異世界無宿

ゆきねる

文字の大きさ
上 下
33 / 227
第三章 無宿人の宿命

第三十三話 旅の再開

しおりを挟む
原初魔族のルノさんが飛び去ってから約1時間、なんとも言えない脱力感が俺の身体を包んでいた。
カレンが夕御飯を作ってくれていたらしく、鍋の煮立つ音が耳に心地良い。

俺はミグルン町にいるフレイルに魔法通信を繫いだ。
町での一件がどうなっているのかを聞く為だ。

「魔獣化の原因は、帝国が作った薬の可能性が濃厚と報告が出ている」

帝国が兵士達の戦意高揚の為に生み出したと言う薬があるらしく、それを過去に接種していた結果オーガは魔獣化して暴走に至った。

これがオーガ騒ぎの報告だった。
俺に攻撃を仕掛けて来た連中については、ギルドをクビになった奴等が俺を捕まえて手柄にしようと目論んでの犯行として処理されたそうだ。

「分かった。色々とありがとう」

俺は魔法通信を切ってからカレンのいる焚火まで向かう。

「カレン。明日、森を出発でもするか?」

そろそろ大丈夫だろうと判断し、カレンの故郷へ行こうと思ったのだ。

カレンと一緒にマスタングに乗り込み、カレンの故郷を探してもらう。
この洞窟からだと、馬車での移動換算で約1ヶ月半程かかるらしい。

道中の町や村で補給をしつつの旅路になる。
そこで、ふと金を稼ぐ方法を持っていない事を思い出した。

手持ちの金は、襲撃して奪ったものだからな…
俺達は賊では無いのだから、しっかりとクリーンに金を稼ぐ必要がある。

そろそろ心許無いしな…
マスタングの能力は隠しておきたいし、冒険者ギルドのような仕事をするのは波風が立ちそうだ。

賞金稼ぎとか用心棒とか、そんな稼ぎ方しか思い浮かばなかった。
行き当たりばったりで旅をするのが性に合っているのかもしれない。

そう自分に言い聞かせて、カレンに話を投げた。

「商人や貴族の護衛とかであれば、冒険者ギルドでなくても仕事の依頼はありますよ?」

…最初からカレンに相談すれば良かった。


翌朝、俺はカレンが起きる前にマスタングを洞窟から出してやり、焚火を準備した。
昨日の鍋を温めつつ、マスタングの新機能を確認しておく。

「マスタング、特殊な機能の調子を見ておきたい」

そう言うとマスタングは返事をしてくれた。

「マスター、モニターをご確認下さい」

言われた通りに車内に乗り込みモニターを確認すると、コンソールボックス内にトグルスイッチが追加されたと表示されていた。

開いてみるとスイッチが2個付いている。
右側のスイッチ下には「Gun」、左側には「Fire」と書いてある。

スイッチが奥に倒れていると安全状態で、中央だと待機状態になり、手前に倒すと攻撃状態になるようだ。

俺は試しにスイッチを中央に切り替えて車外に出て様子を見た。

内側の丸目ヘッドライトがあった所からガトリングガンが飛び出していた。
勿論、その原理は分からん。
トランク側を見ると、メーカーロゴのあった場所から火炎放射器のノズルが出ていた。

質量保存の法則は適応外なのだろうか?

「自動操縦の際の攻撃は可能なのか?」

マスタングからの回答は『可能』だった。
心強い相棒だ。

カレンが起きてきたので武器スイッチを安全状態に戻し、一緒に朝食を取って出発の準備を始める。
焚火をしていた場所をしっかりと現状回復して、使えそうな炭はカレンが布袋に仕舞った。

