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第八章 王都での日々
第九十八話 無惨な甲冑
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翌朝、イズミは久し振りの熟睡のお陰かスッキリとした目覚めだった。
枕の下に忍ばせたマグナムを確認してから、身支度を整えて部屋から出て水汲み場へと向かった。
外は日が昇ったばかりで、少し冷えるが過ごしやすいと言って良いだろう。
水汲み場へ向かう途中で、マスタングに朝一番の索敵をしてもらった。
「…異常ありません」
イズミは右手に付けていた腕時計をグローブボックスに収納してから、使い捨てのような腕時計を取り出して、左手に付けた。
右手に付ける腕時計は、愛用のクロノグラフだけに限定しているのだ。
水を汲み終えると同時に、屋敷の方に目をやった。
夜では分からなかった屋敷の外観をマジマジと見つめる。
元いた世界で言う所の、中世ヨーロッパの屋敷みたいな感じだった。
装飾の類いはかなり控えめに見えるが、使っている素材や資材は一流品なのではなかろうか。
「マスター、近くの広場で魔法の反応があります。敵意はありませんので、魔術師の訓練中と思われます」
マスタングからの報告を聞いたイズミは、純粋な興味から広場へと向かった。
自分は魔法を使えないが、魔法がどんなものなのかを間近で見れるかもしれないのだ。
ズドン、ズドン…
広場には的が置かれていて、そこに魔術師が火球を放っていた。
手を空にかざすように上げると、掌の上にサッカーボールくらいの大きさの火球が出来上がる。
それを投げつけるようにして、的へ放っていた。
「彼等は訓練生です。やっと火球を使えるようになったのですが、威力はまだまだです」
勝手に見学していたイズミの隣に、自分よりは若いだろう男が立っていた。
背は高くて顔は美形な、いわゆるモテそうな男だった。
「失礼…私はランドール家直属の魔術師、レンドリックと申します」
名前を尋ねる前に自己紹介をされてしまった。
「イズミです…私は魔法を使えない体質でしてね、使えるだけ羨ましいものです」
イズミも自己紹介を簡単にしておいた。
「…火球を見ても驚いていないように見えますが?」
「ええ。使われた事なら何度もありますので」
あれは恐ろしいと、レンドリックの疑問にさらっと答えた。
何度も感じた事だ。
銃よりも魔法の方が強力である、と…
火球が飛んで来るのは、純粋に怖いのである。
「ランドール様からオークの巣を討伐したと伺いましたが、その口振りから察しますと…余裕だったのではありませんか?」
イズミがレンドリックの顔を見ると、探るような疑うような、鋭い目をしていた。
「強い相棒が居ますから」
オークの巣を討伐したのは、ほとんどカレンなのだ。
イズミが一体倒した時には、カレンは3体は倒せていたのである。
にこやかに返す。
「貴方も実力のある方とお見受けしますが」
「剣も魔法も嗜んではおりませんで」
私は只の旅人ですと、訓練中の魔術師を見ながら言った。
「副隊長!」
火球を投げていた訓練生がレンドリックに向かい敬礼をした。
火球の煙が晴れると、傷らしい傷の無い甲冑が姿を見せた。
「朝から訓練ご苦労…まだ火球の威力が足りないようだな」
レンドリックが訓練生を一瞥してから話を続ける。
「だが…火球を放てる回数が以前より増えて来ている事から、皆がまだまだ成長出来ると私は確信している。まずは火球の扱いに慣れる事を優先し、日々の訓練を怠らぬように」
「「ありがとうございます!!」」
レンドリックが唐突にイズミのいる場所を見た。
「イズミ殿だったかな…あの甲冑に攻撃してみますか?」
唐突な誘いだったが、火球を受けても無傷に近い甲冑への興味が勝った。
「あの甲冑には防御魔法が施されてまして、簡単には破壊出来ません」
兵士の戦闘では攻撃魔法対策が必要だが、それは相手も一緒なのだ。
だから防御魔法を上回る威力の攻撃を使えるようにする為の訓練をしていると言う事なのだろう。
「貴方なら甲冑の防御魔法に勝つと、私の勘が言っていますので」
「…」
イズミはゆっくりと息を吐きながらショルダーホルスターからマグナムを抜くと、訓練生が火球を放っていた場所に立った。
甲冑を睨みつけ、心臓からみぞおちの辺りに狙いを定める。
イズミは連続で5発撃った。
耳に残る発砲音が消えてから、マグナムをホルスターに仕舞いこむ。
甲冑にはしっかりと5つの穴が空いていた。
しかし、集弾にはバラつきがあった。
イズミは言葉には出さずに、肉体の鍛練が必要だと感じていた。
「こんな所です」
イズミがレンドリックにそう言うと、本来の目的である水汲み場へと足を向けた。
「…これはもう廃棄だな」
