異世界無宿

ゆきねる

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第八章 王都での日々

第九十七話 夜の王都

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夜の王都は、イズミが思っていたより明るい場所が多かった。
9時前だが店に灯りが点いているし、賑やかな声も聞こえるのだ。

営業しているのは宿屋と食事処がほとんどで、酔っ払いだろう客もちらほらと見えた。

少し進むと道が若干広くなり、大型の馬車も余裕で走れる程である。
イズミはランドールの指示を聞きつつ、徐行でマスタングを進ませて行く。

「この屋敷だ。少し待っていてくれ」

ランドールを大きな屋敷の正門の前でマスタングから降ろすと、門を警備していてる者と話し始めた。

「もう着いたの?」

眠っていたヘンリエッタが目を覚ましてしまったらしい。
カレンが屋敷に到着したと伝えると、直ぐに外へ降りようとしたので一旦止めた。

「ヘンリエッタ様、お待ち下さい」

イズミがヘンリエッタを止める前に、マスタングが声をかけた。

「私がネックレスをお渡しした時の言葉を、お忘れ無きよう」

「わかった!」

ヘンリエッタは笑顔で答えたが、イズミとカレンは意味が分からず頭上に疑問符を浮かべる事になった。


間もなく屋敷の正門が開いたので、門番の男の指示に従って敷地内へ入った。
敷地内も随分と広く、しっかりと整備されている事が夜でも分かる程だった。

カレンがヘンリエッタを降ろすと、ランドールの元へと走って行った。
2人が屋敷に入るのをフロントガラス越しに確認してから、カレンに小声で話しかけた。

「カレン。問題無いとは思うが、念の為に武器を取り出しておいてくれ」

「分かりました…このクロスボウだけで大丈夫でしょうか?」

カレンはいつものクロスボウを取り出すと、弾倉を外して後部座席に置いた。

「大丈夫だ。屋敷に呼ばれる事は無いだろうが、手持ちの武器を預ける事になるかもしれないからな」

イズミは屋敷を見るのを止めて、シートに身体を預けた。
丸一日運転をしていたのだ。
出来れば身体を伸ばしたい所だが、ここでマスタングから降りて体操でも始めたら、屋敷を警備する者から怪しまれると思ったので止めた。

暫くマスタングにて待機していると、屋敷から男が向かって来た。
イズミはゆっくりとした動作でマスタングから降りる。

「ランドール様からの言伝をお伝えします」

内容はざっと説明してもらった。
目の前の屋敷は本日警戒態勢らしく、隣の建物へ移動して欲しい。
その建物に今日は寝泊まりして欲しい。

伝令の男が隣の建物まで案内してくれたので、イズミとカレンは簡単な荷物だけ持って建物に入る事にした。

「…マスタング、念の為に索敵と警戒を頼む。何かあれば直ぐに連絡をくれ」

「かしこまりました」

イズミがマスタングから離れる前に、かなりの小声で頼んだ。
マスタングの返事を聞いたイズミは、ルーフを軽く撫でてから建物に入った。

建物は住み込みで働く従者向けらしいが、その中でも良い部屋らしい部屋に案内された。

シンプルでも造りが良く見える机と椅子、衣装棚も1人用の物が置いてある。
特に嬉しいのは、簡素ながらもベッドがあったのだ。
長時間の運転で疲れた身体には有り難い。

イズミは荷物を置くと、建物内を案内してくれた屋敷の従者から水汲み場を教えてもらう。
部屋に戻ったら桶で汲んだ水に布を浸してから絞って身体を拭いた。

さっぱりした後でベッド周りと壁に異常が無いかを確認する。
疑っている訳では無いが、サスペンス映画においては、しばしばベッドに罠が仕掛けられたりするのだ。
荷重が加わると爆発したりとか。

壁だって反対側から覗き見出来る仕掛けがあったりするのだ。
異世界では分からないが、盗聴器が仕掛けられていたりとかも脳裏を過る映画脳な一面も必要だろう。

映画の影響を受け過ぎているかもしれないが、結局のところ用心するのに越した事は無いのだ。

一通りの確認をし終えたイズミは、ベッドの端っこに横たわる。

「マスタング。様子はどうだ?」

「敷地内に異常はありません。本日は安眠しても良いかと」

マスタングがそう言うので、イズミはマグナムを枕の下へ忍ばせてから、少しだけベッドの中央に寄って目を閉じた。
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