異世界無宿

ゆきねる

文字の大きさ
上 下
36 / 313
第四章 旅と戦闘

第三十六話 熱い歓迎

しおりを挟む
目的の村が遠目に見えて来た。
腕時計を確認すると午後2時過ぎ。
俺は一度マスタングを停車して、フレイルに魔法通信で村の概要を聞いた。

「ミサンゴ村ね。賑やかな村だと聞いている」

小さな村で特産品は絨毯とそれに使われる紐だそうだ。

「村の広場とかに絨毯が干されたりしてない?」

俺はマスタングで実体化させた双眼鏡で確認をする。
…見当たらない。

「見当たらないな。天気が悪い訳でも無いが」

時期的な問題だろうか。
そんな日が設けられていても良いだろう。
誰にだって休みたい日はあるだろうしな。

フレイルとの魔法通信を切ってから、双眼鏡をグローブボックスに仕舞った。

「カレン、これから村に入る。使わないと思うがクロスボウの準備はしておいてくれ」

急な戦闘になった際に、弾込めから始めると大変だからな。


村に入って広場へ向かってみたが、フレイルの説明にあった賑やかさは無かった。
マスタングから降りて周囲を見渡すと、建物の窓から俺達を見ているのは分かった。

窓が少しだけ開いた建物を見て微笑んでみせたが、窓はすぐに閉まった。

カレンにはマスタングで待機してもらい、扉が開いている建物へと進み一応ノックをしてから入った。

窓際にいたガラの悪い奴等と目を合わせないようにしつつ、奥にいた老人に声をかけた。

「すまない。宿屋はあるか?一泊したいのだが」

後ろから返事が来た。

「残念だが宿屋は満席だ」

足音が近付いて来るのが分かった。
俺は腕を組むようにしつつ左手でナイフを軽く握った。
用心するに越したことはない。

「ご丁寧にどうも」

振り向かずに老人に話を続けた。

「買い物は出来るか?」

背後からの足音が止まると同時に、右肩を軽く叩かれた。
感覚からして、左手で叩いている。

「生憎、余所者に売れる物は無いな」

俺はゆっくりと振り向き、男の顔を見た。
どう見ても職人の顔ではなかった。

「ここは絨毯が特産品と聞いていたのだが…俺の勘違いか?」

目の前の男は薄汚い笑みを浮かべ、窓際にいる仲間に声を投げかけた。

「そんな物あったか?」

知らないと言う返事が来た。
老人は俯いたまま、一言も話してはくれない。

「そうか。ならば立ち去るとしよう」

俺は男の横を通り過ぎようとしたが、扉の前に男が道を塞ぐようにして立っていた。

「良い馬車に乗ってるな」

窓からマスタングを見ていた男が言う。

「下手に近付くとヤケドするぜ」

俺は素直に忠告した。
火炎放射器も搭載してるからな。

「悪い事は言わねぇ、黙って俺達に寄越しな。痛い目に合いたく無いだろ?」

窓際にいる男が腰に下げた剣をチラつかせて、脅し文句を投げつけてきた。
肩を叩いた男も背後にやって来たのが分かる。
俺は脳内で状況を整理した。

背後に1人、扉前に1人、窓際に2人。
4人か…

「馬車もアンタの連れも、俺達との方が楽しいだろうよ」

マスタングを見ている男の言葉を聞いて、俺はこの連中を賊と判断する事にした。
武器を持っていないように見える俺を、絶好のカモだと判断したのだろう。
そんな奴等がこの村に居る理由は知らないが、俺の取るべき行動は決まっている。

背後にいる男が俺の肩を掴んできた瞬間、俺は勢いよく振り向いてナイフで男の腹部を2度刺した。
防御魔法は至近距離の攻撃を防げないのか、ナイフはしっかりと刺さり、男の手が空を掴んだ。

腹部を抑える男を押し倒し、体勢を整えてからリボルバーを取り出した。

扉を塞ぐように立っていた男が腰に下げた剣を抜いていたので、近付かれる前に胸へ一発お見舞いした。

その動作の続きで窓際にいた2人にも一発づつ撃ち込んだ。
聞き慣れない銃声にびくついて身を縮めていたので、狙うのは簡単だった。

俺は周囲を一度見渡して、他に賊がいないかを確認した。
誰もいないみたいだ。

扉を塞いでいた男に近付いて剣を蹴飛ばし生きているか調べたが、しっかりと胸に命中していたらしく絶命していた。

窓際の2人も確認したが、息絶えていた。
リボルバーの威力は素晴らしい。
護身用と呼ぶには不適切過ぎる威力だ。

腹部を刺された男がうめき声をあげている。
何かを言いたげだったので、頭を撃って黙らせた。

仲間に魔法通信を繋いでいたら、今より更に厄介な事になるからだ。

「まったく、大層な歓迎だな」

ナイフに付いた血を死んだ男の衣服で拭い、ホルスターに仕舞った。

「じいさん、怪我はしてないよな?」

俺はリボルバーの弾込めをしながら確認した。
老人は俺の顔を見てから、小さく頷いた。

「お前さん、冒険者ギルドの人かい?」

震える声で聞かれた。
こう言った荒事も冒険者ギルドの仕事なのだろうか。
登録を拒否されているので、知ったことでは無いな。

「いや、ただの旅人かな」

俺はそう答えてから、老人にこの村の状況を聞いた。

老人は絨毯職人だったのだが、数日前に賊が村を襲って来たらしい。
女子供は別の場所へ連れて行かれ、建物は賊が占拠しているそうだ。

俺はカレンとマスタングに連絡をして、警戒態勢を取ってもらった。

「マスタング、何かあれば相手を蜂の巣にしても焼き尽くしても良いからな」

俺はフレイルにこの状況を伝える為、魔法通信を繋いだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

なんか黄金とかいう馬鹿みたいなスキルを得たのでダラダラ欲望のままに金稼いで人生を楽しもうと思う

ちょす氏
ファンタジー
 今の時代においてもっとも平凡な大学生の一人の俺。 卒業を間近に控え、周りの学生たちは冒険者としてのキャリアを選ぶ中、俺の夢はただひとつ、「悠々自適な生活」を送ること。 金も欲しいし、時間も欲しい。 程々に働いて程々に寝る……そんな生活だ。 しかし、それも容易ではなかった。100年前の事件によって。 そのせいで現代の世界は冒険者が主役の時代となっていた。 ある日、半ば興味本位で冒険者登録をしてみた俺は、予想外のスキル「黄金」を手に入れる。 「はぁ?」 俺が望んだのは平和な日常を送るためだが!? 悠々自適な生活とは程遠い、忙しない日々を送ることになる。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...