船よ安らかに沈め

ゆきねる

文字の大きさ
6 / 6
本編

6

しおりを挟む
翌朝、朝のルーティンを済ませ朝市の眩しさから避けるように、夜の匂いが残る店へと足を運ぶ。
カウンター席に座ると、テーブル席に座る小綺麗な男達の疲れた話し声が聞こえる。

「夜明け前に隊長に起こされてよ…現場に行ったら酷い死体が4つと、顔面はグチャグチャ下半身は再起不能なまでに焼け爛れた大男だ」

「ソイツだけは生きててな…本当に酷い状態だったよ」

「頭も下顎も砕けて話が出来る状態じゃ無いが、仲間割れじゃないかって隊長が言ってたな」

「奴等の荷物が焼けているし酒が散らばった形跡と砕けた酒瓶があると来たら、宴やって分前の話で大揉めしたって考えるのが普通じゃないかって」

そんな話を小耳に挟みつつ、店主が持ってきたサンドを食べ始める。
食べ終えたらヴィレーの港町へ向かう馬車を確保しなければならない。
マキは食べているサンドが美味しく感じ、自分が素面になりかけているのを感じつつ、無言でサンドを胃に詰め込む。


朝食の支払い済ませ店を出ると、商人ギルドの建物へと向かう。
ギルドが運営する馬車であれば、ヴィレーに向かう便もあるからである。

マキは馬車置場に立っている管理人にヴィレー行きの馬車を確認する。

「ヴィレーにかい?それなら、明日の昼前に出発するね。到着は出発から3日後の昼前さ…乗るなら銀貨5枚だ、荷物は1人で持ち運べる大きさの荷物が1つまで、食料は各自での準備だぞ?」

「分かった、銀貨は先に渡しておこう」

「払いが良い男は信用出来る!時間に遅れるなよ?時間も守れる男はもっと信用出来る!」

マキは笑顔の管理人へ銀貨を渡すと、家へと歩き出す。
家に戻り一服を楽しみながら寛いでいると、家のドアを控えめに叩く音がする。

「マキ?冒険者ギルドのロレンツだ。アンタ宛の手紙の届けに来た」

村の小さな冒険者ギルドの人間が、一般人相手に手紙の配達をする道理は無い。
煙草の火を消してゆっくりとドアを開けると、まだ顔に幼さが残る優男の困り顔が見える。

「それはどうも…もし時間に余裕があるなら、手紙を読んでくれないか?恐らくだが、達筆過ぎて私には読めない」

手紙を受け取り差出人の名前を確認するも…達筆過ぎで誰だか分からない…読めないと判断し、封を切ってロレンツに手渡す。

「分かりました。差出人はセントアーリア教会のフレアリー様です。内容ですが…」

幼さを残す男の顔が曇る。

「貴方も私も務めを果たさなければならない…どう言う意味なんです?」

聞き終えたマキは机に座ると、小箱から銀貨を数枚取り出しロレンツへ渡す。

「自堕落な生活は止めて、少しは真面目になれって事かな…」

無精髭を撫でつつ駄賃と口止めがてらの銀貨を取り出しロレンツへ手渡すと、手紙を机に置いて帰ってゆく。
ドアに鍵をかけたマキは机を動かし、黒電話が仕舞われている引き出しの1段上の引き出しに手を掛ける。

中は空である。
マキは1度引き出しを閉め、大きく深呼吸をする。

「務めか…分かったよ」

そう呟いて引き出しを改めて開けると、拳銃と予備弾倉が数本とポーチ類が入っていた。
拳銃の隣には引き通しの布製ベルトが付いている腕時計がある。
日付も曜日の表示もない、アラビア数字表記の小振りな腕時計である。
振っても振動が無いのか、竜頭を手巻していると20回程で巻き終える。

机の上に置いてから拳銃を手に取り、弾倉を抜き予備の弾倉と共に机に並べる。
シングルカラムの8連マガジンであり、底部にはマグバンパーが装着されている。
実弾は装填済みである。

銃本体に初弾が装填されていない事を確認してから、改めて拳銃の細部を見る。

レイルの無いマズル周り、鋭い木製チェッカリングがあるグリップ。
マグウェルは付いていない。
大型の前後サイトには小振りなホワイトドット。
スライドストップはロングタイプで、セイフティレバーはアンビ仕様では無い。
スライドはスムースに動作し、トリガーを引いて重さの調整具合を確認すると、大きなため息をつき静かに机の上へ置く。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...