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第八章 王都での日々
第九十六話 半分以下の話ではない
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マスタングが平原を駆けている。
舗装されていない道であるのと同時に、同乗者の体調も気にしなければならないので、原付1種並の速度にて安全運転に努めていた。
それでも冒険者達の馬車の横を、商人達の馬車の横を、貴族の旗を掲げる馬車列の横を、馬車の倍以上それ以上の速度で駆け抜けている。
坂道になっていようと、アクセルを少し踏み込めば容易に上る。
目の前に川が流れていようと、魔力を使い浮遊して通過する。
大型の魔物が立ち塞がろうと、イズミとカレンの連携プレーで即座に無力化した。
何度か小休止を挟む事も忘れない。
ヘンリエッタとランドールはマスタングに初めて乗ったのだから、目に見えない疲労が蓄積しているだろうとイズミは考えていた。
町を通過する際は徐行だったが、ヘンリエッタが商店街に興味を示し、カレンが何度か買い物へ繰り出す事になった。
数種類の果物とエルフ族の職人が作った、綺麗な手彫りの木製コップを嬉しそうに抱えるヘンリエッタに、ランドールは怒るに怒れないようだった。
支払いは勿論、ランドールの財布からである。
道中でオークの巣を発見したと言う冒険者パーティーと遭遇したものの、マスタングに索敵を頼むと思ったよりも町に近く、数も30体程度は確認出来たのでランドールに断りを入れて討伐した。
オークを巣に到着してから、5分と掛からずに全滅させてしまった。
カレンのクロスボウは強力で、オークの胴体に1発命中したら爆発四散してしまった。
マグナムを撃ち込むよりも無力化するのが早い。
難点は倒したオークの食用に出来る肉の回収量が少なくなる事くらいだろう。
諸々の後処理は勿論、巣を発見した冒険者パーティーに全振りした。
無宿人と冒険者ギルド仮登録者と貴族2人では時間がかかるので、ほぼ無理矢理押し付けたような形にはなってしまったが。
カレンにはもう慣れた光景であったが、同乗者は違う反応をしていた。
ヘンリエッタは流れてゆく景色を見て喜び、浮遊するとマスタングの事をベタ褒めしていた。
戦闘はランドールが見せなかったものの、見る物全てが新鮮で楽しいようだ。
ランドールは最初こそ信じられないと言った表情で窓の外を見ていたものの、大型の魔物をあっさりと倒し、オークの巣を見たことの無い速さで壊滅させるイズミとカレンを目の当たりにして、現実逃避をしている様な感じになっていた。
腕時計の短針が3時を過ぎる頃合いで、何度目かの休憩を挟みつつランドールへ確認をした。
「もうひと頑張りすれば、夜には王都に到着しますが…近くにある町で一泊しますか?」
イズミは苦いコーヒーの残りを飲んで、まだ来てはいない眠気を飛ばしながら聞いた。
王都でも町でも、早ければ日没までには警備の為に門を下ろす場合が多い。
それを考慮すると、近くの町で一泊するのが確実ではある。
火急の用事なのだから、侯爵家の特権で門は緊急でも開ける事は可能だろうけれども。
「これ程までに速い事自体、未だに信じられないのだが…今は少しでも速い方が良い」
現実逃避気味に見えたランドールだったが、はっきりと直行を望んだのでもう少し速度を上げて走行する。
助手席を見ると、ヘンリエッタがはしゃぎ疲れたのかカレンの膝の上ですやすやと眠っていた。
「後ろに移動させるか?」
「いえ、私は大丈夫ですよ」
カレンの表情にも声にも無理をしている様には感じは無かったので、再びアクセルを踏んで王都まで走りだした。
王都の門が見えた時には日没は過ぎてしまっていて、門自体は閉じていたが門番は立っていた。
イズミはマスタングのライトを切り替えてから、速度を落としてゆっくりと門の前に停車した。
運転席のシートを動かし、ランドールを車から降ろす。
ランドールの姿を見た門番は敬礼をした後、すぐに門をマスタングが通れる分だけ開いてくれた。
腕時計を確認すると、8時40分を過ぎた所だった。
「マスタング、少し退屈だったか?」
「私はもう少し速く走りたかったです」
