異世界無宿

ゆきねる

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第十章 気楽な一人旅

第百三十九話 ある意味似ている

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目的が読み切れない男。
それが最初の感想だった。

悪党を退治する。
魔物を討伐する。
その目的は民を守る為とは言うが、それを請け負う者の主な目的は金や名声である。

正義感で戦う者もいるが、金が無ければ満足な準備も難しいし、金も名声も要らないと言う者は寧ろ要注意人物としてマークされるだろう。

命をかけて戦うのだから、然るべき報酬を得るのは当然の権利であり、金を報酬として与えられないならば、地位や名声を与えるのが人の上に立つ者の責務だからである。

そう考えているからこそ、王家でも冒険者ギルドでも話題に上がる男が異質に感じたのだ。


冒険者ギルドから登録拒否されたと思えば、村の乗っ取りしていた賊達を壊滅に追いやる。
騎士隊の世話になったかと思えばゴブリンの巣の討伐を独自かつほぼ単独で実行する。

新たなダンジョンの発見にも、その男の影があった。
発見者はカレンと言うエルフ族の女性との事だったが、そのカレンが手を組んでいるのがイズミだった。

ダンジョンから王都までを、たった1日で走破すると言う常識外れな事をしたと思えば、辺境伯家の娘の治らないとまで言われた足の治療までしていたのだ。

それでいて、その男には魔法適性が無いと言う事実がより謎を深めている。

冒険者ギルドからの魔法通信によると、下位のドラゴンも落としたとの知らせがあったが、イズミと言う男は近くにいた冒険者パーティーに素材をほぼ全て渡したと言う。

それも、僅か金貨10枚で。

ゴブリンの巣を討伐するまでは、無理くりではあるが何とか理解した。
しかし、そこから先の行動は理解しきれない。
だからこそ、直接会って話をしたくなったのだ。

こんなに面白そうな男の話を、他者からの又聞きや報告でしか聞けないのが、どうしても耐えられかったのだ。

直接会うまでは、この男を自分の配下に置きたいとまで考えたが、一目見た時にその考えは愚策だと悟った。

この男は、一匹狼だ。
一時ならば誰かと手を組んで共同戦線を張ることはあっても、決してパーティーに加わったり結成したりする事は無い。

騎士のように王や国への忠誠を誓う事も無く、冒険者ギルドとの関係性も構築出来ていない。

首輪を付けようものなら、手足も首も噛み千切る程の凶暴さが眠っていると、直感が囁いている。

だからこそ。


「面白いではありませんか!」

「はぁ…」

イズミは第三王子の熱弁に、若干引いていた。

興味を持ったまでは分かったが、それが何故格好良いに収束するのか。
イズミは理解に苦しんでいた。

「普通ここまでの実績があれば、爵位だって普通に貰えます。下位のレッドドラゴンの素材が幾らになったかご存知ですか?血と肉と骨と内臓で金貨1090枚です。因みに骨と言っても牙や爪、魔石は抜きですからね。爵位が欲しいならば、私の権限で子爵までは直ぐに差し上げる程の功績です!」

「そこまで考えてもいないし、爵位は遠慮させて頂きたく…」

「伝記にある勇者の物語でも、黒竜を討伐したら剣を置き、その後は王都で静かに暮らしたとあるのに…貴殿は旅を選んだ。これを面白いと言わず何と言えば良いか!今の私の語彙では浮かんで来ないです」

益々ヒートアップする第三王子の話を聞きつつイズミは察した。

これは自分が知り合いとアクション映画の話をしている時のテンションだ。
それとあまり変わらない熱量だと。

しれっと第三王子は自らの配下に置こうと考えていたまで分かったが、それは止めたと言うので、まずは一安心ではある。

「つまり何が言いたいか。私は貴殿の今後の活躍を聞くのが楽しみだと言う事です」

勝手に結論づけて豪快に笑う第三王子に対して、イズミはどう返しをすべきか困り果ててしまった。

「このまま旅を続けて下さい。そして、その旅路を楽しんで欲しい。貴殿からは争い事の匂いがする…すぐ私の耳にも貴殿の活躍は届くでしょうし」

そう言ってイズミの両肩を叩く。

「勇者やSランク冒険者の冒険譚より、面白い冒険譚が耳に入る事を期待したい」

第三王子は言いたい事だけ伝えきったら、満足気な表情で町長へと挨拶をすると屋敷から去っていった。

「…ご機嫌なアクション映画を見終えた帰りの俺みたいだ」

そんな感想しか浮かんで来なかった。
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