵を持って帰れるのか?」

「飛んでは無理。あの泥棒を送ってから、仲間に迎えに来て貰うつもり」

「それだと1人で卵を守るのか?」

「…そうなる」

ハーピーとベリアの視線がイズミに向かう。

「冒険者は困った者達を助けたり救ったりするのが仕事です」

胸を張って言い切ったベリアに対して思わず返事をしてしまった。

「俺は旅人なのだが?」

「アタイは冒険者として旅路に同行しているんだ。殆どイズミも冒険者だろ?」

「冒険者ギルドに登録拒否された男がか?」

「旅は道連れ世は情けって言うだろ」

イズミはベリアがちゃんとした冒険者である事を、改めて認識していた。
そんなベリアの生き方を、面倒事は嫌だで片付けるのは今後の旅路に影響する。

「…分かった。マスタング、ちょっと来てくれ」

そう連絡すると、徐行運転でマスタングがやって来る。

「名前は?」

「私はカーネリア。ハーピー族よ」

ハーピー族のカーネリアは、顎を卵の上に乗せてイズミを睨みつける。
何を言い出すのか警戒しているようだ。

「コレは俺の相棒のマスタングだ。アーティファクトと呼ばれている」

カーネリアは怪訝そうな顔でマスタングを見るが、直ぐにイズミへと視線を戻した。

「そのアーティファクトで、ハルハンディアまで連れてってくれるのか?」

「カーネリアが良ければ。勿論条件はあるぞ…車内で暴れないとか粗相をしないとか」

「カーネリア様。私の魔力量をご確認下さい」

突然マスタングから話しかけられたカーネリアは一瞬驚いたが、言葉を理解したのかマスタングを睨む。

「…分かった。私とこの卵をハルハンディアまで無事に届けて」

「任せろ!」

イズミが答えるよりも先にベリアが返事をする。
そのベリアがカーネリアから見えない右眼でイズミへウインクをした。

イズミはベリアが導き出したであろう考えに、仕方なく乗ることに決めた。


助手席側のシートを前に倒し、カーネリアと卵を後部座席へ案内する。

「狭いだろうが、我慢してくれ」

「流石に羽根が邪魔か…」

カーネリアはそう呟くと、魔法で人の姿に変わった。
それも見た目は子供である。

「コレで良さそうだ…ではイズミとベリア。よろしく頼むぞ」

そう言って後部座席に座った。

「アレも魔法か?」

「魔族なら姿を変えられる魔法を使える者もいるだろ」

「そうか…それはそれとして、あの馬車の荷物はどうする?」

「絵画と剣とネックレスは回収するか?貴族への揺さぶりに利用出来そうだし」

ベリアと一緒に馬車内を物色し、悪趣味な代物を証拠品がてらマスタングにて保管する。

ベリアが助手席を戻して座ったのを確認して、運転席のドアを開けようとした時マスタングがイズミを呼び止めた。

「マスター。カーネリア様に此方を」

トランクが開いたので中を確認すると、触り心地の良いブランケットが入っていた。

「此方でも少し寒いようでしたら、毛布もあります」

「ありがとう」

ブランケットを手に取りトランクを閉め、マスタングに乗り込む。

「カーネリア。移動中に身体が冷えるかもしれないから、コレを渡しておきます」

「分かった…優しい触り心地と温かさ、良いな」

「それでも寒いようでしたら、厚手の物もありますので、何時でも言って下さい」

イズミは何故か丁寧口調になる自分に可笑しくなりつつ、安全運転を心がけてアクセルを踏み込んだ。
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