レンドリックは無惨にも穴の空いた甲冑を確認すると、訓練生に別の甲冑を用意するように指示を出した。
枕の下に忍ばせたマグナムを確認してから、身支度を整えて部屋から出て水汲み場へと向かった。
外は日が昇ったばかりで、少し冷えるが過ごしやすいと言って良いだろう。
水汲み場へ向かう途中で、マスタングに朝一番の索敵をしてもらった。
「…異常ありません」
イズミは右手に付けていた腕時計をグローブボックスに収納してから、使い捨てのような腕時計を取り出して、左手に付けた。
右手に付ける腕時計は、愛用のクロノグラフだけに限定しているのだ。
水を汲み終えると同時に、屋敷の方に目をやった。
夜では分からなかった屋敷の外観をマジマジと見つめる。
元いた世界で言う所の、中世ヨーロッパの屋敷みたいな感じだった。
装飾の類いはかなり控えめに見えるが、使っている素材や資材は一流品なのではなかろうか。
「マスター、近くの広場で魔法の反応があります。敵意はありませんので、魔術師の訓練中と思われます」
マスタングからの報告を聞いたイズミは、純粋な興味から広場へと向かった。
自分は魔法を使えないが、魔法がどんなものなのかを間近で見れるかもしれないのだ。
ズドン、ズドン…
広場には的が置かれていて、そこに魔術師が火球を放っていた。
手を空にかざすように上げると、掌の上にサッカーボールくらいの大きさの火球が出来上がる。
それを投げつけるようにして、的へ放っていた。
「彼等は訓練生です。やっと火球を使えるようになったのですが、威力はまだまだです」
勝手に見学していたイズミの隣に、自分よりは若いだろう男が立っていた。
背は高くて顔は美形な、いわゆるモテそうな男だった。
「失礼…私はランドール家直属の魔術師、レンドリックと申します」
名前を尋ねる前に自己紹介をされてしまった。
「イズミです…私は魔法を使えない体質でしてね、使えるだけ羨ましいものです」
イズミも自己紹介を簡単にしておいた。
「…火球を見ても驚いていないように見えますが?」
「ええ。使われた事なら何度もありますので」
あれは恐ろしいと、レンドリックの疑問にさらっと答えた。
何度も感じた事だ。
銃よりも魔法の方が強力である、と…
火球が飛んで来るのは、純粋に怖いのである。
「ランドール様からオークの巣を討伐したと伺いましたが、その口振りから察しますと…余裕だったのではありませんか?」
イズミがレンドリックの顔を見ると、探るような疑うような、鋭い目をしていた。
「強い相棒が居ますから」
オークの巣を討伐したのは、ほとんどカレンなのだ。
イズミが一体倒した時には、カレンは3体は倒せていたのである。
にこやかに返す。
「貴方も実力のある方とお見受けしますが」
「剣も魔法も嗜んではおりませんで」
私は只の旅人ですと、訓練中の魔術師を見ながら言った。
「副隊長!」
火球を投げていた訓練生がレンドリックに向かい敬礼をした。
火球の煙が晴れると、傷らしい傷の無い甲冑が姿を見せた。
「朝から訓練ご苦労…まだ火球の威力が足りないようだな」
レンドリックが訓練生を一瞥してから話を続ける。
「だが…火球を放てる回数が以前より増えて来ている事から、皆がまだまだ成長出来ると私は確信している。まずは火球の扱いに慣れる事を優先し、日々の訓練を怠らぬように」
「「ありがとうございます!!」」
レンドリックが唐突にイズミのいる場所を見た。
「イズミ殿だったかな…あの甲冑に攻撃してみますか?」
唐突な誘いだったが、火球を受けても無傷に近い甲冑への興味が勝った。
「あの甲冑には防御魔法が施されてまして、簡単には破壊出来ません」
兵士の戦闘では攻撃魔法対策が必要だが、それは相手も一緒なのだ。
だから防御魔法を上回る威力の攻撃を使えるようにする為の訓練をしていると言う事なのだろう。
「貴方なら甲冑の防御魔法に勝つと、私の勘が言っていますので」
「…」
イズミはゆっくりと息を吐きながらショルダーホルスターからマグナムを抜くと、訓練生が火球を放っていた場所に立った。
甲冑を睨みつけ、心臓からみぞおちの辺りに狙いを定める。
イズミは連続で5発撃った。
耳に残る発砲音が消えてから、マグナムをホルスターに仕舞いこむ。
甲冑にはしっかりと5つの穴が空いていた。
しかし、集弾にはバラつきがあった。
イズミは言葉には出さずに、肉体の鍛練が必要だと感じていた。
「こんな所です」
イズミがレンドリックにそう言うと、本来の目的である水汲み場へと足を向けた。
「…これはもう廃棄だな」
レンドリックは無惨にも穴の空いた甲冑を確認すると、訓練生に別の甲冑を用意するように指示を出した。
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