雨はやはり憂鬱で死ぬ

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囚われるなら楽しいほうがいいでしょ

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「で、先に弟が死んだから悲しいってことであってる?」

 ゾーイの言葉に頷いてみせる。

「あってる。ほら、よくあることだろ?」

「まあそうだけど、自分さえご飯として考える思考が理解できなくて困ってるわ」

 理解できないようなことだろうか?
 俺にとっては普通だから、よくわからない。

「…….弟さんはどうやっていなくなったの?」

「凄く強い雨が降る日に、川に流されていった」

「その川ってどこにあるの?」

「この川をのぼっていくと、一本の川が、ここともう一つにわかれているところがある」

「そのもう一つのほうが、流された川なのね」

「そういうことだ」

「弟さんを追いかけた?」

「もちろん。でも川の先の海まで行ったが、いなかったよ」

「海の先にはいかなかったの?」

「行ってないけど?」

「もしかしたら生きてるって思いたいなら、海の先へ行ってみない?」

「……なんで」

「弟さんを探しにいくの。ついでに青い空を見に」

「でも……」

「それに、弟さんが川をのぼってここまで来れると思う? 迎えに行ったほうがいいじゃない」

「……」

「弟くんに囚われるのもいいけど、せっかく囚われるなら楽しいほうがいいでしょ。私みたいに」

 確かにゾーイは楽しそうにダーリンの話をしている。
 たまに悲しそうな顔もするが、それでも泣いてる姿は見ていない。

「見てみたいって言ってたじゃない。今生きているのはあなたなんだから、あなたがしたいことをしてみてもいいでしょ」

「……怒られないかな」

 母さんも父さんも、私たちの一族は、人と関わってはいけない。
 人を見つけたら食い殺せって言われてるのに。
 本当はゾーイとこうしているのもダメなんだ。
 でもゾーイの腹に子供がいるって聞いて、弟を思い出してしまったから、殺せなかった。
 これだけでも怒られるのに、さらに夢を見ていいのか?

「怒られるって誰によ?」

「そりゃ母さんと父さんに」

「はぁ? あなたが二人とも食べ殺したんでしょ?」

「ああ、そうだ」

「だったらそれは、死人に口なし。親御さんは怒ろうとしても怒れないわよ!」

「でも夢に出てくるだろ」

「そんなのあなたが怒られると思ってるから出てくるの! 怒られないと思ってれば、出てこないわ!」

 そんなわけあるか。
 母さんも父さんも俺のなかにいるんだから、夢にくらい出てこようとすれば出てこれるだろう。
 ゾーイはヘンテコな自論を当然のように話すのが不思議だ。
 ……少しだけゾーイみたいに思ってみようかな。
 怒られると思ってるから、夢に出る。
 だから怒られないと思ってみよう。
 弟を探すためなんだから、きっと許してくれる。
 そう言い聞かせてみよう。
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