異世界無宿

ゆきねる

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第一章 異世界転移

第七話 愛車の能力

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俺は特に拘束されること無く、車に戻る事になった。
まだ客人と言う立場になっていない以上、微妙な状況だからであるが。

やってはみましょう…そうは言ったものの、切羽詰まったあの時を思い返しても、必死だったとしか出て来ない。

どうしたら良いんだ?
そんな言葉が無意識に口から出ていた。

すると、車内から機械音声が聞こえてきた。

「音声・データ認証しました。マスター、ご要件をどうぞ」

俺は車にもたれかかり、質問をしてみる。

「新たに武器を取り出したい。どうしたら良いんだ?」

すると自動で窓が開き、説明音声が流れてくる。

「武器の召喚はマスターの想いが大切です」

「必要な武器への想いを原動力とし、マスターの魔力を消費する事により具現化を可能なものとし、車内にて実体化します」

これで一通りの説明が終わったらしい。

「実体化する場所に決まりはあるのか?」

「はい、具体的にはグローブボックス内かトランク内となります」

車からの回答を簡単に整理すると。


武器をイメージする

車?が武器への想いを受け取る

俺の魔力を使ってみて武器を作る

武器が出てくる

こんな感じか?

そう説明されたのだ。
後は実践するのみ…

武器をイメージする。
それは武器単体なのだろうか?
疑問は尽きない。
武器だけをイメージするのでは、何も動きがない。

武器への想い…これが大切なのだろう。
武器を想う。
脳裏に浮かんで来たのは、往年の名優の姿だった。

…警察に追われている男がガンショップでショットガンを入手し、物陰で弾を込めながら警察官の注意がそれているタイミングで近付き、警察官の武装解除とパトカーを破壊して逃走する…

古い映画だが、最高に格好良いシーンを思い浮かべていた。

すると機械音声が流れてきた。

「武器情報確認しました、実体化を開始します」

その瞬間、軽い貧血のような目眩が俺を襲った。

数秒程で落ち着いたが、これが魔力の消耗なのだろうか?

「実体化が完了しました。」

そんなアナウンスが流れた。
どうやらトランクにて実体化したらしい。
俺は車から降りてトランクを確認する。

そこには、ポンプアクション式のショットガンと数発の弾薬があった。
イメージした銃とは少し違うが、ちゃんと実体化した。

そして何故か懐中時計が入っていた。
日付や曜日はないが、オープンハートから内部の機械が見える懐中時計だった。

銃以外も実体化が可能な事に驚きを隠せなかったが、これは後々使えるだろう。
懐中時計はそっとポケットにねじ込み、実体化したショットガンを手に取る。

鉄の冷たさと木の温もりが複雑に同居する、美しい銃だった。

アクション映画で見ていた動作を試しにやってみる。

正常に装填、排莢が出来た。


これの意味は大きい。
武器への想いが重要であって、微細な機構や部品の形などが曖昧な点があっても、実体化自体は出来るのだ。
俺は銃器の専門家ではないし、内部構造なんて知らないに等しいのだから。


そうこうしていると、武器実体化の報告もしていないのに長老達がやって来た。

なにやら、知らぬ類いの魔力反応を感じた…らしい。

俺はショットガンの弾を抜き取り長老に渡す。
すると長老は笑顔で受け取ると、隣にいたエルフに指示を出す。

渡されたのは、最初に実体化したショットガンだった。

軽くお礼を言って、助手席側のドアを開けて銃を仕舞う。

ふと後部座席に目をやると、マルスが眠っていた。
お気楽な奴め…

マルスを揺らして起こし、車から出るように促す。
案外素直に出て、何処かに飛んでいった。

少し離れた所で、長老達が実体化したショットガンの試射をしている。

シンプルな機構だから、軽いレクチャーでもう撃てるのだから、大きな利点のある武器なのだろうな。

…そこで背筋に冷たい感覚が来た。
おいそれと武器を実体化し渡してしまったが、下手に続けると色々とマズいのでは?と。

いつの時代であっても、新しい武器や兵器は開発からお披露目のギリギリまで秘密にされるはず。

言い訳やら逃げ道の確保が必要かもしれない…
危機管理能力、と言う名の悪い予感がそう囁いている。

長老には武器の話は内密にしてもらうのが良さそうだ。

そんな事を考えていると、長老が満面の笑みで近付いて来た。

「これはお前さんの持つ武器の改良型か何かなのかな?」

ニコニコなのが恐ろしい。
数を揃えて欲しいなんて頼まれたら、それこそ『悪い予感』が現実味を帯びてしまう。

「そんな所です。大型になったので重量はかさみますが、汎用性は良くなり装弾数も増えています」

当たり障りない受け答えをする。

「そうかそうか、素晴らしい武器をありがとう!ささ、こちらに来たまえ」

そうして長老の家の方へ案内された。
取り敢えず、客人になったと言うことなのだろうか?

不安は拭えないが、長老の家へお邪魔する事にした。
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