異世界無宿

ゆきねる

文字の大きさ
上 下
118 / 236
第九章 海を目指して

第百十五話 噂場は酒場が一番

しおりを挟む
イズミは海に向かう途中、賑わっている町にて5日程過ごす事にした。

理由は2つ。
1つは食料等の確保、もう1つは料理である。

幸いにもマスタングを宿屋の隣に駐車しても良いと言う、ありがたい宿屋と出会えたのも大きい。

先払いで金貨を1枚渡したら、直ぐに部屋を準備してくれた。

食料の確保は最終日に回すとして、まずは飯屋を探した。
町は良い雰囲気の賑やかさで、子供のやんちゃな声すら心地よい。

「あんちゃんどうだい?オーク肉の串焼きだ!1本で銅貨5枚だ!」

イズミは自分を手招きする男が自ら料理している串焼きを見る。
ただオークを焼いただけでは無いようだ。
上にソースのような物をかけて焼いたのだろうか?

「1本貰おう」

イズミは銅貨を手渡すと、受け取った串焼きを一口頬張った。

「おぉ!肉も硬すぎず軟すぎずの良い焼き加減だ…このソースも良い。酒が欲しくなる濃い味付けだな」

「分かってくれるか!嬉しいねぇ…このソースは俺が何年もかけて作った自信作でね」

ペロリと食べきったイズミが串を返却箱に入れ込むと、町の商店街の奥へと歩いて行った。


商店街では食料品関係の店が多く、武器の類いの店は1本裏の通りにあった。
この世界の酒に興味を持ったイズミは、まず酒場がどんな感じなのかを知ると言う目的を持って人気のある酒場に入った。

「いらっしゃい、1人かい?」

厳つい顔のオッサンが入口にて聞いて来たので、そうだと答える。

「じゃ、カウンター席に座ってくれ…そろそろ冒険者連中が来てテーブル席が埋まる」

オッサンの指示通りにカウンターに座ると、早速メニューを確認して注文をする。

メニューには酒としか書かれていないのが気になる。
この店では1種類だけなのだろうか?
そう言うのを経験するのも、旅の醍醐味だろう。

「ベーコンと酒、あと野菜蒸しってのを頼む」

「分かりました!」

注文を取りに来た店員に頼むと、直ぐに酒が届いた。

「はい!ビールです」

中ジョッキサイズの木製ジョッキでやって来たビールを、まずはグイッと飲んだ。

微温い。
炭酸やキレをあまり感じない、ヨーロッパのビールに近かった。
腹には溜まるだろうけれど、日本のビールにあるスッキリとした喉越しは冷やしても期待出来ないだろう。

「はい、ベーコンと野菜蒸しです」

次に届いたベーコンと野菜蒸しを味わうとしよう。
木製の皿に乗せられたベーコンは、思ったよりボリュームがある。
野菜蒸しは数種類の野菜を蒸したようで彩りとして良いバランスだった。

こちらの世界では、どうやって蒸しているのかが気になったが、考えるのは後回しにした。
まずは食べる事を優先したい。

イズミがまったりと食事をしていると、どんどん客が入って来てテーブル席はオッサンが言った通り満席になった。

店は賑わっているのが一番だと思いながら酒を飲んでいると、客の話から色々な情報が耳に入って来た。


「おい聞いたか?王都の冒険者ギルドにレッドドラゴンの素材が入るらしいぞ」

「俺もギルドで手続きしてた時、裏で騒いでたのを聞いたよ」

「羨ましいなぁ!俺達も頑張らないとな」

あのドラゴンの素材はしっかりと売れるようだ。

「それと…ギルドのお偉方が人探しをしてるって聞いたか?」

「人探し?」

「変な男らしくてな、中々見つからないんだとよ」

「何だっけ?海を目指してる男だったか」

「海?なんで海なんだ?」

「さあな…詳しい内容が届くのはもう少し先だろ」

イズミはそんな話を聞きつつ料理を食べ終えた。
王都ではしゃぎ過ぎたからかだろうか?

店員に銀貨で支払いを済ませて店を出ると、今日の所は散策を終わりにして宿屋へ戻ると決めた。

噂話は酒場で耳を傾けるのが一番だなと、少しだけ酔いが入った頭で思いながら、イズミは宿屋に戻って身体を休めた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...