異世界無宿

ゆきねる

文字の大きさ
上 下
72 / 313
第六章 ダンジョン発見

第七十一話 ゴリ押しのマスタング

しおりを挟む
「それだと援護に間に合わない可能性が高い」

イズミが斥候のソラに言った。
俺達の移動速度はソラと比較しても明らかに遅い。

今から援護に向かっても、到着した時には全滅している可能性の方が高い。

「でも!大切な仲間なんだにゃ!」

ソラがイズミの服を握って声を上げる。
彼女にとっては、仲間を失うか否かの瀬戸際なのだ。

「お願いにゃ…」

その場にへたり込むソラを2人して落ち着かせようにも、何も解決策が出て来ない以上どうしようもない。

「マスター。何か問題がありましたか?」

マスタングからの通信が入って来た。
地下にいても魔法通信は繋がるのかと感心してしまった。

「あぁ、調査隊に問題が発生したようでな。急いで援護に向かうにも距離がある」

イズミはマスタングへ情報共有をする。

「マスターは助けたいのですか?」

「出来る事なら」

「…分かりました」

マスタングから少し間を置いて返って来た言葉に、イズミは首を傾げてしまった。

分かりました。とは?

その直後、階段の方からけたたましい轟音が響いて来た。

広場のせいで反響もあるが、これはガトリングガンの音だ。
最初は遠くから聞こえる感じだったが、どんどん近付いて来る。

階段を見ると石や土埃が舞っている。

「カレン、ソラ!階段から離れろ」

イズミが咄嗟に2人へ指示を出す。
2人はすぐに階段から距離を取った。

ガトリングガンの発砲音、爆発音、金属が擦れる嫌な音が響き渡る。
イズミは耳を塞ぎつつ階段を睨みつけた。

爆風に身体を飛ばされそうになりつつ、なんとか持ち堪えたイズミは土煙が口に入らないように服で覆い目を細める。

音が止むと先程までの爆音轟音が嘘のように静かになった広場から、土煙がゆっくりと消えてゆく。

土煙の奥で見慣れた明かりがイズミを照らす。
そこには擦り傷や凹み傷が無数にあるマスタングが居た。


「マスター。お待たせしました」


何事も無かったかのように話すマスタングに、思わず苦笑いを浮かべるイズミと、それを呆然と見ているカレンとソラ。

「皆大丈夫ですか!?」

ボロボロになった階段からガルシアが現れた。

「突然アーティファクトが動き出したかと思えば、いきなり階段に対って攻撃するもんだから、本当にビックリしたぞ!」

若干興奮気味のガルシアに対して、イズミが簡単ながら説明をする。

「どうも調査隊に問題が発生したみたいでな。これから援護に行く…てな訳でガルシア、門の見張りを頼む」

そう言ってイズミはマスタングの周りを確認する。
傷や凹みはあるが、窓ガラスやタイヤにはダメージがあるようには見えない。

「見張りって…俺は接近戦がメインで、遠距離は弓しか無いのだが」

カーブミラーが左右とも破損しているが、イズミは構うこと無くカレンとソラを手招きする。
ソラを後部座席に座らせると、カレンは助手席に乗り込む。

「マスタング、ガルシアでも使えそうな遠距離武器は出せるか?」

マスタングへ相談すると、ベコベコのトランクが開いた。
見ると剣…片手剣だろう武器が入っていた。
どちらかと言えばククリとかマチェットに近い。

「これならば対応可能です」

イズミが片手剣を手に取り、バリケードに固定していたライトを回収する。

「魔物に向かって剣を振って下さい。ウインドカッターが発動します」

飛ぶ斬撃みたいなものだろうか?
イズミは少しだけ自分も使ってみたい衝動に駆られたが、ライトと一緒にガルシアへ剣を渡した。

「だそうだ。じゃ頼んだ」

イズミはガルシアの肩を軽く叩くと、弾薬の入った布袋を後部座席へ押し込みマスタングへと乗り込んだ。

「頼んだって、もう少し説明してくれても!!」

ガルシアの声は、マスタングのエンジン音で直ぐにかき消された。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。 何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。 生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える そして気がつけば、広大な牧場を経営していた ※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。 7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。 5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます! 8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

処理中です...