「じゃ、出発しますか」

マスタングのナビにはカレンの故郷までの間にある、食料等を補給出来る町から小さな集落までピンが刺さっていた。
その中から、今回は1番近い場所を目的地に設定した。

「目的地をロウガ村に設定しました」

ロウガ村はこじんまりとした農村らしい。
取り敢えずは昼過ぎに到着出来るように、移動速度を計算しつつまったり走る事にした。

そんなに急ぐ必要もない旅だからな。


腕時計を確認すると、午後の1時間半を過ぎた所だった。

ロウガ村は寂れた農村と言っても良いだろう村だった。
掘っ立て小屋と牛と馬の小屋、残りは畑と言った具合だ。

村の入口付近に駐車して、近くを軽く散策する。
小さな村でも宿屋を兼業で営んでいたりすると、カレンから聞いていたからだ。

カレンが宿屋と書いてある小屋を見つけてくれたので、早速扉を叩いてみた。
遠くから声が聞こえ、次第に足音が近付いて来た。

「おやおや、宿泊かい?」

一泊と水や食料を頼んだ所すんなりと話が通ったので、冒険者や商人も同じようなスタイルで旅をしているのだろう。

俺は銀貨を3枚渡してから、マスタングを宿屋の隣に持って来た。
案内された部屋は簡素な作りであったが、ベッドや武器掛けが置いてあった。

近くにあると説明された井戸に水を汲みに向かう途中で、聞き慣れない動物の声を耳にした。

「カレン。今の声は動物か?」

カレンは声のした方角を見つめている。

「これは…凶暴化した魔獣ですね」

魔獣にも大きく分けて二種類存在しているそうだ。
意思疎通が可能か否か、らしい。
通常の魔獣であれば意思疎通が出来て、農作物を荒らさないで欲しいとか此処の作物は食べても良いとか、共生が出来るそうだ。

意思疎通が出来ない魔獣は魔力が暴走して制御が効かない為、魔族でもエルフ族でも平和的な対処が出来ないのだと言う。

俺はマスタングからレバーアクション式のライフルを取り出して、声のした方へと歩いて行く。
そこでは村人達が魔獣を追い払おうと奮闘していた。

村人達に声をかけた。
すると、村の偉い人だろう方が手を振ってくれた。

「魔獣が出たのか」

俺はライフルを肩にかけて話しかける。

「そうだ。最近は大事な農作物を狙ってきて困っておるのだ」

凶暴化した魔獣は人間も亜人もエルフも関係なく襲うらしく、どの町でも村であっても悩みの種になっているそうだ。

俺は一度カレンの方を見る。
カレンは凶暴化した魔獣を見つめ、静かに首を振った。
意思疎通は叶わなかったのだ。

目の前の男に確認を取る。

「凶暴化した魔獣は、あの一匹だけか?」

男は頷いた。
確認出来ている魔獣は、今いる一匹だけのようだ。

「魔獣の駆除はギルドに頼んでいるのだが、一匹や二匹程度では大した稼ぎにならなくてな」

聞くと魔獣駆除の仕事は何処にでもあるようだが、ギルドのある町から移動して狩るとなると、割に合わないのだと言う。

相場は一匹当たりで、おおよそ銀貨2枚。
大型の魔獣であれば、もっと報酬は上がるそうだ。

凶暴化した魔獣の狩人…これは旅の肩書になるような気がした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

最強スキルで無双したからって、美女達によってこられても迷惑なだけなのだが……。冥府王は普通目指して今日も無双する

覧都
ファンタジー
男は四人の魔王を倒し力の回復と傷ついた体を治す為に魔法で眠りについた。 三十四年の後、完全回復をした男は、配下の大魔女マリーに眠りの世界から魔法により連れ戻される。 三十四年間ずっと見ていたの夢の中では、ノコと言う名前で貧相で虚弱体質のさえない日本人として生活していた。 目覚めた男はマリーに、このさえない男ノコに姿を変えてもらう。 それはノコに自分の世界で、人生を満喫してもらおうと思ったからだ。 この世界でノコは世界最強のスキルを持っていた。 同時に四人の魔王を倒せるほどのスキル<冥府の王> このスキルはゾンビやゴーストを自由に使役するスキルであり、世界中をゾンビだらけに出来るスキルだ。 だがノコの目標はゾンビだらけにすることでは無い。 彼女いない歴イコール年齢のノコに普通の彼女を作ることであった。 だがノコに近づいて来るのは、大賢者やお姫様、ドラゴンなどの普通じゃない美女ばかりでした。 果たして普通の彼女など出来るのでしょうか。 普通で平凡な幸せな生活をしたいと思うノコに、そんな平凡な日々がやって来ないという物語です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...