異世界無宿

ゆきねる

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第七章 貴族と冒険者ギルド

第九十三話 ある冒険者のため息

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マスタングの提案を皆んなが受け入れ、まずはこのダンジョン関係が落ち着くまではイズミも残る事に決まった。

冒険者ギルドが地上にダンジョン前拠点の簡易的ではあるが作り終え、新たな資材を搬入をしている。

イズミは毎朝のルーチンと化した、美味しいコーヒーを淹れる挑戦をしているが、中々に上手くいかない。
基本的に、かなり苦い。

そんな時である。

遂に一攫千金を狙う冒険者パーティーが大量に到着した。

「イズミ!元気してたか?」

その中には『暁と盃』も居た。
そんなに期間が空いた訳では無いが、何故か久しぶりと言う気がした。

「ああ。こうして賑やかになるまで、退屈で死にそうだったよ」

「冒険者も旅人も、1箇所に長期間留まるとどうもな…ソワソワするんだ」

トーマスは根っからの冒険者のようだ。

「剣はどうなった?」

イズミの問いにトーマスが肩を竦めつつ答えた。

「それはもう、かなり怒られたよ。変異種のサイクロプスの光線が直撃しても耐えたんだって説明しても、受け流し方がなってない!とか言うんだ。無茶苦茶だよ」

「あのサイクロプスを目の前にして、それは難しいよな」

「全くだ」

二人して笑いながら談笑していると、他の面々も挨拶にやって来た。
特にセレスはニッコニコ、満面の笑みである。

「イズミさんお久しぶりです、あのジャムのお陰で冒険者生活が劇的に変わりましたわ」

「それは何よりです」

冒険者ギルドの仮拠点へ入って行ったセレスを見たトーマスが、ため息をついてから話を戻した。

「剣についてなのだが、もう少し時間が欲しい。イズミから借りた剣を見たドワーフの職人達が、本気になったみたいでな」

どうもマスタングが製作した剣の出来栄えを見た結果、ドワーフ族の職人魂が燃え盛ったらしい。
確かマスタングが言うには、壊れた剣と同等の代物だったはずだが。

「人間でもこの領域の剣を作れるならば、俺達は更に上の領域に立っていなければならない、でなければ先人達に笑われてしまう!とか言っていたよ」

さらなる高みに至る剣を作ると豪語して、絶賛工房に缶詰め中との事だ。

「その分、かなり金も飛んでくんじゃないか?」

「それはな…」

トーマスが感情の無い声で答えた。

「セレスティアが立て替えてくれたよ…即金で」

セレスは冒険者ギルド本部のある都市に入るや否や、ジャムを作るのに必要な物を大量に調達する為に、貴族や高ランク冒険者ともパイプを持つ信頼出来る商人の知人を尋ねたそうだ。

そこで材料を揃えてジャムを3種類作り、商人の店で売りに出した所、それはもう恐ろしい勢いで売れに売れたのだと言う。

「そこからは大変だったよ」

トーマスは冒険者ギルドや騎士隊の出発と同時に動き出すつもりだったのだが、あまりにもセレスが作るジャムが売れるので出発を遅らせたのそうだ。

セレスは商人と相談した上で比較的良心的な価格設定にしたそうだが、それでもセレスは短期間で大儲けしたと言う訳だ。

商人もセレスと仲が良いのか、数日の売り上げから判断した結果、今後も利益の一部がセレスに入り続ける取り決めをしたそうだ。

「その手付け金すら凄い金額でな、そこから即金で払ってくれたんだ」

遠い目をするトーマスに、イズミは恐る恐る聞いた。

「で、いくら立て替えてもらったんだ」

「金貨200枚。前の4倍だ。値切り交渉前にセレスが払ってくれたよ。完成時に余剰分があればその分は返金してくれるが、それでもな」

イズミはこっちの世界の金貨の価値基準をよくは理解していないが、それでも高い事は分かった。

「だからこそ、俺はこのダンジョンで稼がないといけない訳だ。だからもう暫く剣は借りるぞ」

「それは構わないが…無茶はするなよ」

トーマスが自分を奮い立たせるように、語気を強めて言った。
イズミは乾いた声で、応援してるとだけ伝えた。
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