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第十二章 辺境伯領にて
第百五十六話 エレナ覚醒す
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一通り話を聞き終えたイズミは、エレナをマスタングに見てもらう為に移動をお願いした。
ゾルダも同行しているのが気になったが、目的は遂行出来ているので良いとしよう。
「マスタング、エレナをお連れしたぞ」
「エレナ様。どうぞお座り下さい」
マスタングが助手席のドアを開けると、エレナは慣れた足取りで助手席へと座った。
「マスター。コチラを」
トランクが開いたので確認してみると、小瓶が1本入っていた。
マスタングの目的を察したイズミは、小瓶の中身を飲む前に聞いておいた
「…今度は何をするつもりだ?」
「…魔力利用の最適化と高効率化、無詠唱スキルの獲得と、保有魔力量の増大、その他少々です」
「一体エレナを何にしたいんだ?」
この話は魔法通信でしているので、他の者には聞こえていない。
「一騎当千の強者、それ以上の存在に。エレナ様には何れ必要になる力です」
マスタングが怖いくらい乗り気なので、イズミは覚悟を決めて小瓶を開け勢い良く飲み干した。
前回飲んだ物よりも不味い液体だった。
液体なのに舌に粉末のようなザラつきと、少し粘着質なものを感じる。
気合で飲み終えたイズミは、トランクを閉じてからマスタングにより掛かるようにして地面へ座り込んだ。
「ベリア。すまないが今から半日位寝るから、何かあったら対応を頼んだ。礼は弾むよ」
「分かった。とりあえず任されよう」
そう言って笑みを浮かべるベリアを見てから、大きく深呼吸をしてマスタングに合図を送った。
その直後、イズミは気を失った。
次にイズミが目を覚ますと、何故かベッドの上だった。
「起きたか?」
ベリアがイズミの顔を覗き込んで起床を確認した。
「全くもう、驚いたぞ!マスタングが光ったと思ったら、イズミは急に動かなくなるし、揺らしても叩いても反応しないし」
「他言無用で頼むぞ。アレをやると俺の死期が近付くようなもんだからな」
概ね間違ってはいないだろう。
マスタングの魔法は文字通り命懸けなのだ。
「分かった。そう言えばエレナが呼んでたぞ…」
ベリアの冷めた目がイズミを刺す。
まだしっかりとした説明が出来ていなかったので、かなりやんわりとだが話しておいた。
「マスタングの魔法でエレナの体調を調べたんだよ」
「それだけか?」
「他にも色々あるが、それは追々な」
イズミはダル重な身体を起こした。
「それと…マスタングからコレを渡してくれって言われた。イズミからエレナに渡す事だってさ」
ベリアが取り出したのは、イズミには読めない文字が書かれた紙だった。
それを受け取ったイズミは、やって来た屋敷の従者の案内でエレナの元へ向かった。
エレナは屋敷の書斎と思われる部屋に、アレクセイやゾルダと共に本を読んでいた。
「主様、イズミ様がいらっしゃいました」
「うむ、通してくれ」
書斎へ通されたイズミは、用意された椅子へと座った。
「イズミ殿。今回は何をしたのだね?」
アレクセイが早速質問をして来た。
マスタングから聞いた追加内容をそのまま伝えるのは、自分にとってリスクが多いように感じたので多少ボカして答えた。
「より魔法を使えるようになる為の、キッカケを作ったのです。後はエレナ様の努力次第です」
イズミはエレナに対して、ゾルダが使っていた氷の剣を出せるか試してもらった。
しかし、剣は出てこなかった。
作れなかったと言うのが正解だろう。
「ではエレナ様、想像して下さい…目の前に水が出て来て、剣の形へと姿を変える。そして剣の形のまま凍るのです」
「想像…」
エレナが両手を広げて力を込めると、小さな水球が出来上がる。
その水球がゆっくりと剣の形に変わる。
「凍る…凍れ」
エレナが小さく声を発する。
剣の形になっていた水が、パキパキと音を立てて凍り始めた。
「…ふぅ」
エレナは完成した氷の剣を握ってみたが、砕けたり溶け始めたり、皮膚に張り付いたりはしなかった。
「なんてことだ…Sランク冒険者でも扱える者は少ない技なのに」
ゾルダは愕然としていたが、イズミはアレクセイへ向き直って話を戻した。
「このように、成功までの道しるべを想像させるのです。それが切っ掛けとなり、魔法適正のある属性の魔法ならば、より扱えるようになるでしょう」
勿論、日々の魔法訓練は必要ではあるが。
「魔法を使っても今までみたいに疲れないのですが、それは何故でしょうか?」
エレナは自身の身に何が起きているのか、まだ分かっていなかったみたいだ。
「マスタングが言うには…いずれ必要になる力、だそうです」
まだ頭上に疑問符が浮かんでいるようだったが、イズミはベリアから受け取った紙をエレナに渡した。
「マスタングがこの紙をエレナ様に渡して欲しい、との事だったのでお渡ししますね」
二つ折りの紙を手渡すと、エレナはゆっくりと開いて読み始めた。
「…」
エレナの表情が一瞬固まってしまったが、目を閉じると直ぐに紙を仕舞った。
「…分かりました。マスタング様にはどんなに感謝しても足りませんね」
