異世界無宿

ゆきねる

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第十一章 新たな相棒

第百四十六話 クラーケン

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旅の準備が整った所で、町の鐘が鳴り響いた。
イズミとベリアが音の鳴る方を見ると、町に住む人達が大急ぎで家に入って行く。

イズミはベリアをマスタングの助手席へ押し込むと、騒がしくなっている海辺へと走らせた。

「あれは…」

「クラーケンだな。かなりデカいけど」

漁師達は被害を最小限にしようと船を陸地に上げたり、衛兵隊は海辺に設置されたバリスタのような武器を撃ち込んでいる。

しかし、当のクラーケンにはそこまでダメージを負っていないように見えた。

現に大きな船を触手で破壊している。

「クラーケンってのは美味いのか?」

「はぁ?」

イズミの第一声が美味いのかどうかで、ベリアは怪訝そうな顔をしているが気にしないでおこう。

「俺の武器では討伐は無理だな…海に潜られたら無力だ」

銃弾は水中では威力が激減する為、海の魔物とは相性が悪い。
マスタングに特殊弾を作ってもらえば、少しは改善するかもしれないが…

遠くで暴れているクラーケンを眺めていると、先程魔改造したナイフの能力を思い出す。

炎と風の魔法が使えるならば、使い方次第でクラーケンを倒せるのではないだろうか?

「ベリア。あのナイフをフル活用すれば、あのクラーケンも討伐出来るかもしれない」

「えぇ…」

信じられない。
みたいな表情をするベリアに対して、イズミは倒し方のイメージを伝えた。

倒し方は単純。
風魔法でクラーケンを海から引きずり出し、炎魔法で丸焼きにする。
それだけ。

「そんな簡単に言うけどさ、武器に付与された魔力を使った事すらないぞ」

「俺も魔法は使えないから何とも言えないが…的もデカいし、大雑把で良いんじゃないか?」

イズミはかなり雑なレクチャーをする。

「ナイフを構えて、風よクラーケンを陸地へ放り投げろ!とか…炎よクラーケンを丸焼きにしろ!とか。後は魔力でゴリ押しだな」

「んな滅茶苦茶な」

完全に信用していない視線を感じつつ、イズミは話を続ける。

「ま、気分転換ストレス発散だと思って、心置きなくやってみたらどうだ?パーティー解散とか仲間の結婚とかに不満やら怒りやら、色々と溜まってるみたいだし」

ベリアの表情が固まった。
前回は宿屋の床でゴロゴロと転がり回っていたが、今回は行き場の無いストレス等の行き先…もとい矛先がある。

のそりとマスタングから降りたベリアが、ナイフを鞘から抜いてクラーケンへ向ける。

「…ふざけやがって!アタイにも!魅力の1つや2つ!あるだろうが!!」

猫が威嚇をする時のような声を上げたかと思えば、そんな叫び声と共にナイフを振り回し始めた。

「結婚はおめでとうだけど!パーティーを解散するなら、事前に相談の1つでも欲しかった!」

すると、海で暴れていたクラーケンが突然宙を舞い、その巨大な全身が爆炎で包まれる。
その状態のまま凄まじい勢いで、民家も無い町外れの陸地へと衝突した。

「おぉ。流石マスタング、素晴らしい出来前だ」

「…今度王都へ行った際に、より強い武器と魔石を購入して改良しましょう。威力と魔力残量に不安があります」

「マスタングよ、それは少々頑張り過ぎな気がするぞ」

マスタングの規格外な向上心に驚きつつも、イズミは降車してベリアの隣に立った。

「お疲れさん」

イズミはそれ以上は言わずに、ベリアの肩を優しく叩いた。

「あー、スッキリした!今日はグッスリ寝れそうだ」

ベリアは満足したのか、ナイフを鞘に納めてから背伸びをしている。
その表情は晴れ晴れとしていた。

2人はマスタングに乗り込むと、丸焼きになったクラーケンへと走り出した。
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