92 / 236
第七章 貴族と冒険者ギルド
第九十一話 マスタングの贈り物
しおりを挟む
「イズミ様、そちらは何と言うのですか?」
ヘンリエッタがその蒼い目を輝かせながら尋ねるので、イズミはヴァーランデルの顔を1度確認してから答える。
「此方は乗り物のアーティファクトでして、名前はマスタングと言います」
旅人に様付けは不要と説明してもらいつつ、ヘンリエッタはマスタングに近付いた。
「マスタング様、私はヘンリエッタと申します。よろしくお願い致します」
イズミもヴァーランデルもその姿に呆気にとられてしまった。
「私の名はマスタング。ヘンリエッタ様、どうぞよろしくお願い致します」
マスタングが皆に聞こえる機械音声で答えた。
「ねぇイズミ!マスタング様に触っても良いですか?」
ヴァーランデルが軽く窘めようとするも、マスタングが機械音声で了承するので、言えずじまいだった。
マスタングが自動で助手席側のドアを開けると、ヘンリエッタが元気に乗り込んだ。
こんな事もするのかとマスタングを見ていたイズミだったが、ヴァーランデルは困っていた。
怒るに怒れない感じである。
「凄い!大きい椅子!」
初めて見る物への興味が勝ったのか、ヘンリエッタが助手席からヴァーランデルへ手を振っている。
「すまないな、イズミ」
「気にしないでくれ。マスタングも乗り気みたいだ」
イズミはコーヒーをコップに注いで、静かに飲んだ。
「飲みます?かなり苦いですが」
「…頂こう」
ヴァーランデルに飲み方を軽く説明すると、昔戦地で似たような飲み方をした飲み物を飲んだ事があると言う。
それは良い情報だ。
場所は結構遠いとの事だったが、いつかは行ってみたいものだ。
「…どうです?」
「今までに飲んだどの薬よりも苦い」
ヴァーランデルの険しい表情が苦さを物語っていた。
「どうしたヴァーランデル、そんな顔をするなんて」
ランドールがヘンリエッタを迎えに来たのだが、ヴァーランデルの異変に気付き声をかけたのだ。
「ランドール様…イズミ殿より珍しい飲み物を頂きまして」
「コーヒーです。此方では珍しいのですか?」
聞くと珍しいと言うより、人気が無い飲み物で流通が少ないそうだ。
ランドールにも飲み物を説明する。
「うむ…これは苦いな。不味いとは違う。これはあれだ、魔術師が呪い除けで作ったスープに匹敵する苦さだ」
「あのスープは苦いと言う以前に不味かっただろ!」
「そうだったか?苦かった記憶の方が鮮明だ。懐かしいな」
どうもこの2人は古くからの友人のようだ。
そんな談笑をしていると、冒険者ギルドの人間がやって来てランドールと話を始めた。
冒険者ギルドの仮拠点へと向かうランドール達を見つつ、ヴァーランデルが
笑っていた。
「ランドールも一線を退いたと言うのに、まだ元気なものだ」
イズミはマスタングの方を見ると、ヘンリエッタの姿が見える。
ヘンリエッタがマスタングから降りて来て、ヴァーランデルへと駆け寄った。
「ヴァーランデル見て!マスタング様が私にプレゼントだって!」
その言葉に驚いたのは、ヴァーランデルよりもイズミの方だった。
口に含んていたコーヒーを飲んだ瞬間だったので、気管に入ってむせてしまった。
苦し紛れにヘンリエッタを見ると、あのネックレスを付けていた。
病祓いの付与がされた『あの』ルビーのネックレスだった。
「おいマスタング、それは禁じ手じゃないか?」
イズミは思わずマスタングに言ってしまった。
「マスターから渡すのは怪しさが勝るとの事でしたので」
どうもヘンリエッタは助手席に乗ってから、それはもうずっとマスタングの事を凄いと褒めていたそうだ。
そのタイミングでマスタングが贈り物として渡したようだ。
「…で、あのネックレスをプレゼントしたと」
「ヘンリエッタ様に必要かと」
実際イズミ自身は身に付けるつもりは無かったので、まあ問題は無いものの。
「マスタング、今度そう言う事をする時は一声かけてくれないか?心臓に悪い」
「分かりました」
マスタングに背を向けてコーヒーを飲み干すと、ヘンリエッタが近付いて来た。
「イズミ!マスタング様から戴いたの」
満面の笑顔で言われてしまったので、イズミはもう何も言うまいと笑顔を作って答えた。
「お似合いですよ」
「当然です」
マスタングが機械音声で言って来たので、イズミはマスタングがヘンリエッタの事を気に入っているのだと理解した。
