142 / 236
第十章 気楽な一人旅
第百三十九話 ある意味似ている
しおりを挟む
目的が読み切れない男。
それが最初の感想だった。
悪党を退治する。
魔物を討伐する。
その目的は民を守る為とは言うが、それを請け負う者の主な目的は金や名声である。
正義感で戦う者もいるが、金が無ければ満足な準備も難しいし、金も名声も要らないと言う者は寧ろ要注意人物としてマークされるだろう。
命をかけて戦うのだから、然るべき報酬を得るのは当然の権利であり、金を報酬として与えられないならば、地位や名声を与えるのが人の上に立つ者の責務だからである。
そう考えているからこそ、王家でも冒険者ギルドでも話題に上がる男が異質に感じたのだ。
冒険者ギルドから登録拒否されたと思えば、村の乗っ取りしていた賊達を壊滅に追いやる。
騎士隊の世話になったかと思えばゴブリンの巣の討伐を独自かつほぼ単独で実行する。
新たなダンジョンの発見にも、その男の影があった。
発見者はカレンと言うエルフ族の女性との事だったが、そのカレンが手を組んでいるのがイズミだった。
ダンジョンから王都までを、たった1日で走破すると言う常識外れな事をしたと思えば、辺境伯家の娘の治らないとまで言われた足の治療までしていたのだ。
それでいて、その男には魔法適性が無いと言う事実がより謎を深めている。
冒険者ギルドからの魔法通信によると、下位のドラゴンも落としたとの知らせがあったが、イズミと言う男は近くにいた冒険者パーティーに素材をほぼ全て渡したと言う。
それも、僅か金貨10枚で。
ゴブリンの巣を討伐するまでは、無理くりではあるが何とか理解した。
しかし、そこから先の行動は理解しきれない。
だからこそ、直接会って話をしたくなったのだ。
こんなに面白そうな男の話を、他者からの又聞きや報告でしか聞けないのが、どうしても耐えられかったのだ。
直接会うまでは、この男を自分の配下に置きたいとまで考えたが、一目見た時にその考えは愚策だと悟った。
この男は、一匹狼だ。
一時ならば誰かと手を組んで共同戦線を張ることはあっても、決してパーティーに加わったり結成したりする事は無い。
騎士のように王や国への忠誠を誓う事も無く、冒険者ギルドとの関係性も構築出来ていない。
首輪を付けようものなら、手足も首も噛み千切る程の凶暴さが眠っていると、直感が囁いている。
だからこそ。
「面白いではありませんか!」
「はぁ…」
イズミは第三王子の熱弁に、若干引いていた。
興味を持ったまでは分かったが、それが何故格好良いに収束するのか。
イズミは理解に苦しんでいた。
「普通ここまでの実績があれば、爵位だって普通に貰えます。下位のレッドドラゴンの素材が幾らになったかご存知ですか?血と肉と骨と内臓で金貨1090枚です。因みに骨と言っても牙や爪、魔石は抜きですからね。爵位が欲しいならば、私の権限で子爵までは直ぐに差し上げる程の功績です!」
「そこまで考えてもいないし、爵位は遠慮させて頂きたく…」
「伝記にある勇者の物語でも、黒竜を討伐したら剣を置き、その後は王都で静かに暮らしたとあるのに…貴殿は旅を選んだ。これを面白いと言わず何と言えば良いか!今の私の語彙では浮かんで来ないです」
益々ヒートアップする第三王子の話を聞きつつイズミは察した。
これは自分が知り合いとアクション映画の話をしている時のテンションだ。
それとあまり変わらない熱量だと。
しれっと第三王子は自らの配下に置こうと考えていたまで分かったが、それは止めたと言うので、まずは一安心ではある。
「つまり何が言いたいか。私は貴殿の今後の活躍を聞くのが楽しみだと言う事です」
勝手に結論づけて豪快に笑う第三王子に対して、イズミはどう返しをすべきか困り果ててしまった。
「このまま旅を続けて下さい。そして、その旅路を楽しんで欲しい。貴殿からは争い事の匂いがする…すぐ私の耳にも貴殿の活躍は届くでしょうし」
そう言ってイズミの両肩を叩く。
「勇者やSランク冒険者の冒険譚より、面白い冒険譚が耳に入る事を期待したい」
第三王子は言いたい事だけ伝えきったら、満足気な表情で町長へと挨拶をすると屋敷から去っていった。
「…ご機嫌なアクション映画を見終えた帰りの俺みたいだ」
そんな感想しか浮かんで来なかった。
それが最初の感想だった。
悪党を退治する。
魔物を討伐する。
その目的は民を守る為とは言うが、それを請け負う者の主な目的は金や名声である。