マスタングは少々不満そうなので、カレンには悪いが帰りはもっと飛ばすとしよう。
そう考えながら、マスタングは王都の門を潜るのだった。
舗装されていない道であるのと同時に、同乗者の体調も気にしなければならないので、原付1種並の速度にて安全運転に努めていた。
それでも冒険者達の馬車の横を、商人達の馬車の横を、貴族の旗を掲げる馬車列の横を、馬車の倍以上それ以上の速度で駆け抜けている。
坂道になっていようと、アクセルを少し踏み込めば容易に上る。
目の前に川が流れていようと、魔力を使い浮遊して通過する。
大型の魔物が立ち塞がろうと、イズミとカレンの連携プレーで即座に無力化した。
何度か小休止を挟む事も忘れない。
ヘンリエッタとランドールはマスタングに初めて乗ったのだから、目に見えない疲労が蓄積しているだろうとイズミは考えていた。
町を通過する際は徐行だったが、ヘンリエッタが商店街に興味を示し、カレンが何度か買い物へ繰り出す事になった。
数種類の果物とエルフ族の職人が作った、綺麗な手彫りの木製コップを嬉しそうに抱えるヘンリエッタに、ランドールは怒るに怒れないようだった。
支払いは勿論、ランドールの財布からである。
道中でオークの巣を発見したと言う冒険者パーティーと遭遇したものの、マスタングに索敵を頼むと思ったよりも町に近く、数も30体程度は確認出来たのでランドールに断りを入れて討伐した。
オークを巣に到着してから、5分と掛からずに全滅させてしまった。
カレンのクロスボウは強力で、オークの胴体に1発命中したら爆発四散してしまった。
マグナムを撃ち込むよりも無力化するのが早い。
難点は倒したオークの食用に出来る肉の回収量が少なくなる事くらいだろう。
諸々の後処理は勿論、巣を発見した冒険者パーティーに全振りした。
無宿人と冒険者ギルド仮登録者と貴族2人では時間がかかるので、ほぼ無理矢理押し付けたような形にはなってしまったが。
カレンにはもう慣れた光景であったが、同乗者は違う反応をしていた。
ヘンリエッタは流れてゆく景色を見て喜び、浮遊するとマスタングの事をベタ褒めしていた。
戦闘はランドールが見せなかったものの、見る物全てが新鮮で楽しいようだ。
ランドールは最初こそ信じられないと言った表情で窓の外を見ていたものの、大型の魔物をあっさりと倒し、オークの巣を見たことの無い速さで壊滅させるイズミとカレンを目の当たりにして、現実逃避をしている様な感じになっていた。
腕時計の短針が3時を過ぎる頃合いで、何度目かの休憩を挟みつつランドールへ確認をした。
「もうひと頑張りすれば、夜には王都に到着しますが…近くにある町で一泊しますか?」
イズミは苦いコーヒーの残りを飲んで、まだ来てはいない眠気を飛ばしながら聞いた。
王都でも町でも、早ければ日没までには警備の為に門を下ろす場合が多い。
それを考慮すると、近くの町で一泊するのが確実ではある。
火急の用事なのだから、侯爵家の特権で門は緊急でも開ける事は可能だろうけれども。
「これ程までに速い事自体、未だに信じられないのだが…今は少しでも速い方が良い」
現実逃避気味に見えたランドールだったが、はっきりと直行を望んだのでもう少し速度を上げて走行する。
助手席を見ると、ヘンリエッタがはしゃぎ疲れたのかカレンの膝の上ですやすやと眠っていた。
「後ろに移動させるか?」
「いえ、私は大丈夫ですよ」
カレンの表情にも声にも無理をしている様には感じは無かったので、再びアクセルを踏んで王都まで走りだした。
王都の門が見えた時には日没は過ぎてしまっていて、門自体は閉じていたが門番は立っていた。
イズミはマスタングのライトを切り替えてから、速度を落としてゆっくりと門の前に停車した。
運転席のシートを動かし、ランドールを車から降ろす。
ランドールの姿を見た門番は敬礼をした後、すぐに門をマスタングが通れる分だけ開いてくれた。
腕時計を確認すると、8時40分を過ぎた所だった。
「マスタング、少し退屈だったか?」
「私はもう少し速く走りたかったです」
マスタングは少々不満そうなので、カレンには悪いが帰りはもっと飛ばすとしよう。
そう考えながら、マスタングは王都の門を潜るのだった。
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