異世界無宿

ゆきねる

文字の大きさ
163 / 618
第十二章 辺境伯領にて

第百五十九話 不穏な動き

しおりを挟む
侵入者騒ぎの翌日。
イズミはブロズムナード辺境伯の屋敷から出て、周囲の散策をしていた。

ベリアはエレナと一緒にゾルダ達から魔法の活用法を学ぶと言って、屋敷に残っている。
しばらくぶりの1人である。

「この辺りか?」

散策ついでに屋敷の囲む壁を見ながら、侵入経路を調べていたのだ。
壁の高さは2.5メートル程であり、やろうと思えば侵入は可能ではあった。

痕跡でもあればと思って地面を眺めてみるが、夜の間に消えてしまったようだ。
めぼしいものは無かった。

「手掛かりは無し、マスタングで反応を追うしかないな」

追跡は後回しにして、今度は商店街のある通りへと歩き出した。


辺境伯の屋敷が近くにあるからなのか、商店街の活気は非常に良い。
軽い朝食を出店で購入する。

薄く平らに焼いたパン生地の上に、焼いた後に食べやすく解された魚と葉野菜を乗せて巻いたような料理だ。
手掴みで食べられる為、街歩きには良い料理だった。

調味料が物足りない以外の欠点は特に感じなかった。
さくっと平らげたイズミは、商店街の散策を再開した。

武器屋だったり魔道具屋だったりをぶらついていると、妙に視線を感じる瞬間があるが、今のところは気にしない事にする。

どんな相手かも分かっていない状態で、変な行動はしたくないのだ。
魔道具屋を出たら、イズミは真っ直ぐ辺境伯の屋敷へと歩き出す。

「マスタング、何人だ?」

「怪しいのは6名で、2人はマスターを追って移動しています」

屋敷に戻る前に、軽く挨拶をすべきか否か。
そんな事を考えつつ、商店街からそそくさと脱出する。

屋敷の入口手前で、イズミはメガネをかけて振り返った。
通りの左右に1人ずつ、コチラを見ている者がいた。

イズミは警告がてら、その者達に向けて指鉄砲で狙い撃つ素振りをした。
分かっているぞと、丁寧に教えたのだ。

「バン、バン…ってな」

多少の気恥ずかしさはあったが、効果はあった。
物陰に隠れるように下がった2人を見てから、イズミはブロズムナード辺境伯の屋敷の入口の門をくぐった。


屋敷に戻ると、ゾルダの訓練を受けている2人の姿があった。

ベリアは魔改造ククリナイフに風魔法を纏わせる訓練を、エレナは氷魔法で剣や盾を作る訓練をしていた。

「イズミか。イズミも魔法の特訓をするか?」

「俺は魔法が使えない体質なんだ」

そう言ってイズミは、2人の訓練を観察する事にした。

「氷魔法ってのは、広範囲攻撃や防御ってのは出来るのか?」

まだ剣と盾を同時には作れていないエレナを見ながら、ふと呟いた。

「例えば?」

「例えば…氷の鎧を瞬時に纏うとか、氷の壁とか繭みたいに氷で空間を守る感じかな」

近くに落ちていた木の棒で、地面にイメージを簡単に描いてみる。

「…出来なくはないだろう。要訓練だな」

イズミの言う氷魔法の運用に感心するゾルダだったが、簡単に出来るものではない。
氷魔法は水魔法の上位魔法なのだ。
先ずは水魔法に慣れ、簡単な氷魔法へと繋げる訓練が必要なのだ。

「氷魔法を体得出来れば、王家からも重宝されるな」

辺境伯としての業務の休憩中だったアレクセイが、エレナの様子を見に来ていた。

「王国広しと言えども、氷魔法の使い手は少ない。貴族なら尚更だ」

だからこそ、王家の人間との結婚話にエレナの存在が急浮上する訳だがと、アレクセイは苦笑しつつ付け加えた。

「他の貴族達も、エレナ様の情報収集に動き出しているかと」

ゾルダがアレクセイに進言する。

「昨夜の侵入者の仲間なら、まだ近くにいるだろうな…今朝商店街に行ったら、俺ですら尾行されてたからな」

イズミが今朝の出来事を伝えておいた。

「…王家に取り入る為に、かなり手荒な事をする貴族も居る。注意しなければならんな」

アレクセイが屋敷に戻ると、イズミはゾルダ達と別れてマスタングへと向かった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...