ヘンリエッタがその蒼い目を輝かせながら尋ねるので、イズミはヴァーランデルの顔を1度確認してから答える。
「此方は乗り物のアーティファクトでして、名前はマスタングと言います」
旅人に様付けは不要と説明してもらいつつ、ヘンリエッタはマスタングに近付いた。
「マスタング様、私はヘンリエッタと申します。よろしくお願い致します」
イズミもヴァーランデルもその姿に呆気にとられてしまった。
「私の名はマスタング。ヘンリエッタ様、どうぞよろしくお願い致します」
マスタングが皆に聞こえる機械音声で答えた。
「ねぇイズミ!マスタング様に触っても良いですか?」
ヴァーランデルが軽く窘めようとするも、マスタングが機械音声で了承するので、言えずじまいだった。
マスタングが自動で助手席側のドアを開けると、ヘンリエッタが元気に乗り込んだ。
こんな事もするのかとマスタングを見ていたイズミだったが、ヴァーランデルは困っていた。
怒るに怒れない感じである。
「凄い!大きい椅子!」
初めて見る物への興味が勝ったのか、ヘンリエッタが助手席からヴァーランデルへ手を振っている。
「すまないな、イズミ」
「気にしないでくれ。マスタングも乗り気みたいだ」
イズミはコーヒーをコップに注いで、静かに飲んだ。
「飲みます?かなり苦いですが」
「…頂こう」
ヴァーランデルに飲み方を軽く説明すると、昔戦地で似たような飲み方をした飲み物を飲んだ事があると言う。
それは良い情報だ。
場所は結構遠いとの事だったが、いつかは行ってみたいものだ。
「…どうです?」
「今までに飲んだどの薬よりも苦い」
ヴァーランデルの険しい表情が苦さを物語っていた。
「どうしたヴァーランデル、そんな顔をするなんて」
ランドールがヘンリエッタを迎えに来たのだが、ヴァーランデルの異変に気付き声をかけたのだ。
「ランドール様…イズミ殿より珍しい飲み物を頂きまして」
「コーヒーです。此方では珍しいのですか?」
聞くと珍しいと言うより、人気が無い飲み物で流通が少ないそうだ。
ランドールにも飲み物を説明する。
「うむ…これは苦いな。不味いとは違う。これはあれだ、魔術師が呪い除けで作ったスープに匹敵する苦さだ」
「あのスープは苦いと言う以前に不味かっただろ!」
「そうだったか?苦かった記憶の方が鮮明だ。懐かしいな」
どうもこの2人は古くからの友人のようだ。
そんな談笑をしていると、冒険者ギルドの人間がやって来てランドールと話を始めた。
冒険者ギルドの仮拠点へと向かうランドール達を見つつ、ヴァーランデルが
笑っていた。
「ランドールも一線を退いたと言うのに、まだ元気なものだ」
イズミはマスタングの方を見ると、ヘンリエッタの姿が見える。
ヘンリエッタがマスタングから降りて来て、ヴァーランデルへと駆け寄った。
「ヴァーランデル見て!マスタング様が私にプレゼントだって!」
その言葉に驚いたのは、ヴァーランデルよりもイズミの方だった。
口に含んていたコーヒーを飲んだ瞬間だったので、気管に入ってむせてしまった。
苦し紛れにヘンリエッタを見ると、あのネックレスを付けていた。
病祓いの付与がされた『あの』ルビーのネックレスだった。
「おいマスタング、それは禁じ手じゃないか?」
イズミは思わずマスタングに言ってしまった。
「マスターから渡すのは怪しさが勝るとの事でしたので」
どうもヘンリエッタは助手席に乗ってから、それはもうずっとマスタングの事を凄いと褒めていたそうだ。
そのタイミングでマスタングが贈り物として渡したようだ。
「…で、あのネックレスをプレゼントしたと」
「ヘンリエッタ様に必要かと」
実際イズミ自身は身に付けるつもりは無かったので、まあ問題は無いものの。
「マスタング、今度そう言う事をする時は一声かけてくれないか?心臓に悪い」
「分かりました」
マスタングに背を向けてコーヒーを飲み干すと、ヘンリエッタが近付いて来た。
「イズミ!マスタング様から戴いたの」
満面の笑顔で言われてしまったので、イズミはもう何も言うまいと笑顔を作って答えた。
「お似合いですよ」
「当然です」
マスタングが機械音声で言って来たので、イズミはマスタングがヘンリエッタの事を気に入っているのだと理解した。
30
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる