異世界無宿

ゆきねる

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第二章 旅の始まり

第十八話 カレーと魔術師と転移魔法

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「…なんだか、物凄く良い香りがしてるけど?」

アーリアはカレーの香りに導かれるように、カレンの食べているカレーを凝視している。

「丁度夕食を取っていたところだ…カレーの香りには食欲を刺激する魅力があるからな」

俺は上機嫌で答えた。
好きな料理に対して良いリアクションされるのは、結構嬉しいものだな。

「カレー…!!」

アーリアの動きが止まり、頭だけがゆっくりを俺の方を向いて来た。
気のせいか、目に殺気に近いようなギラつきがあるような…

「イズミさん…この方から、尋常ではない魔力が溢れています」

カレンが食べかけのカレー皿を地面に起きつつ、俺に教えてくれた。
どうやら気の所為では無かったようだ。

「イーズーミー」

アーリアから赤黒い炎がメラメラを燃え上がっているように見える。
魔力が可視化されたら、このような感じなのか?

「私にもカレーを頂戴!お願い!!」

有無を言わさぬ圧倒的な迫力。
これはアーリアの分も用意しないと駄目そうだ。
断ったら多分…八つ裂きにされる。

「分かった!…肉は入っていても大丈夫か?」

カレンにも確認した事を念の為アーリアにも聞いた。

「大丈夫よ」

俺はマスタングの側にいって、実体化をさせる。
美味しい牛肉が入っているカレーをイメージしたが、出て来たレトルトカレーはどうなのだろうか?


「カレーはね…500年以上昔に生きていた転移魔法の天才が遺した数少ない書物に出て来た料理なの!」

鍋でレトルトカレーを温めている最中、アーリアが目を輝かせて熱弁を振るう。

「転移魔法の礎を築いた天才魔術師で、規格外の魔力を持っていたの」

アーリアがレトルトカレーのパックを見つめつつ話を続けた。

「彼は生前、自らが考案した時空転移魔法の実験をしたのだけど、手違いが間違いかで異世界に繋がったと書いていてね…」

「そこでは鋼鉄の馬車が列を成して走り、天にも届くような塔が無数にそびえ立ち、人々は耳飾りのような物を介して遠くの者と会話をしていた。と記しているの」

車に高層ビル?に電話だろうな…
500年も昔に生きていた魔術師が、俺がいた世界の現代的な所に来ていたと考えると凄い話だ。

「その書物の終わりにね…カレーなる料理を食べた感想と後悔が書かれているのよ!!」

…俺のいた世界に近しい場所に間違って転移して、現地の親切な人間にでもカレー屋とかに連れてかれたのだろうか?
チェーン店や専門店に入ってカレーを食べる魔術師と想像すると、少しだけ顔がニヤけてしまった…気がする。

『今まで感じた事の無い程、猛烈に食欲を刺激する香り、複雑に絡み合う香辛料なるものと単体でも甘く美味な野菜達。これを同時に食した時の感動は、私が初めて魔法を体得した際に感じた感動に並ぶものであった』

アーリアの話を聞きつつ、俺は皿の準備を進める。
その魔術師はカレーの虜になってしまったのだろう。
元の世界に帰る直前まで、カレーを堪能したらしい。

『当時の私は未熟者だったのだ。詰めが甘かったのだ。何故私はあの世界に転移する前に、再転移を可能にする魔法及び魔法具の開発をしていなかったのだろうか。悔やんでも悔やみきれない。』


「こんな事が書いてあったら、どんな料理か気になるじゃない!」

アーリアは目を輝かせている。

「再現しようとしたけれど香辛料が見つけきれなかった。だから誰もカレーを食べた事が無いし、再現しようとする人もいなかったの」

アーリアは魔法で出した書物のデータの事を見つつ、レトルトカレーが出来上がるのを待っていた。

俺は腕時計を確認して、レトルトカレーとライスを取り出して盛り付けた。

牛すじカレーだった。

アーリアは食べる前に素早くカレーを解析魔法にかけると、ゆっくりと一口食べる。

「これが…転移魔法の祖が愛した料理なのね」

一口、また一口と噛みしめるように食べていた。
俺とカレンは、そんなアーリアの姿を見て苦笑いするしかかなった。

「アーリア、その時空転移魔法で異世界に繋がったってのは、再現出来るのか?」

気になる話だ。
もしかしたら、俺が元いた世界に帰れる手段に…

「不可能ね。何故異世界に繋がったのかも分からないし、今では時空間転移の使用は禁じられているの」

時空間転移は転移先の時間と場所が完全にランダムで、どんな状態なのか一切不明らしい。
つまり転移先が噴火中の火山地帯だったり、氷河期真っ只中の地上だったり、最悪の場合だと…地中や海底の可能性も有り得る。

そう想像すると、背筋がゾッとした。

「それに…今の魔術師達で再現しようとしたら、莫大な量の魔力を消費するのよ。」

アーリアの話していた魔術師の規格外の魔力、それが必要不可欠だったらしい。

「この世界にいる魔術師全員の全魔力を使っても、小猫一匹サイズの扉すら出て来ないって結論が出ているわ」

…それは、確かに不可能だな。


俺の淡い期待は、あっさりと潰えたのだった。
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