異世界無宿

ゆきねる

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第二章 旅の始まり

第二十一話 夜明けの戦闘

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仮眠から覚めてしまったので腕時計を確認する。
11時5分…

今の所は連絡も無ければ、爆発音のようなものもない。
俺は簡易なベッドを抜け出し、不用心ではあるが水を汲みに井戸へ向かった。

小屋に戻るとカレンが起きていた。
少し離れた所で寝ていたのだが、物音で目が覚めたらしい。

「起こしちまったか」

俺はカレンにも水を渡し、椅子に腰掛けてから口に含んだ。
寝起きでも仮眠でも、起きたら喉が渇いているものだ。

「いえ、少々寝付けなくて」

俺もカレンも戦闘に慣れている訳では無いから、不安があるのだろう。

「…怖いんです」

カレンは人間や亜人に対して、攻撃魔法を使った事が無いそうだ。
その手の争い事が無かった平和な村だったのだろう。

「イズミさんは…怖くないのですか?」

カレンの言いたい事が少しだけ分かる気がした。
賊とは言えども相手は人間や亜人であって、魔物や怪物の類いでは無い。
対話が可能ではあるからだ。

それに、戦闘になれば負傷する事もあるし、最悪は死ぬまである。
怖くないと言うのは無理だ。

「怖いさ。だが…己の欲望の為に誰かの命が奪われるなんて、そんな馬鹿な話も無いだろう?」

「それに、他人の金や命を力で奪うような連中だ。躊躇う必要は無い」

相手はそんな躊躇いを持ってはいないだろうしな。
そう付け加えて水を飲み干した。

「とにかく、今は襲撃に備えて仮眠でも取っておこう」

そう言って、ベッドに戻り目を瞑った。

「…隣に行っても良いですか?迷惑でしたら、その…」

「いや、大丈夫だ」

そう答えるとカレンは、ありがとうございます。と言って俺に寄り添うようにして眠りについた。
その時、甘いような落ち着く匂いがした。
異世界に来てから、初めてかもしれない感覚。
…俺は、今まで生きてきた中でも最大級に心臓が高鳴っていた。
こんな展開は映画や小説の中だけだと思っていた。

だが、ここで手を出すのは良い選択では無い。
尊敬するアクションスターの1人は、良い雰囲気であるにも関わらずヒロインをベッドで寝かせ、本人は床で寝ていた。

ロマンスな展開は良くないフラグが立ちそうだったので、俺は努めて冷静を装い睡魔が来るのを待った。

…中々に寝付けなかった。


結果から言うと夜襲は来なかった。
太陽の光が見え始めた夜明けと共に、ルミアからの連絡が飛んできたのだ。

俺はショットガンを手に取った後でカレンを起こす。
小屋から出るとルミアの指示で賊の到着ポイントへ向かう。

…ルミアの目は良いのだろう。
俺達が指示された地点に来た時点では、賊はまだ到着していなかったのだ。

カレンに攻撃魔法での迎撃を頼み、賊が近付いて来るのを待つ。

櫓からルミアがライフルを使って、賊の魔術師や弓矢使いを撃ってくれている。

賊の叫び声や馬車の走る音が、はっきりと聞こえる距離にまで来た。
まだ何を言っているかは分からないが。

カレンが後方から火球を馬車に向けて放つ。
数台の馬車が火だるまになって動きを止めた。

それを見た俺はカレンに後方へ移動してもらい、ショットガンを構えた。

魔法攻撃への対策なのか、間隔を空けて村に侵入して来た賊だがカレンに気を取られていて、俺の存在にはまだ気付けていないようだ。

このタイミングで村への入口を1度確認した。
後続の賊は見当たらない。
このチャンスを見逃す理由は無い。

近くにいた奴から順にショットガンで撃っていく。

しっかりと構えて、1発ずつ確実に当てて戦力を削ぐ。
殺すよりも負傷させた方が、相手の戦意を奪うには効果的との話を聞いた事があったからだ。
無論、映画知識だが。

6人ほどに銃撃をした後、腰のポーチから予備の弾を取り出してショットガンに装填する。

その間に村の入口方面に目をやって、他の賊達が来ていない事を確認した。
こちら側はひとまず大丈夫そうだ。

賊を確認したが、全員息絶えていた。
至近距離で散弾を喰らったのだから、生きていれば幸運だろう。

いや、死んだ方が幸運か…

「ルミア、イズミだ。こっちの奴等は片付けた」

次の移動ポイントを確認する。
アルセン達も戦闘に入ったそうだが、別の場所からも賊が近付いているらしい。

「分かった。急いで向かう」

俺はカレンに合図を送り、マスタングの前で合流した。
素早く乗り込み、目的地へ向かう。
こちらには馬車よりも速く、強力な相棒がいるからな。

ルミアとの話を聞いていたのか、マスタングが目的地へのナビゲートをしてくれた。

到着した時には、賊が丁度村に入り込んだ所だった。
構わずにアクセルを踏んだ。

3人くらいは車で轢いてしまったが、もう気にしてはいられない。
賊の馬車付近にマスタングを寄せて、カレンに攻撃をしてもらう。

カレンの放った火球は、一撃で馬車を燃やし尽くした。

残党についてはマスタングを降りて、1人ひとり確実にショットガンで挨拶をしておいた。

「ルミア、アルセン達の状況はどうだ?」

ルミアは櫓から確認をしてくれている。

「アルセン達が戦っている賊達で最後にゃ」

撤退する賊がいるのかを聞いた所、若干名は逃げ始めたらしいので、マスタングでご機嫌伺いがてら追撃を決めた。

カレンの魔法で相手の動きを止め、マスタングで追い詰めて、ショットガンで仕留める。

俺達の攻撃パターンが完成したのかもしれない。


完成に太陽が姿を現した頃には、戦闘は終わっていた。

俺はショットガンの薬莢を出来る限り拾い集め、マスタングのグローブボックスに放り込んだ。
その後アルセン達と合流する。

アルセン達にも負傷者は出たようだが、幸いにも死者は出ていなかった。

俺はカレンに回復魔法でのサポートを頼み、アルセンとルミアに戦果を報告した。
アルセンは疲労困憊と言ったところだろうか。

詳しい話は、身体を落ち着けてからする事になった。
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