雨はやはり憂鬱で死ぬ

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赤髪

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 やっとこさ川のわかれ道までやってきた。
 ここまで二日くらいで来れたかな。
 あとは今のぼつてきた川とは別の方の川に乗って、岩にぶつからないように流されて行けばいい。
 その前に休憩だ。
 この辺は岩が沢山あるから助かるが、流される時は本当に気をつけないと死ぬ。
 近くの岩によじ登ってみた。
 ……あ?

「なあゾーイ。岩の上に人間がいるんだが、食うか?」

「人間をみたら食べようとするの、やめなさい」

 ゾーイがそういいながら岩に登って、岩の上の彼女に目を向けた。
 印象的な赤い髪は岩の上で広がるが、顔は髪とは裏腹に真っ青だ。
 細い手足には傷が多く見られ、左手の人差し指と中指は変な方向に折れている。
 微かに呼吸音が聞こえるが、もう死ぬんじゃないか?

「起こしてみましょう。リュカは魚を釣っておいて」

「助けるのか?」

「出来る限りね」

 仕方ないので、釣り糸を川に垂らす。
 デカくて美味い魚釣れっかな?

「起きて、あなた」

 ゾーイが赤髪を揺さぶっている。
 そんな優しい起こし方じゃ、起きねーよ。
 俺は赤髪の折れている指をぐらぐらと触る。

「~~ぁぁああああ!!」

 赤髪は飛び起きて左腕を掴み痛みに悶えだした。

「ちょっとリュカ!」

 ゾーイが怒っているが、プイッとそっぽを向いて釣りに専念する。

「全くもう……」

「うぅ、痛い、いたぃぃい」

「ごめんなさい。あなた、大丈夫?」

 ゾーイが赤髪のそばにそっと寄って、肩を抱きしめていう。
 しばらくして落ち着いた赤髪は、ゾーイと俺を見て困惑していた。

「あの、あなたたちは?」

「私はゾーイで、彼はリュカ。一緒に旅をしようってことになって川をのぼって来たのよ。でも休憩しようと岩に登ったらあなたを見つけた」

「……故郷はどちらで?」

「私はシギリスから」

「え、あの古代遺跡の方ですか?」

「ええ、古代遺跡が暴走して、私以外は生きているかわからないけれど」

「そうなんですか……。リュカさんの故郷はどちらで?」

 故郷って何ってところからなんだが?
 困ってゾーイを見る。

「……リュカって生まれた場所の名前とか知ってる?」

「知らん」

「じゃあ村の長の名前とかは?」

「村が存在するのか? 行ったことないんだが」

「……生まれてからずっと家族以外と暮らしたことなかったの?」

「ああ、俺たちの血筋は人とほとんど関わってはならない。そういう重罪を背負ってるからって、言い伝えられてたし、それを守ってた」

「それってどんな罪?」

「さあ? 俺は知らない」

「そんなの守る意味あるのかしら……」

 俺は言われた通りにしてただけだから、よくわからん。
 それにしても故郷か。
 故郷の名前かどうかはわからないが、一つ名前を知ってるな。

「そういえば、俺たちの一族はブレイデンって名乗ってたぞ」

「ブレイデン? 聞いたことないわ」

 当然だな。
 俺たちは人と関わって来なかったし。

「私は聞いたことある気がしますけど……思い出せませんね」

 赤髪が妙なことを言う。
 知ってるはずないから、似たような名前のものでもあるのかもな。

「それよりお前は誰なんだ?」

「あっ! 私はイナジーマの島から来たクラハと申します」

 イナジーマの島?
 島っていうと、海の向こうの陸だよな?

「まさか、海の向こうから来たのか?」

「はい、そうです」

「どうやって来たんだ?」

「え? 普通に空を飛んで来ました」

 何言ってんだこいつ。
 ゾーイの反応も見たくて顔を向けると、ゾーイも俺を見ていて、どういうことかわからないという顔をしていた。
 
「あー、魔法って知ってますか? それで来たんですけど……」

「魔法を使える人間がいたのね。絶滅したかと思ってた」

「俺もお伽話だと思ってた」

「ひどいです! まだ生きてますよ! 見ててくださいね!」

 クラハは呪文を唱え始める。

「聖なる光よ、傷を癒せ!」

 クラハの折れた指がまっすぐになり、瞬く間に治った。
 すげぇ。
 これが魔法か。

「どうですか!」

「凄いわね。普通なら元に戻らないのに」

「これが魔法の力です!」

「なんでさっきは傷も治さず寝てたんだ?」

 俺は気になったことを聞いてみた。

「うっ、それは……空を飛んでいた時、魔力が枯渇しまして誤って落ちたんです。で、なんとか岩に登って、そのあと疲れてぐっすりと寝てしまいました」

「指が折れてたのは?」

「落ちたときにボキッと」

 なかなか大変だったみたいだ。
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