「ちなみに、私は書かれていた文字が読めませんでした。なので、エレナ様の心の内に留めておくのがよいかと」
イズミは素直に言っておいた。
後で聞かれても困るし、答えようが無いからである。
ゾルダも同行しているのが気になったが、目的は遂行出来ているので良いとしよう。
「マスタング、エレナをお連れしたぞ」
「エレナ様。どうぞお座り下さい」
マスタングが助手席のドアを開けると、エレナは慣れた足取りで助手席へと座った。
「マスター。コチラを」
トランクが開いたので確認してみると、小瓶が1本入っていた。
マスタングの目的を察したイズミは、小瓶の中身を飲む前に聞いておいた
「…今度は何をするつもりだ?」
「…魔力利用の最適化と高効率化、無詠唱スキルの獲得と、保有魔力量の増大、その他少々です」
「一体エレナを何にしたいんだ?」
この話は魔法通信でしているので、他の者には聞こえていない。
「一騎当千の強者、それ以上の存在に。エレナ様には何れ必要になる力です」
マスタングが怖いくらい乗り気なので、イズミは覚悟を決めて小瓶を開け勢い良く飲み干した。
前回飲んだ物よりも不味い液体だった。
液体なのに舌に粉末のようなザラつきと、少し粘着質なものを感じる。
気合で飲み終えたイズミは、トランクを閉じてからマスタングにより掛かるようにして地面へ座り込んだ。
「ベリア。すまないが今から半日位寝るから、何かあったら対応を頼んだ。礼は弾むよ」
「分かった。とりあえず任されよう」
そう言って笑みを浮かべるベリアを見てから、大きく深呼吸をしてマスタングに合図を送った。
その直後、イズミは気を失った。
次にイズミが目を覚ますと、何故かベッドの上だった。
「起きたか?」
ベリアがイズミの顔を覗き込んで起床を確認した。
「全くもう、驚いたぞ!マスタングが光ったと思ったら、イズミは急に動かなくなるし、揺らしても叩いても反応しないし」
「他言無用で頼むぞ。アレをやると俺の死期が近付くようなもんだからな」
概ね間違ってはいないだろう。
マスタングの魔法は文字通り命懸けなのだ。
「分かった。そう言えばエレナが呼んでたぞ…」
ベリアの冷めた目がイズミを刺す。
まだしっかりとした説明が出来ていなかったので、かなりやんわりとだが話しておいた。
「マスタングの魔法でエレナの体調を調べたんだよ」
「それだけか?」
「他にも色々あるが、それは追々な」
イズミはダル重な身体を起こした。
「それと…マスタングからコレを渡してくれって言われた。イズミからエレナに渡す事だってさ」
ベリアが取り出したのは、イズミには読めない文字が書かれた紙だった。
それを受け取ったイズミは、やって来た屋敷の従者の案内でエレナの元へ向かった。
エレナは屋敷の書斎と思われる部屋に、アレクセイやゾルダと共に本を読んでいた。
「主様、イズミ様がいらっしゃいました」
「うむ、通してくれ」
書斎へ通されたイズミは、用意された椅子へと座った。
「イズミ殿。今回は何をしたのだね?」
アレクセイが早速質問をして来た。
マスタングから聞いた追加内容をそのまま伝えるのは、自分にとってリスクが多いように感じたので多少ボカして答えた。
「より魔法を使えるようになる為の、キッカケを作ったのです。後はエレナ様の努力次第です」
イズミはエレナに対して、ゾルダが使っていた氷の剣を出せるか試してもらった。
しかし、剣は出てこなかった。
作れなかったと言うのが正解だろう。
「ではエレナ様、想像して下さい…目の前に水が出て来て、剣の形へと姿を変える。そして剣の形のまま凍るのです」
「想像…」
エレナが両手を広げて力を込めると、小さな水球が出来上がる。
その水球がゆっくりと剣の形に変わる。
「凍る…凍れ」
エレナが小さく声を発する。
剣の形になっていた水が、パキパキと音を立てて凍り始めた。
「…ふぅ」
エレナは完成した氷の剣を握ってみたが、砕けたり溶け始めたり、皮膚に張り付いたりはしなかった。
「なんてことだ…Sランク冒険者でも扱える者は少ない技なのに」
ゾルダは愕然としていたが、イズミはアレクセイへ向き直って話を戻した。
「このように、成功までの道しるべを想像させるのです。それが切っ掛けとなり、魔法適正のある属性の魔法ならば、より扱えるようになるでしょう」
勿論、日々の魔法訓練は必要ではあるが。
「魔法を使っても今までみたいに疲れないのですが、それは何故でしょうか?」
エレナは自身の身に何が起きているのか、まだ分かっていなかったみたいだ。
「マスタングが言うには…いずれ必要になる力、だそうです」
まだ頭上に疑問符が浮かんでいるようだったが、イズミはベリアから受け取った紙をエレナに渡した。
「マスタングがこの紙をエレナ様に渡して欲しい、との事だったのでお渡ししますね」
二つ折りの紙を手渡すと、エレナはゆっくりと開いて読み始めた。
「…」
エレナの表情が一瞬固まってしまったが、目を閉じると直ぐに紙を仕舞った。
「…分かりました。マスタング様にはどんなに感謝しても足りませんね」
「ちなみに、私は書かれていた文字が読めませんでした。なので、エレナ様の心の内に留めておくのがよいかと」
イズミは素直に言っておいた。
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