異世界無宿

ゆきねる

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第十章 気楽な一人旅

第百三十一話 落ち着きましょう

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イズミは銃を少しだけ下に向けると、周囲を確認するように頭を左右に動かした。

視界が狭まるのを防ぐ為だ。

イズミは丸まっているグリフォンは一旦保留にして、屋根から落ちた奴を確認する為に歩き始めた。

「思ったよりしぶとい男だ」

イズミが平屋の建物に到着すると、衛兵が呼んだ魔術師が治療をしていた。

どうも胸部を狙った銃弾は、右肩付近に当たったようで致命傷にならなかったようだ。

「…俺も、もっと練習しないと駄目だな」

「私もそう思います」

マスタングからも言われてしまったので、今度どこかで練習をしようと決めた。

死んだ2体のグリフォンは、冒険者ギルドが素材として回収するらしいと、野次馬の話し声から聞き取った。

戦闘だからとは言っても、あんなに撃ち込んだのは心が痛い。
一撃で仕留められる実力が自分にあれば、そこまで苦しませる事も無かっただろうと、どうしても考えてしまうのだ。

イズミは渋い顔で広場へと戻った。
衛兵も武器を構えてはいたが、誰も攻撃はしていないようだ。

緊張状態

そんな言葉が似合う状況だった。


衛兵の横を通り過ぎる直前に銃を構えなおし、威嚇するかのようにうめき声を出すグリフォンへと近付いた。

「お前を操っていた男は捕らえた。もう自由だ」

イズミは通じているか分からなかったが、言葉にしてグリフォンへと言ってみた。

すると、どう言う訳かグリフォンのうめき声が止まった。
鋭い眼光がイズミを突き刺し、その後衛兵や広場を見渡すように頭を動かした。

起き上がろうとしたグリフォンだったが、身体を操る魔法に抵抗していたせいで体力が無いのか、またその場に丸まってしまう。

「マスター。そのグリフォンはかなり体力を消耗しています。休息が必要です」

マスタングの言葉を聞いたイズミの元へ、衛兵の1人が武器を構えたまま近付いてきた。

「おい!何故そのグリフォンに止めを刺さない?」

衛兵の隊長らしき男が、イズミへ詰め寄ってきたのだ。

「まずは落ち着きましょう…グリフォンは先程捕まえた男に操られていました。それはもう解けたのですが、男の魔法に長らく抵抗していたせいで、体力を消耗しきって動けないようです。少し休ませれば、町の人を襲う事なく去っていきますよ」

「む!そうなのか…しかし、この広場で休まれるのもな」

衛兵の隊長は色々と呟きながら、広場にいる1人の男へ話しかけた。

「町長。この男の説明した通りならば、今日だけグリフォンを広場で休ませてもよろしいですかな?下手に刺激する方が被害が出る可能性があります」

「うーん…体力を消耗しているとは言えどもグリフォンです。もしもの時の為に見張りを付けてくれるならば、今日だけは良いとします。幸いな事に広場にいた方に大きな怪我人はいませんし」

どうやら話はまとまったようだ。

見張りに衛兵が2人付けたようで、少し離れた所で椅子に座って様子を見始めた。
2人でグリフォンに対応出来るのかは不安だが、そこは気にしない事にした。

イズミはこんな状態でも平然と営業を続けているお店を見つけたので、ゆっくりと歩いて行った。


「いらっしゃい!グリフォンを2体も倒したんだってな。アンタやるな!」

「いや、俺もまだまだ未熟者さ」

そんな話から入ったが、直ぐにイズミは店の男に話をふった。

「ちょいと頼みたい事があるんだが、良いか?」

「なんだい?」

イズミはポケットから金貨を1枚取り出した。

「あのグリフォンに何か食べさせてやりたいんだ」

「…物好きな男だな。だが、嫌いじゃない」

男は金貨を受け取ると、店の奥から複数人で大きな魚を持って来て、刀のような大きさの見事な包丁を取り出した。

「コイツを使うのは久し振りだ。よし!やるぞ…気合い入れっぞ!」

男は大声で自分を鼓舞すると、包丁で捌き始めた。
魚は元いた世界で言う所の、カジキマグロみたいなサイズだった。

それを見事な手捌きで切り分けていく。

「はいよ!」

大きな木皿に乗せられたソレは、素人のイズミが見ても極上品に見えた。
それを魔物に食べさせるのは少々勿体無い気もするが、店の男が選んだ魚なのだからそれを言っても仕方がない。

イズミはグリフォンの目の前に木皿を置いた。

「魚は食べ慣れてないかもだが、食べないと体力も戻らないからな。遠慮せず食べてくれ」

そう言ってイズミは店へと戻った。

追加分を受け取ったイズミがグリフォンの前にやって来ると、最初に置いた分の切り身は綺麗に無くなっていた。

「良い食いっぷりだな。まだあるからな」

イズミはこのやりとりを、何度も繰り返す事になった。
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