異世界無宿

ゆきねる

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第七章 貴族と冒険者ギルド

第八十八話 侯爵御一行

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翌朝。
顔を洗ったイズミは軽く食事を取ると、マグナムをホルスターから抜くと綺麗な布で汚れを拭きとった。

今日の空模様は快晴そのものだった。
こんな日はまったりと、マスタングで平原を走りたいものだ。

現実逃避から気分を切り替え、朝一でダンジョンの扉と広場を見回りを済まし、以前カレンが作っていたコーヒーに挑戦しようと準備をしていたら魔法通信が入って来た。

「イズミさん、おはようございます」

カレンからだった。

「これからイズミさんの方へ出発します。侯爵様と冒険者ギルドと騎士隊も一緒です」

昨日の報告よりも1団体増えている。

「冒険者ギルドがダンジョンの運営を出来る体制が整うまでは、騎士隊がダンジョン近辺の警備を請け負うとの事ですよ」

「なるほどね…逃げずに待ってるよ」

イズミはそう言って魔法通信を切った。


「マスター、カレン様の魔力を検知しました。到着までおよそ30分です」

「ありがとう」

イズミは左手に着けた腕時計を見た。
9時30分になる所だった。

「まだ時間もあるし、とりあえずコーヒーを完成させるか」

焙煎しすぎたかもしれない豆を、実体化させたミルで削る。
いずれはこっちの世界で作られたミルも欲しいものだ。

豆を削って粉にしてから気付いた。
ドリッパーとフィルターの準備をしていない。
綺麗な布をフィルター代わりにするか、マスタングに頼んで実体化させるか、はたまた別の手段を考えるか。


イズミは昔調べた事のあるコーヒーの歴史を思い出した。
挽いたコーヒー豆と水を鍋に投入して焚火で煮立てる。

本来ならば熱した砂の上に鍋を置いて作っていた記憶があるが、今回は時間も少ないので簡略化してしまった。

昔からある有名な飲み方のはずだ。
名称は忘れた。

飲み方を間違えると粉が口に入り事故になるが、これはこれで味わい深いのだ。

水も粉の分量も目分量ではあるが、自分用なのだから気にしない事にした。
試しに一口分をコッブに注いで飲んでみる。

「…苦い!」

砂糖すら入れていないのだから、分量を間違えれば薄いか濃いかのどちらかになる。
今回は濃すぎたようだ。

「水を足すべきか?」

そう考えていると、遠くから物音が聞こえてきた。
腕時計を確認すると、もう10時になる。

イズミはコーヒーの入った鍋を焚火から離すと、マスタングに頼んで、念の為に索敵をしてもらった。

「異常はありません」

マスタングの回答を聞いたイズミは、トランクに幾つかの武器を実体化させてカレンの到着を待った。
備え有れば憂い無しだ。


「イズミさん、お待たせしました」

カレン達の先導で侯爵家御一行が到着した。
イズミの胃は既にキリキリと痛みそうだ。

「此処がダンジョンの発見場所か?」

イズミが見てもかなり豪華だと分かる馬車から声がした。
カレン達が説明をしたら、後方の馬車から何人も降りてきた。

「では、これより周囲の調査と拠点作成に入ります」

馬車から降りてきた者達が各々行動を開始した。
これで一先ず自分の役割は完了だろうと、イズミは小さく息を吐いた。

「お主がイズミ殿ですかな?」

声のする方へゆっくりと身体を向ける。
そこにはシンプルだが綺麗な衣服を身に纏った、細身で白髪の老人が立っていた。

「えぇ、そうですが」

「先代侯爵のランドール様が、貴方様をお呼びです」

ついに来てしまった。
イズミは可能な限りの営業スマイルを作りつつ、目の前の老人の背中を追った。
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