異世界無宿

ゆきねる

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第十章 気楽な一人旅

第百三十八話 第三王子来たる

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町の通りから離れて宿屋へと歩いていると、やたら豪華絢爛な馬車が向かいからやって来るのが見えた。

イズミは嫌な予感がしたので、一瞬で周囲を見てから裏通りへと入って行った。

馬車が通り過ぎるのを確認してから、少しだけ間をあけて宿屋へと戻った。

「お客様、先程お客様宛てに来客がありました」

宿屋の従業員から声をかけられたイズミは、来客の特徴を聞いた。

「…心当たりは無いな」

緑髪のおかっぱ頭に紅い目、色白で高級な服を着た貴族か商人と言う説明に対して、イズミは一言で片付けた。

部屋に戻ったイズミがマスタングに確認をしてみる。

「マスタング。何か異常はあったか?俺宛てに来客があったらしいが」

「…特に問題はありません。来客に関してですが、まだ明確な敵意は感じませんでした」

マスタングがそう言うならば、取り敢えずは大丈夫なのだろう。

「俺に用事のある奴って、どんなだろうな」

「マスター。ほとんどの場合、マスターを利用して利益を得たい者達です。マスターの事を利益をもたらす駒としか考えていないと思っておいた方が良いかと」

駒とか歯車になるのは、元いた世界で生きていた時だけで十分である。
この世界では自由でありたい。

イズミはベッドに横になりつつ、明日にでもまたやって来そうな来客に頭を悩ませていた。


翌日。
朝1番で宿屋に挨拶を済ませたイズミは、マスタングへと乗り込み次の町へと向かおうと通りへ出る。

「嫌な予感ってのは、当たるもんだな」

道を何台もの馬車が塞いでいた。
そして、衛兵にも冒険者にも見えない兵士達が武器を持って立っている。

イズミは車内から周囲を見てみるが、町の住人は見当たらなかった。
ただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、家から出て来ていないようだ。

「マスタング。取り敢えず戦闘態勢だ」

「かしこまりました」

グローブボックスから出て来たメガネをかけてから、兵士や馬車の動向を確認する。

「反応は全部で50です」

「厄介な相手はいるか?」

「…我々の火力であれば、問題ありません」

イズミはグレネードランチャーを実体化させてから、何時でも撃てるように準備をした。
マスタングから降車すると同時に、座席にグレネードランチャーを立て掛けて兵士達を睨みつける。

「貴殿がイズミだな?」

兵士達の間から現れたのは、一目で貴族と分かる程に仕立ての良い服を身に纏った男だった。

その隣には、先日宿屋に現れたと言う緑髪の男がいた。

「私はここジェヴェドール王国の第三王子、サンドヴァル・ジェヴェドールである!一度貴殿と話をしたくここへ来たのだ」

「…だったら、そんなに兵士を準備せずとも、隣の男に手紙の1枚でも渡しておけば良かったのでは?」

イズミは思わずツッコミを入れてしまった。

「手紙は貴族間とのやりとりで疲れたのだ。やはり直接会って話すのが良いのだ」

バカ正直なのか何なのか分からない王国の第三王子とやらの考え方に、どことなく剛の者の気配を感じる。

「確かに俺はイズミだ。話をしたいなら、まずは兵士を下げてくれ。このままじゃ町に住む人々が怖くて家から出れない」

「…それもそうだな。皆、武器を降ろせ」

王子の言葉を聞き即座に武器を降ろす兵士達の動きは、紛れもなく精鋭の動きだった。

「戦闘狂かと思っていたが、どうやら常識もあるようだな。しかし、あの目は正に戦闘狂のソレだった…読めぬ相手ならば下手に関わらないのが得策か?」

王子はイズミとの関わり方を、直ぐに決めたようだった。


「…で、話というのは」

イズミはこの町の長が住む屋敷へと案内され、大きな部屋で話をする事になった。
町長は突然の訪問者に驚き、大急ぎでもてなす準備をしようといていたが、王子が止めさせていた。

「ここ暫く、王都で話題になっている事に興味を持ったのだ」

第三王子は従者が淹れた紅茶を飲んでから、静かに話し始めた。
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