異世界無宿

ゆきねる

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第七章 貴族と冒険者ギルド

第九十二話 2人の決断

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マスタングの行動はさておき、領主である侯爵家の先代、ランドールは自分に対してアプローチはしないと言う事は分かったので、イズミは今後の旅路を改めて考えた。

こっちの世界のコーヒーを探すのも良いし、まだ海を拝んでいないからそっちでも良い。

そんな旅路を想像していると、ガルシアがやって来た。
御一行の案内をカレンとやってくれていたのだ。

「イズミ殿、少々よろしいか?」

会ってから一番真剣な顔付きで言うものだから、イズミもしっかりと答えた。

「カレンを、どうするおつもりか?」

「どうするって…そうか、聞いたのか」

ガルシアやカレンの両親、そして村長はカレンから全てを聞いたのだと言う。

「非合法の奴隷商人から買ったまでは聞いているか?」

「勿論。隷属の魔法をかけていない事も聞いた」

拳を握りしめるガルシアを見て、イズミは言った。

「俺はカレンに決断を委ねるつもりだ」

「!?」

驚いた表情のガルシアを尻目に、イズミは苦いコーヒーを口に含んだ。

「俺の目的は旅をする事だ。縁があってカレンと出会ったから、カレンを故郷へ帰す旅をすると決めた。俺の目的は達成している」

「それじゃ…」

「旅に出会いと別れは付き物だ。まだカレンに直接は聞いていないが」

帰る場所があるなら帰してやりたいと言う本音を伝えた。

「カレン、ちょっと良いか?」

イズミはカレンを呼んだ。
こう言う話をする時は、ちゃんと当事者がいた方がよい。

「はい。何でしょう?」

「今しがたガルシアと話をしたのだが」

カレンがガルシアを睨みつける。
直ぐに話の内容を察したのだろう。

「結論だけ言おう。俺はカレンの意思と決断を尊重する」

金とか恩とか奴隷云々は抜きにして、カレンが自分自身で決めて欲しい。
そう笑う事無く真面目に伝えた。

「戦争で奪われた日常を取り返したんだ。しかもダンジョン発見の利子付きだ」

こんなチャンスは二度と来ないだろう。
ふいにするのは勿体なさ過ぎる。

「私は…」

カレンは言葉を紡いだ。

「私は、村が立ち直るまでは皆と一緒に居たいです」

でも…と言葉を紡ぎ続ける。

「私を救ってくれたイズミさんにも、恩返しがしたいんです」

カレンの表情に迷いは見えないが、両方とも本心だが声が少し弱々しかった。
恩返しの方法が具体的に浮かばないから、気持ち的にもスッキリしないのだろう。

「既に色々と助けられてるけどな」

戦闘中に何度も助けられているし、恩返しなら済んでいるように思うのは自分だけなのだろうか?

「マスター。よろしいでしょうか?」

マスタングが機械音声で話に入って来た。

「カレン様の恩返しについてなのですが、村の立て直しの際に我々用の簡易拠点を作ってもらうのはどうでしょうか」

「俺は無宿人だから、拠点を作ってもらっても身分が無いから所有が出来ないぞ」

マスタングの提案に疑問を投げるイズミの横で、カレンとガルシアは言わんとする事が分かったようだ。

「イズミさん自身では所有出来なくても、私達で帰って来れる場所を提供する事で、恩返しとするのですね」

「雨風をしのげる簡素な小屋でも、帰る場所がある事が重要です」

ようやく理解したイズミだったが、気になる事もあった。

「拠点を提供するって…土地や拠点の管理には金がかかるし、そこまでカレン達に負担させるのは心苦しいのだが」

「それはマスターが旅路で稼いで下さい。定期的に支払わないと、カレン様が利子を増やして請求してきますよ」

「マジかよ!カレンそりゃないぜ!」

まさかマスタングから全振りされる日が来るとは思っていなかったイズミは、ついついツッコミを入れてしまった。

「そんな酷い事はしませんよ…多分」
カレンが冗談交じりで答えると、イズミは肩をガックシと落とした。

その姿を見た2人が、イズミとマスタングは仲が良いコンビだなと笑っている事に、イズミは気付いていなかった。
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