正義感で戦う者もいるが、金が無ければ満足な準備も難しいし、金も名声も要らないと言う者は寧ろ要注意人物としてマークされるだろう。
命をかけて戦うのだから、然るべき報酬を得るのは当然の権利であり、金を報酬として与えられないならば、地位や名声を与えるのが人の上に立つ者の責務だからである。
そう考えているからこそ、王家でも冒険者ギルドでも話題に上がる男が異質に感じたのだ。
冒険者ギルドから登録拒否されたと思えば、村の乗っ取りしていた賊達を壊滅に追いやる。
騎士隊の世話になったかと思えばゴブリンの巣の討伐を独自かつほぼ単独で実行する。
新たなダンジョンの発見にも、その男の影があった。
発見者はカレンと言うエルフ族の女性との事だったが、そのカレンが手を組んでいるのがイズミだった。
ダンジョンから王都までを、たった1日で走破すると言う常識外れな事をしたと思えば、辺境伯家の娘の治らないとまで言われた足の治療までしていたのだ。
それでいて、その男には魔法適性が無いと言う事実がより謎を深めている。
冒険者ギルドからの魔法通信によると、下位のドラゴンも落としたとの知らせがあったが、イズミと言う男は近くにいた冒険者パーティーに素材をほぼ全て渡したと言う。
それも、僅か金貨10枚で。
ゴブリンの巣を討伐するまでは、無理くりではあるが何とか理解した。
しかし、そこから先の行動は理解しきれない。
だからこそ、直接会って話をしたくなったのだ。
こんなに面白そうな男の話を、他者からの又聞きや報告でしか聞けないのが、どうしても耐えられかったのだ。
直接会うまでは、この男を自分の配下に置きたいとまで考えたが、一目見た時にその考えは愚策だと悟った。
この男は、一匹狼だ。
一時ならば誰かと手を組んで共同戦線を張ることはあっても、決してパーティーに加わったり結成したりする事は無い。
騎士のように王や国への忠誠を誓う事も無く、冒険者ギルドとの関係性も構築出来ていない。
首輪を付けようものなら、手足も首も噛み千切る程の凶暴さが眠っていると、直感が囁いている。
だからこそ。
「面白いではありませんか!」
「はぁ…」
イズミは第三王子の熱弁に、若干引いていた。
興味を持ったまでは分かったが、それが何故格好良いに収束するのか。
イズミは理解に苦しんでいた。
「普通ここまでの実績があれば、爵位だって普通に貰えます。下位のレッドドラゴンの素材が幾らになったかご存知ですか?血と肉と骨と内臓で金貨1090枚です。因みに骨と言っても牙や爪、魔石は抜きですからね。爵位が欲しいならば、私の権限で子爵までは直ぐに差し上げる程の功績です!」
「そこまで考えてもいないし、爵位は遠慮させて頂きたく…」
「伝記にある勇者の物語でも、黒竜を討伐したら剣を置き、その後は王都で静かに暮らしたとあるのに…貴殿は旅を選んだ。これを面白いと言わず何と言えば良いか!今の私の語彙では浮かんで来ないです」
益々ヒートアップする第三王子の話を聞きつつイズミは察した。
これは自分が知り合いとアクション映画の話をしている時のテンションだ。
それとあまり変わらない熱量だと。
しれっと第三王子は自らの配下に置こうと考えていたまで分かったが、それは止めたと言うので、まずは一安心ではある。
「つまり何が言いたいか。私は貴殿の今後の活躍を聞くのが楽しみだと言う事です」
勝手に結論づけて豪快に笑う第三王子に対して、イズミはどう返しをすべきか困り果ててしまった。
「このまま旅を続けて下さい。そして、その旅路を楽しんで欲しい。貴殿からは争い事の匂いがする…すぐ私の耳にも貴殿の活躍は届くでしょうし」
そう言ってイズミの両肩を叩く。
「勇者やSランク冒険者の冒険譚より、面白い冒険譚が耳に入る事を期待したい」
第三王子は言いたい事だけ伝えきったら、満足気な表情で町長へと挨拶をすると屋敷から去っていった。
「…ご機嫌なアクション映画を見終えた帰りの俺みたいだ」
そんな感想しか浮かんで来なかった。
20
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。
異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました
ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが……
なろう、カクヨムでも投稿しています。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる